性愛とプラトニックの間で揺れ動く男心~青い麦~
浮気した男の気持ちっていったいどんなものなのか。覗けるものならみてみたいと思うのは私だけだろうか。
遊びなのか本気なのか女としてはそこが大問題なわけなのだ。
今回ご紹介する「青い麦」は浮気相手である人妻カミーユ・ダルレイと幼馴染の間で揺れ動く男心が絶妙に描かれている。
本命になりたいけれど彼女がいる男との恋に苦しんでいるあなたや、逆に彼の浮気に苦しんでいるあなたに是非読んでいただきたい1冊である。
舞台となるのは避暑地として毎年訪れている海。16歳の少年フィリップと幼馴染の少女ヴァンカそして年の離れた人妻との奇妙な三角関係を描いた物語。
フィリップとヴァンカは大人になったら結婚するんだろうなと、お互い漠然と思っているものの、幼馴染の関係から脱皮できない、大人からみるとなんとも微笑ましい、プラトニックな愛で結ばれている。
そのふたりの間に人妻という妖艶な大人の女が登場し、ふたりの関係をかきまわすのだ。
恋の手ほどきを受けるために、夜な夜な人妻の元に通い、大人の男へと脱皮していこうとするフィリップ。
少女と大人の女の間で揺れ動く少年の心の動きが実に面白い。男のづるさが垣間見える心のつぶやきは、浮気に走る男心を見事に物語っている。
彼は、はっきりそこに行きたいたい気持ちがあって、なにか計画があって、その時間のことを考えたのではなかった。ヴァンカが不機嫌だったので、別の避難所、別のやわらかい方の方に行くほかないという気持ちだった。(中略)あそこには、彼に必要な、そして病気に効くもう一つのあたたかさがあった。
人妻のところに行くのは、ヴァンカでは満たされない何かを求めてだからであり、愛だとか恋ということではないのだ。
男のづるさというか本命にも浮気相手にも失礼だと思う。16歳の子供だからそうなるというわけではない。これはどの男にも共通することである。
こんな感じでヴァンカと人妻の間を行ったり来たりしていたフィリップであったのだけど、別れはある日突然やってきた。
人妻が避暑地から発ってしまったのだ。その事実を知る前
ぼくは恋に我を忘れていないし、デートの時間を待ちわびてないし、それにひまわりが光の方を向くように、ケル=アンナ(人妻の別荘)のほうばかり向いているわけでもないからな。
と思っていた。そして
あの人が行ってしまったところで、どうということはないじゃないか。あれは僕の情婦で、恋日じゃない。あの人がいなくたって、僕は生きていけるぞ
なんて強がりを言っていたのに、涙がこぼれ落ち、肉体的な異常な痛みが彼を襲ったのだ。
うわべだけの強がりも、腹の底の冷笑も吹き払われて、あとは、むきだしになった寒々とした心の表面と、カミーユ・ダルレイの出発が引き起こした深い空虚感しか残らなかった。
彼はカミーユを失った苦しみにのたうち回ったのである。これはいわゆる行動経済学でいうところのプロスペクト理論というやつだ。人は失ったものに大きな価値を感じるものなのだ。
ある日突然いなくなったカミーユの価値が爆上がりし、ただの情婦であったはずなのに、恋焦がれる相手に変わったのである。
このテクニック恋愛がうまくいかなくなった時、最後の手段として使えることをお伝えしておこう。
人妻がいなくなったところで、お終いではない。フィリップに更なる試練が待ち受けているのだ。
その試練とは浮気バレである。ヴァンカに問い詰められ、窮地に立たされたフィリップ。もう二人の関係もお終いかと思いきや、なんとプラトニックな関係を卒業し結ばれるというとんでもない展開になっていく。
「なぜ? 」と思ったに違いない。それは嫉妬と彼を自分のものにしたいという思いから肉体でつながろうとしたからなのだ。
ここでまた男と女のずれがある。ヴァンカは彼と一つになれたことに喜びをみいだしていたのに
彼は喜んで当然だのに、うれしがるどころか、裏切られた気持ちだけが強く以下省略
男は失望したのである。この温度差は一体何なのだろう。この疑問はご自身で読んでなぜだか考えていただきたい。
結局のところ人妻との関係がふたりの幼い恋愛を脱皮させたと言えなくはない。雨降って地固まると言ったところだろうか。
降り注ぐ困難をポジティブにとらえ新しい関係に発展させることができたと考えることもできる。
うーんだけれども、なんだかしっくりこないのだ。終わり方がモヤモヤさせるものだからかもしれないが、温度差が気になってしかたないのである。
「青い麦」は若いカップルに訪れたほろ苦いひと夏の恋愛物語を描いたもので、その後ふたりがどうなったのかは、書かれていない。
もしもこの後、物語が続き、またしても人妻がそこに登場したら、ふたりの関係はどんな展開をするのだろう。
ヴァンカは本命の座を保ち続けることができたのだろうか。
そんなことを考えながら文章をしめくくりたいと思う。
参考文献「青い麦」コレット 集英社文庫
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