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松尾貴史

キッチュこと松尾貴史さんのあの独特でいぶかしげな声質と、なんとも言えない謎の説得力を産んでいる語り口で、場の空気を少しだけ掴んで揉みほぐす感じが好きです。

それは物真似の似せ具合にも表れていると思います。




松尾さんは何でも器用にこなしてしまう芸達者なイメージがありますが、それは対象とする相手や空間やそのコミュニティそのものが近距離である事が条件であるように感じます。相手の懐に入れた場合にそのくすぐり方で力を発揮するといった能力だと。

なのでそのトークスタイルは独り喋りを長めに行うというより相手に話をさせてその主軸にアシストしていったり自己開示を促すような一種のカウンセリング的なものに手腕があるといった具合です。


それは同時に「いじり」的な気質でもあるという事なのだと思います。会話や企画の中でもメインを張ったりする事は勿論あるわけですが、どちらかと言うと主軸から少しだけズレる立ち位置からスポットが当たった時にその余白で存在感を示す事の方が得意なのではないでしょうか。

注目度や発言権の獲得の仕方が太田光さんと似ています。田中裕二さんという擬似的な主軸に対して太田さんがガヤ気味にボケる行為と同じように、松尾さんはピン芸なので政治家やオカルトなどの共同幻想指数の高いものに対してのアイロニーや、お酒の席のような砕けた場で行われる一芸をクオリティ高く仕上げるなど、その主軸の余白から懐に入るような行動原理は近いのではないでしょうか。これをもっとサディスティックに綱渡りっぽくすると大竹まことさんのようになるかもしれません。


そしてそのスポットの中での洗練の塩梅が絶妙で、そのバランス加減に惚れ惚れする瞬間が多々あります。

松尾さんの物真似の仕方は対象の喋り方の癖のようなものから入っていると感じます。その人の持つある種のリズム感みたいなものから似せようとしている感じです。声とかイントネーションよりそこを掴むのが上手いと思います。タモリさんがアクセントや盛り上がりを中心に強引に雰囲気を作り上げるのよりもう少し全体像から構築してるんだけど、ただ清水ミチコさんよりはきちんとパッケージングせず一点突破的です。

この雪崩式になるようでならずある一定のラインに留まる似せ具合が松尾さんの施しの上手さだと思います。



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