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【過去の社内メッセージより】本の出版に関して

2010年より、SHIFTの社内向けブログにさまざまなメッセージを書いてきました。そのメッセージをより多くの方たちに読んでいただきたいと、noteに転載したいと思います。

(SHIFTの社内向けブログ2014年5月27日)
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2014年5月30日(金)に、個人としてはじめて本を出版することになりました。自分のことをさらけ出すのはかなり恥ずかしいのですが、こうやってまとめてみると、自分のしょぼさ加減にうんざりします。

ちょうど1年前(2013年2月)くらいだったと思います。シフトとしてそろそろ本を出版してみようと感じたのは。

それは、シフトのソフトウェアテスト事業としての技術本にするのか、それとももっと広義の意味で、シフトという会社の想いを伝えるための本にするのか、悩みながらでした。

いまのシフトのソフトウェア事業としての技術本は、いろいろな会社から多くの本が出ています。ただ、この業界でそこまで論理体系がしっかりとした本はあまり見たことがないです。それを書くことも大切。

ただ、本当に自分がどういう思想でシフトという会社をつくったのか。なぜシフトである必要があるのかを、想いをまとめた方が、中身が濃くなるなと思い、シフトという会社を伝える本を書くことにしました。

どうせ本を出すなら。

「圧勝(ハイコンセプト)」という言葉が大好きな僕の性格からして、単に本を出版するというのは、これまでの生き様に反する。そんな程度であれば、本なんて出さない方がいい。そう思って取り組みをはじめたのが2013年の春でした。

技術本じゃなく、ビジネス本なんだろうなと思い、前職でもお世話になった出版社さんにお声がけさせていただき、自分の想いをぶつけてみました。

最初の打ち合わせは、自分が本を出したいと言ってはじめているのに「なんで本を出す必要があるんですか?」って出版社さんに聞き返してしまった。

担当者の方は、変人と出会ってしまったと思ったことでしょう。そしてその返答は「私も、起業家の方の自画自賛本を出すのは嫌いです。」と、おっしゃられた。

僕との相性は抜群だった(笑)。

その出会いから、数々の打ち合わせと、出版延期、人のグリード(強欲)にまつわる議論、本としての本当の価値をぶつけ合い、やっと完成したのがこの本です。

いまの世の中、ブログを書けばタダで瞬時に、多くの人にコンテンツを届けることができる。なぜ本なのか。なぜ紙なのか。

・消費されるコンテンツ
・アーカイブ(保存記録)されるコンテンツ

コンテンツは、この2つに集約される。つまり、消費されるコンテンツは、いま流行の、毎日届くニュースサービスでいい。そして、ドラッカーのような真理として時代を超えて語り継ぐべきコンテンツが、本としての意味をもつ。紙である必要は、読者への届けやすさだと思う。電子ブックとの使いわけだけ。

ただ、この事実に気づいた瞬間、なおのこと、本を出版する意味が薄れた。

そう、僕はドラッカーを超えるほどのコンテンツを提供できるのか。著名な経営者ほどのコンテンツを提供できるのかという不安だった。

それでも、何か自分のなかに沸々とマグマのように湧き出るこの感情を表現することができるかもしれない。

「人はみな違う」

多くの人がそう言うのであれば、本を執筆することで、それをあぶりだすことができるかもしれない。それを伝えることで、誰かの人生に良い影響を与えるかもしれない。

そんなことを思いながら、とにかく自分の思想や、過去の経験、未来への期待をまとめはじめました。

「本当に本を出す意味ありますか?」

最後の最後の打ち合わせでも、いつもこの言葉を発していた。出版社の方からすると、メンドクサイ仕事仲間。

何かが納得できない、とにかく自分が気に入ったものを世に出したい。僕の経験したことをバラすと、競合他社が読んで、盗まれる。たった1,500円程度で、それを出す意味がわからない。

できあがった本を読んだ時、僕の心に2つの感情が湧いた。

・あー、これで全部の想いを吐き出した。僕の40年の歴史が幕を閉じた。
・それにしても、内容が薄いな。「第三の価値観」を創りたいと言っている割に、何もまとめてないじゃないか。

そう、本を出す意味をはじめて見いだしたんです。

寿命が80年だとして、人生の半分である40年を生きてきて、自分がやってきたことの棚卸しができたと。そして、それは僕という人生の新たなスタートであると。過去は捨て、まっさらなキャンバスを目の前に用意され、生きている意味、僕という存在意義を問われているのだと。

製造業で培った「生産管理・品質管理」という人類の英知を、ITという新しい産業に適用し、労働から人を解放しよう。そして、その活動によりできた余白の時間に、本来人間が求めている「喜び・悲しみ・驚き」のような人が人である存在意義の部分へ、新しい価値を提供しようと。

それは、会社を通したサービスという側面からスタートするが、HowからWhatを経て、社会主義でもなく、資本主義でもなく、「第三の価値」というものを定義し、本当の意味での「豊かな世の中」にすべくシフトは存在するのだと。

もしかしたら、それを実現するためには、会社という組織形態ではないかも知れない。

「盗んじゃいけない、嘘をついてはいけない、人にはやさしく」といった全ての人に仏陀を求める訳ではなく、人はグリード(強欲)をもった生き物であるという事を尊重したうえで、それが表面化しない世界を築く、つまり人間を尊重した概念をつくりたい。

僕の残りの40年は、これに人生を捧げたいと思った。

そんな無名の起業家のワガママに1年もの歳月をお付き合いいただいた編集部のおふたりには心から感謝すると共に、このようなチャンスをくれたシフトのメンバーには、この書籍をもってお礼をしたい。

ハリウッド女優のドリュー・バリュモアさんが出演している
『50 First Dates(50回目のファーストキス)』という映画がある。

プレイボーイの主人公が、ある朝カフェでドリュー・バリュモアに会う。一目惚れし、彼女を口説く。彼女との話も盛りあがり、翌日も同じカフェであいさつをする。

しかし、彼女は覚えていない。そう、彼女は1日だけしか記憶できない。

プレイボーイの彼は、もう女性と遊ぶことをやめ、毎朝彼女を楽しませ、デートに誘い、映画を見て、一生懸命自分を覚えてもらおうと努力した。そして、その結果、彼女と結婚をし、子どもも授かった。

でも、彼女の記憶はたったの1日しかもたない。

だから、なぜ彼女と出会ったのか、2人はなぜ愛し合い、結婚をし、子どもを授かったのかを、1つのビデオテープに収め、毎朝彼女に見せた。それを見た彼女は、毎朝感動し、そして隣で寝ている見知らぬ夫と子供を愛し、幸せに1日の眠りにつく。

小学校の時に受けたトラウマから、生きてる心地がしない僕には、この映画の意味が痛いほどわかる。

このトラウマがあるから、毎日寝る前に「明日も生きてられるかな。このまま目を閉じたら、深い眠りにつくかもしれないな。死ぬ瞬間はこんな感じで記憶がなくなっていくんだろうな。」と思える。

「僕は毎日生まれ、毎日死んでいる。」

だから、人生が楽しい。毎日が新鮮。毎日、自分の存在意義をビデオテープのように回想している。そんなステキな毎日を、無名な起業家のこの本を手にとってくださったみなさんに届けられたら。


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