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「消しゴム顔」③

 いわゆるフリーターとして何年か生きてきた。中には消したい過去もあるかって? 今日も私はバイトアプリを開く。面接の相手にいきなり
「あれキミどこかで会った?」
と聞かれたり。ナンパはやめてよ。
「いいえ」
そんなこんなでアッサリ採用された。職場はアナログ漫画家の作業場。私は絵心のカケラもないが消しゴムかけくらいはできる。ゴシゴシ。あれ、何よこれ? この消しゴム、顔が描いてある。それもプリントじゃなくて、金太郎飴式の同じ顔だ。
「それ先生の元カノが配ったのさ、引出物として」と先輩。
 似顔絵消しゴム? ドキ。実は身に覚えがあった。今から三つか四つ前のバイトはカマボコ工場で同じ製造ラインで消しゴムも作っていた。
「やべっ客の写真なくした」
「しょうがねえなあ、キミちょっと顔貸してよ」カシャ。わけもわからず私の顔はカマボコにされた。あれは消しゴムだったのか。

「だから初めて会った気がしなかったのか」
漫画家先生よくみるとイイ男だった。

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