つらい…つらすぎる…神も仏もあったもんじゃない胸糞絶望クリスマス「悪魔のサンタクロース/惨殺の斧」【ホラー映画を毎日観るナレーター】(593日目)
「悪魔のサンタクロース/惨殺の斧」(1984)
チャールズ•E•セリアー•Jr監督
◆あらすじ
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幼い頃、クリスマス・イヴの日に両親をサンタの扮装をした強盗に殺されたビリー。内なる狂気を抱える彼が18才になった時、勤め先の玩具屋でサンタクロースの恰好をさせられ・・・。(DMMTVより引用)
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これは内容が内容なので、手放しで「面白かった!」などと容易に言っていいのかどうか難しいところではある作品なんですけども、本当に本当に素晴らしい作品でしたし、色々と考えさせられました。
過去の辛い経験による精神的な苦痛やトラウマ、またフラッシュバック等それに伴う症状などは、今日ではある程度理解が広まっているように思います。もちろんまだまだではあると感じる今日このごろではありますが…
今作は
『目の前で両親を殺されたビリーがそのトラウマを抱えたまま大人になり、あることがきっかけでその全てが爆発してしまい、凶行に及んでしまう』
という非常につらい内容となっており、誰かがどこかでビリーに寄り添い、もっと愛をそそいでいれば、絶対にこの凶行は止められたのに!と「これは映画だしフィクションだ」と分かっていながらもそう思わずにはいられませんでした。
本作は公開当時、ポスターやCM等による宣伝でサンタクロース姿の殺人鬼が登場することを強調したため、各方面で物議を醸し、PTAは公開中止を訴えたそうです。その後も映画館などに上映中止を求める群衆が押しかけたため、配給元のトライスターピクチャーズは公開の6日後には今作の宣伝を休止し、ほどなくして映画自体も上映が中止に追い込まれました。
その後、『クリスマスではなくクリスマスイブの出来事であること』を主張し、さらには本編におけるサンタクロース姿のビリーが斧や弓を持って凶行に及ぶシーンのアップをカットするなどの苦心が実り、上映中止のおよそ2年後、1986年の春という季節外れの時期ではあるもののひっそりと再上映されたそうです。
評論家からの評価も芳しくなく、ロジャー・イーバート氏は「恥を知れ。この映画は血で汚れた金で作られた。」と発言し、レナード•マルティン氏は「無価値なスプラッター映画だ。今度は小児性犯罪者イースター・バニー映画でも作るのか?」と罵ったそうです。
でも!
誰がなんと言おうと私にはめちゃくちゃ響きました。過去に何かつらい経験がお有りの方は多かれ少なかれ主人公ビリーに共感できるとともに「もういい!もうやめてくれ!」と思ってしまうのではないでしょうか。
現在DMMTV、U-NEXT、huluにて配信中です。
◇クリスマスイブの日に目の前でサンタクロース姿の強盗に両親を殺されたビリー。児童養護施設でも彼に寄り添う大人はほとんどおらず、さらには厳格な院長からは度を超えた体罰を日常的に受け、ビリーの心の傷が癒えぬまま18歳を迎えておもちゃ屋に就職する。真面目な働きっぷりで周囲からも認められていくも、トラウマは未だに払拭できておらず、クリスマスが近づくにつれて心は沈んでいく。そしてクリスマスイブ当日、事情を知らない店長からサンタクロースの格好をするように命じられ、どうにかこうにかこなしたビリー。しかし閉店後、思いを寄せていたパメラが先輩店員から性行為を迫られているところを目撃。あのおぞましい事件、院長からの体罰、あらゆることがフラッシュバックしたビリーはついに凶行に及ぶことになる。
というふうな流れで展開していきます。
あらすじを読んでいただければお分かりだと思いますがビリーは何も悪くないんですよ。目の前で両親を殺されて、幼い弟と一緒に児童養護施設に入れられて、誰にも相談できないまま「いたずらと性行為には罰を」という院長からの歪んだ教育を暴力とともに植え付けられ、いざ18歳になったら「社会に出てください!はいどうぞ!」なんて、あまりにもつらすぎます。
それでも、一生懸命働いて周囲の信頼を得ていくも、心の傷はまったくいえないまま、悪夢にうなされ、フラッシュバックに苦しむ日々。クリスマスイブには事情を知らない店長からサンタクロース姿になることを命じられても断れず、必死にこなすも心はもう限界。閉店後にはいつも仕事をサボってばかりの意地悪な先輩と自分が片思いしている女性店員が行為に及ぼうとしているわけですから、そりゃあもう心が崩壊するのは当然のことなんです。
つらい過去があるにも関わらず真面目に働くビリーよりも、仕事サボってばかりの性格最悪な先輩アンディーを選ぶパメラにもムカついてくるんですよ。アンディーから押し倒されて嫌がるパメラを見て、あの日強盗が母親を強姦しようとしている光景がフラッシュバックしたビリーからしたらただパメラを助けただけなのに人殺しと罵られたことでおそらくビリーは完全に壊れてしまったのでしょう。実際、そのあと店長や別の店員を殺害する際はもうすでに躊躇いがないし、表情も無に近いです。
その後も凶行は止まらず次々と殺人を繰り返すも、最後まで子どもにだけは手を出しませんでした。翌日にビリーは児童養護施設を訪れ、他の子どもたちや自分の弟が見ている前であの院長を殺害しようと斧を振りかぶった瞬間に警察から発砲を受けて死亡。しかし死にゆく中で子どもたちに向かって「君たちは安全だ、サンタはもういない」と残します。
おそらくなんですけど
犯人に復讐することが叶わない今、衝動的にとはいえビリーも罪のない人々を殺して、あの時の犯人と同じような立場になってしまいました。こうなった以上は自分が制裁を受けて殺されることで子どもたちを安心させるということをビリーは自分の使命と感じていたのではないでしょうか。
これ、何が悔しいかってビリーの心に大きな傷を負わせた張本人である犯人が、その後どうなったのかが描かれていないところなんです。もしかしたら捕まっているのかもしれないし、今でも犯行を重ねているのかもしれない。よくあるパターンで、『両親を殺された主人公が何年も掛けて犯人を見つけ出して復讐する』というのがありますけど、でも実際は今作のビリーのようにトラウマを抱えたまま生きていく人の方が大半でしょう。
『周囲に相談したり、適切な治療を受ける』という発想がまだ浸透していない時代だからこそ描けた物語なんだと思います。スプラッター要素もかなりありますが、そこが一番の見どころというわけではないです。今だからこそたくさんの人にもう一度見てほしいですし、再評価されても全然良い作品だと思います。素晴らしかったです。
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