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「加藤泉一寄生するプラモデル」@ワタリウム美術館

冬の入り口、毎日気温が乱高下して寒暖差でやられそうです。運がよく晴れた日、ワタリウム美術館「加藤泉一寄生するプラモデル」展へ行ってきました。

「加藤泉一寄生するプラモデル」展

「加藤泉一寄生するプラモデル」展(2023/3/12(日)まで)は、アーティスト・加藤泉氏がコロナ禍の折、昔生産された動物のプラモデルを取り入れて彫刻作品を制作したのをきっかけに、オリジナルのプラモデル制作まで突き進む過程の作品群が見られる展覧会です。

プラモデルのコラージュ作品

展覧会前半ではプラモデルと加藤自身の木彫やソフトビニールによる造形物を組み合わせた作品群が見られます。

展示会場(2F)

個人的に面白かったのは、作家の描いた油彩画にプラモデルの組立説明書を組み合わせたもの。

「無題」(作品No.3)
同上 部分

プラモデルの組立説明書に描かれている絵は、誰が描いたかわからないが、とても魅力的である。
この作品は、組立説明書をコラージュし平面作品にした。

展覧会キャプションより

加藤氏がキャプションで述べる通り、ぱっかり真っ二つに割れた動物たちは確かに魅力的です。こういうの、誰に依頼してるんだろう。普段は生物学の教科書・専門書向けの挿絵を描いているイラストレーターが描いているのでしょうか?

航空機や車両などのプラモの取説イラストはホンモノの設計図のミニチュア版という感じですが、対象が動物になるとそういう「ホンモノ」が無いので、「動物のプラモだけで有り得る絵」という意味で独自の世界を構築しているように思います。

オリジナル・プラスチックモデル

展覧会後半では、加藤氏がプラモ本体はもちろん、組立説明書や箱までデザインしたオリジナルプラモデルが展示されています。

「オリジナル・プラスチックモデル」

絵具で着色した石を組み合わせた作品をプラモデル化したもので、石の部分がプラモデル本体、絵の部分はデカール(プラモデルに貼るシールのようなもの)になっています。

実は私、今までプラモを作ったことがなく、「オリジナルプラモを作った」の重みが会場を訪れるまでいまいちぴんときていないところがあり……
展覧会会場でプラモデル制作を担当したメーカー・ゴモラキックの神藤政勝氏が本展カタログに寄せているテキストで、「今まで手掛けた現代アーティストとのコラボでは、既存の作品をフィギュア化するという発想だった。それに対して、加藤氏はプラモそのものを作品化する試みをしている点が革新的だった」とあるのを読んでから、ようやくこのオリジナルプラモ制作にかけられた熱量の高さが少しわかった気がしました。

きっと箱や取扱説明書の細部にも様々なディティールが仕込まれており、プラモ制作を経験してきた人はもっと解像度高くこの作品を鑑賞できるんだろうな……と思います。

展覧会会場4F

加藤氏の制作したプラモデルを取り囲む、おそらく作品の素材となったのであろうプラモの箱も圧巻です。

個人的にぐっと来たのは「プラモデル エデュケーショナル シリーズ 乳牛の秘密」。左側中央の搾乳シーンや牛乳が瓶詰めされるシーン、戦後の「明るい科学」像という感じがして好きです。

あと、同シリーズと思われる「平和をよぶ鳩」、「乳牛の秘密」に比べて熱量が高いネーミングでいい。

また、ワタリウム美術館の展示室自体も、各フロアの面積自体はそんなに大きくないものの天井高が高くとってあったり、採光部が大きかったりと息苦しくならない居心地の良い空間でした。

ちなみに完全に余談なのですが、今回はJR原宿駅からワタリウム美術館まで徒歩で20分ほど歩いて向かいました。

その時印象的だったのは、原宿駅前から少し入り組んだ通りに入るとひたすら小洒落たカフェや雑貨屋や美容院が立ち並びますが、合間にぽつりぽつりと本当に普通の住宅があること。そこに暮らす人の暮らしを思わず想像してしまいます。徒歩5分圏内に竹下通りがある生活、どんな気分なんだろう。(あとめちゃめちゃ「土地を売ってくれ」という人が来そう。)

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