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あなたは赤魔道士を知っているか。「器用貧乏」という生き方の未来にあるもの。

私はむかしから、だいたいのことは何でもできた。

・・・というと、まるで「誰かおれを負かせるやつはいないのか」と戦いに明け暮れるラスボスの過去編が今から始まるのかと思われそうだが、そんな大げさな話ではなく、ただフツーのことはだいたいフツーにできてきた。

そのぶん、なにか突出して極めているかというと、だいたいのことはやっぱりだいたいしかできない。

私は「これだけは人には負けない」というものが本当になにひとつ無い。
もうそれがコンプレックスなくらい、無い。

こんな「器用貧乏」な人生だが、小学生のころにあるゲームで出会った「赤魔道士」というキャラクターが、いまもそんな人生の根っこを支えてくれている。

***

当時、スーパーファミコンに「ファイナルファンタジーV」というRPGがあた。

このゲームには、モンスターと戦うために「ジョブ」と呼ばれる職業を選択するシステムがある。

ジョブには剣で戦うナイトや、火や雷で攻撃する黒魔道士などさまざまあった。
その中で、当時の私は「赤魔道士」というジョブにとても、心を惹かれていた。

出典:FF-TCG 赤魔道士 10-001C丨Amazon

このジョブはなんと、回復の「白魔法」と攻撃の「黒魔法」の両方が使えた。
しかも魔法使いなのに、ナイトと同じく「剣」まで装備できる。
モノトーンのイメージが強い魔法使いとは一線を画した、情熱的で赤いローブも抜群に”粋”だった。

ゲーム中盤で、こんなにオールラウンダーっぽいジョブへ転職できる権利を手に入れたとき、まるで自分だけの裏技を見つけたかのように「絶対有利じゃん!」と前のめりでジョブチェンジ(転職)したことを覚えている。

しかし、もちろんそんな都合のよいことばかりはない。

ファイナルファンタジー5完全攻略さんのサイトで赤魔道士は以下のように紹介されている。


白魔法と黒魔法の両方を使えるだけでなく、シーフよりも強い力があって剣も装備できる優等生。

……と最初は思えますが、実際には白・黒魔法ともにレベル3までしか使用できず、しかも魔力が他の魔道士系ジョブに比べて低いので、回復量もダメージ量も低くなってしまいます。

物理攻撃についてもナイトや侍には遠く及ばず、盾が装備できないのも欠点。

魔法も物理攻撃も中途半端なので、通常はあまり役に立たないでしょう。

引用元:ジョブ丨ファイナルファンタジー5完全攻略 

すばらしい解説。

そう。
各魔法は6段階までランクがあるが、赤魔道士が使える魔法は3段階まで。

剣は装備できるが、ベースは魔法使いだから力がそこまであるわけでもなく、あんまり立派なものは使いこなせない。
ゆえに、防具に関しても基本はフワッとしたものしか装備できない。
なので、防御力も低くダメージも受けやすい存在だった。

こんなもんが、物語の終盤まで活躍できるわけがない。

当時の私は、時間をかけて赤魔道士を育ててからこの事実を知った。
ふつうなら「なんだよ!育てて損した!時間のムダだった!」と後悔する。

しかし、私は幼心にもこの「赤魔道士」をなんだか他人事には思えなかった。

***

幼いころは、なんでもできる人がカッコいいと思っていた。

なので、勉強もスポーツもまんべんなく”ソコソコ”できるように努力をして生きた。

でも大人になると、ある程度のことがある程度できても、あまり評価されないことに気がついた。
むしろ、ひとつのことに特化した何かを持つことのほうが生き抜く力になる場面が多い。

ひとつの物事を極めている人物と出会うたび、その研ぎ澄まされた所作や感性にリスペクトを覚えるようになっていった。
世界のこの現実を知ってから、赤魔道士にジョブチェンジしたあのときを思い出しては胸がつまる。

私の生き方はまるで赤魔道士だったな、と。

***

なんだか悲しい話になってきたが、そんな赤魔道士にも他を圧倒する切り札がひとつだけある。

それは「れんぞくま」というアビリティ。
その名のとおり「魔法を連続して2回となえる」ことができる。

現実なら、弁護士免許と医師免許の両方を持つくらいの類まれなるスーパースキル。
数あるアビリティの中でも、群を抜いて最強。
攻撃魔法を使いながら回復魔法を使うことができてしまうので、この次元に達すると赤魔道士は真のオールラウンダーとして極まる。

しかしながら、当然のごとく習得には常軌を逸した苦行が必要。

通常、各ジョブはモンスターを倒しながらアビリティポイント(ABP)と呼ばれるポイントを貯めて、これを自らのアビリティに変えていく。

各魔法は6段階あると言ったが、たとえば回復魔法の最高ランクはABPが100ポイント程度。

そこで「れんぞくま」だが、これはABPが999ポイント必要となる。

これは、まだ徒歩で日本縦断を目指したほうが早く達成するんじゃないかと思うくらいの時間と労力。
途方もなく地道な作業をひたすら耐え忍んでたどり着く境地。

まともにストーリーを進めているだけでは、とても集まらないポイント数だ。
話題づくりや”やりこみ要素”として、制作側が冗談で実装したとしか思えないようなアビリティだった。

そうはいっても「れんぞくま」は赤魔道士のような中途半端な人生に夢と生きがいを持たせてくれた。

「器用貧乏」でも突きつめて極めれば、他の追随を許さず、誰もがあこがれるオンリーワンのスーパースキルが手に入る。
そう思えるだけで、日々「劣等感」というモンスターと戦い続けることができた。

だから大人になったいまでも、いつか自分だけの「れんぞくま」を手にするべく、切磋琢磨して生きている。
心に情熱の真っ赤なローブをまとって。

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