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若手から部門長まで、“納得感”ある新しい不動産組織を目指す──イズミグループ(彦根市)

JR琵琶湖線・彦根駅を出てすぐ、線路沿いの3階建てビルに掲げられた「総合不動産業」の文字。ここは1990年の創業以来、賃貸や売買の仲介、宅地分譲、建築までを幅広く手掛けてきた、「イズミグループ」の本社です。

お客さまとのコミュニケーションが重要な業界にあって、同社はその担い手になる社員を着実に増やしながら、彦根密着で事業を拡大してきました。

そんなイズミグループですが、実は近年、離職と採用難が重なり、急な人手不足に陥るケースが出てきました。有効求人倍率も高まるなか、採用手法を見直さなくては……と動き出した同社の専務取締役・泉了樹郎さんは、2023年度『しが採用ゼミ』に参加して「採用以前に、会社のあり方を根本から見直す必要がある」と考えを変えたといいます。

では、自社の課題をどのように捉え直し、実際に今どんな改革を進めているのでしょうか。泉さん、そしてイズミグループで採用活動を長く共にしてきた人事担当の藤堂育子さんにお話を伺いました。

採用が「何とかなっていた」時代の感覚で苦しんだ数年間

——組織改革に乗り出すまでに、イズミグループにあった課題について教えてください。

:まずはシンプルに、人手不足で困っていました。離職者は以前も出てはいたんですが、特に2023年は、ある部門で退職が続いたんです。そこは1年中、窓口対応をしたりお金を預かったりと、業務を動かし続けないといけない部署でした。

緊急事態に慌てて募集をかけたものの、ここ数年は採用も明らかに難しくなっていて。「これは本格的にマズいな」と感じたのが、ちょうど1年ぐらい前になります。

株式会社イズミの総務経理部の藤堂育子さんと、専務取締役の泉了樹郎さん

——それ以前は、そこまで人手不足が顕在化していなかったのでしょうか?

藤堂:急に退職があって現場で困る、というケースはこれまでもありました。もともと人員を余分に抱えない体制ではあったので、離職者が出たら慌てて補うような状態で。その中で、お互いにそこまで納得感がないまま採用が決まり、結果としてミスマッチで続かない……ということも起きていたと思います。

:足りなくなるたびに急いで頑張って採用する、という対応を繰り返していました。とりあえず入ってもらって、うまく慣れてもらえたらOK、合わなかったら「ごめんなさい」となる。どちらかのパターンに早い段階で分かれていました。

もちろん、そうなることへの違和感はあったんですよ。ずっとモヤモヤはしていたというか……。

藤堂:何か間違ってる気がする、と漠然とは思っていましたよね。その場しのぎになっていて、これでいいのかなと。

:ただ正直、それまで僕らのポジションでは、「人事」って仕事がどうしても片手間になっていたんです。僕は経営に関わりながら営業の最前線にもいたし、藤堂さんは経理の仕事をやりながら採用も見てくれていて。だから、なかなかそこに全力投球しづらい状況がありました。

5年ぐらいまでは、それでも何とかなってしまっていたんですね。何だかんだ言っても、人も来てくれていましたし。それがここ数年、採用市場がガラッと変わって、以前の方法が全く通用しなくなってきました。

——「本当に採用できなくなった」と話す企業の方は確かに増えています。

:以前はとりあえず就職したり、僕らも内定を出したりするケースって多かったと思うんです。「実際に働いてみないと、わからないことも多いからね」って。でも今は求職者も企業も、お互いの納得感をすごく大事にするように変わってきました。

本質的に相手の良さを探るようになったのが、この5年間の世の中の変化だったと思うんですが、僕らはそこに気づかないまま過ごしてしまった。自分たちがずいぶん置いていかれていることに気づき、これはヤバいと感じて『しが採用ゼミ』に参加させてもらったんです。

現場で一人ひとりの声を「きく」機会を増やす

——『しが採用ゼミ』ではどんな気づきがありましたか?

藤堂:「採用」の方法以前に、まずは今いる社員がどうすればもっと幸せに働けるかの見直しが大事だと教えてもらいました。一人ひとりに対してそれが実現される状態をつくらないと、せっかく採用しても結局辞めていってしまいますよね、と。

言われたら当たり前のことなんですけど、当時の私たちは「その通りや!」ってすごく納得しました。小手先のことをやって着飾っても、ダメなんだなって気づかされました。

:会社が本気で社員の幸せを考えないといけない。そのために人事がうまく立ち回る必要があるんだと理解すると、課題もたくさん見えるようになってきました。

例えば、うちは創業者である社長が先頭に立って道を切り開いてきた会社なので、トップダウンが強いところがあるんです。それはいい面もあるけど、今の若いメンバーとの間に、価値観のギャップが生まれている側面もあって。

僕自身ももともと、仕事って「社員が会社のやり方に慣れていく」ものだと習ってきた人間です。だから、今の「会社が社員の幸せを考える」という価値観が自分の中にあまりなくて。そのズレに気づくきっかけもたくさんもらいました。

藤堂:4回の講座で、毎回いろんな学びがあったんですよ。だから毎月ゼミのあと、車で1時間かけて帰りながら、泉専務とずーっと「あの話よかったよね」「うちでもこれしないとダメですね」って話して。それをもとに、できることから少しずつ取り組むようになりました。今すごく意識しているのは「面談」ですね。

:社員と話す機会を増やすと、いろんな意見が出てくるようになりました。例えばこの前も、ある店舗の営業時間について、閑散期は誰も来ないのにずっと開けている日が続くことがわかったんです。「え、そんなの無駄やから変えよう、帰れる時期はもっと早く閉めよう!」って言うと、「そんなんしていいんですか️!?」と返ってくる。

こういうことを言えないまま抱えていたことが、離職につながっていったんだろうなと思いました。もちろん面談も、今はまだ全員とできているわけじゃないので、もっと意識的にやる必要があります。

藤堂:何か悩みを抱えても、泉専務に直接「話聞いてください」って言い出せる社員だけじゃないんです。やっぱり言えなくて、もんもんとして辞めていっちゃう人がいなくはないので。もともと専務は話しやすい人柄ではありますけど、面談としてきちんと日程に組み込むことを考えています。

面談の風景(提供写真)

——現場社員の方の思いを、どんどん可視化していこうとされているんですね。

:それをどうするかは走りながら考えているので、課題としては積み上がったままではあるんですが……。でも問題に気づく感度だけは、ゼミを通して確実に上がったと思います。「退職金制度がないのは怖い」と言われて、その通りだなと対策を考えるようになりましたし。

評価制度も、これまでは最終的な実績ばかり重視されて、不満を生んでいました。なのでもっとプロセスや業務に取り組む姿勢など、多面的に評価できるものにつくり直そうと考えています。

思いを伝えて進める、多部門を“横”につなぐ仕掛け

——変化といえば、組織づくりに関係するところで、新しいメンバーも増えたと伺いました。

:ちょうど僕らがゼミに通っている最中に出会った方々が、今までにないタイプだったので、お願いして来ていただくことにしました。

お一人はもともと秘書を数十年されて、上場企業の秘書グループも束ねられていた方です。彦根に引っ越されてお仕事を探されるタイミングが、冒頭でお伝えした「緊急事態」に対する募集と重なって、偶然にも入社いただくことができました。

最初はその不足していた部署に急ぎ入っていただいたんですが、半年ほど経つタイミングで、人事のほうに移ってもらっています。ゼミを通じて考えていたことを伝えたら、僕らが何を目指そうとしているかもすぐ理解してくださいましたし、そこに起きうる問題についても予測をされている。今後、さまざまなアドバイスを期待しています。

——会社を変えたい、という決意が伝わったのが大きいように思います。

:だとうれしいです。そして人事ではないけれど、経営と現場の間に立って、組織のつなぎ役として活躍いただけそうな方にも入社いただけました。不動産業界で長く務め、かつ前職では営業現場の責任者として、ボトムアップのチームづくりもされてきた人です。

イズミグループはいくつもの部門が、それぞれ独立採算で動いているので、どうしても“縦割り感”が強くなってしまっていました。その方にうまく入っていただきながら、各部門を横で結んでいくような仕掛けが今後できたらと考えています。

——先ほどおっしゃっていた「実績以外の評価」の話とも関わってきそうですね。部署間の連携は、直接自分たちの数字にならないこともあるでしょうし。

:その通りです。“総合不動産”を掲げていても、各部門が「自分の成績にしたい」という思いが強すぎると、お客さまの本当のニーズからズレてしまうことがあるんですよ。昔それで社内がギクシャクしたこともあって……。

ただ最近は「賃貸でご相談に来た方のお話をしっかり聞いていった結果、売買の部門につなげたらすぐ購入が決まった」みたいな理想的なケースもあって、そういう事例がもっと増えるようにしたいと考えていました。今回新しく現場と経営の間に入る方には、こうした思いを予めすべて伝えて、「一緒にやりましょう」と入社を決めていただきました。

その人の提案もあって、手初めに今、自然と部門を超えて成功した事例を洗い出そうとしています。経緯がきちんと見える化されれば、それを再現するためにどんな情報が必要かが見えてくる。データが集められるようになれば、僕らがお客さまに提案できることの可能性も、どんどん増えていくんじゃないかと思っています。

すべての社員が“納得感”を持って働ける会社に

——藤堂さんは、泉専務が入社されるよりも前からイズミグループで働かれてこられたと聞いています。今起きようとしている変化をどのように感じてらっしゃいますか?

藤堂:率直に、すごくわくわくしていますね。私は創業者である社長の傍で、社長自らがいろんなことを発想されながら会社を切り開いていくのをずっと見てきました。専務はそのビジョンを引き継ぎながら、今の時代にあわせて、社員がより納得感を持てるようにしたい、と考えている方です。

「こんなことをやりたい」と掲げて、みんなをうまく巻き込んでいかれるタイプなので、そのお手伝いができたらと思っています。

——“納得感”は大事なキーワードだなと感じました。

藤堂:それは若い社員だけじゃなく、部門長クラスもきっと同じなんです。ゼミを経て、部門長会議を毎月しっかり開くようになったんですが、そこでの声を聞いていてもとても重要だと感じています。

:部門長会議をやるようになると、いろんな改善要望が具体的に届くようになって。それだけ彼らの中に、チームを率いるうえでの課題意識があり、実際に部下から「こうしたい」と寄せられた声があったんだと思います。ただ数字目標を持たせて、達成できたかどうか、できなかったらそれはなぜかを詰めていくだけでは、もう人は動かない時代なんだと痛感しました。

僕としては、部門長にはより一層経営側の状況や視点も理解してほしい、という思いもあります。なので、そういう視座を持ってもらえるような動きが経営者として必要ですし、若い世代を育てるにあたってどんな環境にしていくか、今度は部門長と一緒に考えていけたらと思っています。

藤堂:直近の部門長会議、すごく前向きでよかったんですよ。先ほど情報を集める話がありましたが、それがちゃんと集積されて使えるようになったらこんなこともできるよね、みたいな話がたくさん出たり。いよいよ次のフェーズへ来ているのを私は感じました。

——ありがとうございます。最後に改めて、今後取り組もうとされていることを教えてください。

:採用に関しては、特に新卒に注力していこうと思っています。これはもちろん人が欲しいのもありますが、次の世代が入らないと、今いる社員がずっと同じポジションに止まり続けるからです。みんなのステップアップのためにも、しっかりと新卒採用ができる会社になりたい。そのために、社内にいる学生のアルバイトたちの言葉を聞きながら、若い世代のニーズを必死で探っている状態ですね。

もう一つは、評価やキャリアアップの仕組みをつくり直すことです。1〜2年である程度カッチリと、満足できるものを仕上げたいと思っています。それができれば、先ほどお話ししたような、部門間の連携もしやすくはるはずです。

不動産会社って、普通は賃貸だったり売買だったり、どこかに特化するケースが多いんですね。そこを僕らが“総合不動産”として、彦根、あるいは滋賀県でなら「住まいのことはイズミさんやね」と言われる会社にしていく。それが実現できたら、社員にとっても誇りだと思うし、「ここで働き続けたい」と思ってもらえる会社になれるかなと考えています。

(取材・執筆/佐々木将史、編集/北川雄士、アイキャッチ/武田まりん


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