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人事のための面接ハンドブック⑥ “本当の”志望動機を探る

面接時に、すぐに実践できそうなノウハウを紹介していく連載『人事のための面接ハンドブック』。前2回は『強み』『弱み』をテーマに、応募者の方の持つ特性を立体的にとらえていくためのコツをお伝えしました。

今回はそうした特性を踏まえて、「なぜうちの会社に応募してくれたのか?」を探っていきます。

一般的には『志望動機』といわれる質問ですが、これも前回までと同様、「ただそのまま聞けばいい」ものではないことに注意しましょう。

『志望動機』という言葉のワナ

僕は応募者の方に動機を聞くとき、なるべく『志望動機』という言葉を使わないようにしています。理由は大きく2つ。

1つは、これが定番の質問であるために、みんな「きれいな答え」を事前に用意してくるからです。『強み』『弱み』と同じく、単純に「じゃあ志望動機を……」と尋ねてしまうと、応募者は整えられた文章をしゃべるだけで話を終えてしまう。

準備された答えは決して“嘘”ではないにしても、言葉の裏には「端折られた、でも実はその人らしさのある表現や想い」がどこかに潜んでいます。人事はそこをきちんと引き出す必要があると思うんですね。

もう1つは、動機というものはそもそもが流動的で、複合的なものだからです。

自分が惹かれる理由って、実際は本人もきちんと分かっているわけじゃないし、それを話す時と場合、相手によっても変わる。これを通り一遍な聞き方をしてしまうと、「面接官のメモに残る」ことを想定した、無難なメッセージしか引き出せなくなってしまうんです。

目的は、モチベーションのありかを見極めること

例えば、『志望動機』として尋ねた結果、「御社の事業モデルに可能性を感じて……」という言葉が出てきたとします。よくある答えですよね。

ただ、その言葉を口にするすべての人が本当にビジネスモデルに興味があるかというと、実際そうとも限らない。中には、「成長してる事業があるなら、将来安定できるはず」と考えるAさんだっているでしょう。

この場合Aさんが見ているのは、実はサービスや商品の魅力そのものよりも、「安心できる雇用環境」だったりするわけです。その会社が成長軌道に乗っている結果、例えば残業が多いような状況があると、この応募者さんの価値観とは合わず、ミスマッチを招いてしまいます。

一方、同じ企業の面接を受けたBさんは、自分の成長のために「成長事業の中で、多少ハードな状況にも挑戦したい」価値観を持っているとします。しかし、『志望動機』を尋ねられたとき、用意してきた答えがやはり「事業モデルの可能性」という言葉のみで、個人のチャレンジ性を口にすることはなかった。

どちらかを採用するのであれば、Bさんの方がマッチしているのは明らかです。ただ、どちらも動機としては全く同じ答えをしている。この聞き方では、2人のモチベーションを見誤る可能性があるんですね。

表に出てくる言葉と、実際のモチベーションの在りかに“ズレ”はないか。働く人にきちんと活躍してもらうために、ここは人事がきちんと見極めなくてはいけない部分なんです。

「他社だと◯◯さんもありですか?」

そこで僕がよくやるのは、「どうやってうち見つけてくれたんですか?」と投げかける方法です。

さらに、「他にどういう会社に応募されてるんですか?」「例えば**さんみたいなところも受けられてるんですか?」とよその志望対象を聞いていったりします。すると、「いえ、製品のジャンルで見てるわけじゃなくて、実はトップを追いかけてる2番手の会社に入りたいんですよね……」なんて話が出てくるわけです。

そこから、具体的に「じゃあ◯◯さんもありですよね?」「ああ、ありですね」みたいな会話もできるようになると、応募者が本当にモチベーションを感じる部分とか、描いているキャリアなんかが見えてくるんですね。

人事の方はぜひ、そうやって「どんな状態であれば生き生きできるのか」「本当の意味で活躍できそうか」の視点を持って面接にのぞんでいただけたらと思います。「志望動機をどうぞ」と言われて上手にプレゼンできるかどうかだけで、意欲や可能性を判断することはできない、と覚えておきましょう。

(第7回「成功体験の背景を聞く」に続きます。)


北川雄士/Yuji Kitagawa

滋賀県彦根市生まれ。株式会社いろあわせ代表取締役。
広告代理店、ITベンチャー企業の人事部門責任者の経験を経て、2014年にフリーの人事として独立。これまでに数千人の面接を経て来た。2015年末にUターン。ひと・もの・まちを“掛け合わせ”、それぞれが持ついろや魅力を大切にしたいとの想いで、株式会社いろあわせを設立。現在『しがと、しごと。』をはじめ、行政や地元企業と共に地域発の採用の仕組みや場づくり・まちづくりを積極的に実践中。(TwitterFacebook

(編集:佐々木将史

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