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BBQを家庭で10倍美味しく食べる方法

誤解を恐れずに言えば、日本人の大半はBBQを知らない。

なぜならば、日本の肉食文化は、江戸時代が終わってからせいぜい数百年。対して、諸外国は紀元前から肉を食ってるわけで、その歴史には到底太刀打ちできるものではない。

その中で、日本の肉食文化の倍近い歴史を持つアメリカ合衆国では、土着の文化としてBBQ料理というジャンルがある。

アメリカに住んでいたのにあまり知らなかったことの一つとして、このBBQ料理の食文化がある。

特に僕が住んでいたシアトルや、毎年のように訪れていたベイエリアでは、BBQレストランを見つけるのは多少苦労する。マイナーというわけではないが、めちゃくちゃメジャーというわけでもないからだ。日本で言うとタコ焼き屋ほどメジャーではなく、鯨料理の店みたいなもんだろうか。「探せばあるけど日常的に行くわけではない」感じだ。

では本場はどこかといえば、当然、アメリカ南部だ。テキサスやオクラホマといった、アメリカのフロンティアスピリッツが結集した場所である。

テキサスではBBQ料理屋は東京のラーメン屋くらいメジャーである。

メジャーである上に、高級店から大衆店まで幅広く、味も焼き方も店によって異なる個性を持っている。それもラーメン屋的だ。

BBQはアメリカ料理の中では破格の時間をかけて行われる。

バンズを焼いてパンに挟むサンドイッチやハンバーガーとは違い、数時間かけてじっくりと火を入れて肉をホロホロにしていく。

NetflixでBBQキングの対決番組があるが、日本の大半の視聴者はそれをみても「あー肉焼いてんなー」くらいしか思わないだろう。

ところがどっこい、全く普通の日本人が想像もしないような味がするのが、アメリカのBBQ料理なのだ。

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「え、ゆうて焼いた肉でしょ」と思う人は、イタリア人に「ゆうて茹でた小麦粉でしょ」、江戸っ子に「ゆうて切った魚でしょ」という言葉を投げつけるくらい想像力が欠如しているのである。

まず長時間かけてじっくり火を入れられた肉は独特の香りと柔らかさ、歯応えを獲得する。日本の料理でここまで時間をかけられるのはとんこつラーメンくらいだ。

そして何よりの違いは、BBQソースである。

まず、日本のスーパーにはBBQソースなるものがそもそもほとんど売ってない。

「ヨシダのグルメのたれ」でしょ?と思うかもしれないが、ヨシダのBBQソースと言うのは全く別の商品である。

もっと言うと、そもそもアメリカのBBQソースの種類というのは、ラーメンのスープの種類くらいあるのである。

なのに日本ではBBQソースと言えば、マクドナルドのナゲットのアレか、ほんのわずかなBBQソースしかない。

そこで僕は、長年、渡米する度にテキサス州オースティンの名店「Stubb's」のBBQソースを、オリジナルと辛口の両方を買って帰ってくるのであるが、結局辛口が美味いので辛口ばかり食べることになるのである。

他にも、とにかくアメリカにいく人にはご当地のBBQソースをお土産に買ってきてもらうのが楽しみだった。

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さて、その究極に美味しいStubb'sのソースだが、お土産として買えるのは全く別物である。

写真を見ていただきたい。本家Stubb'sのソースは見てわかるように液体なのである。これがトマトケチャップやマスタードくらいの粘度しかないのだが、なぜかお土産用は佃煮くらいの粘度になっていてなかなか出てこない。出てこないだけでなく、味としても完全に別物なのだ。

これはまあ、要するにラーメン屋のラーメンスープと、お土産用の粉末スープくらいの差がある。

アメリカではStubb'sのソースはどこのスーパーにもおいてあるくらいの定番商品で、ソースに迷ったらとりあえず買っておけば間違いがないと信じられているのだが、アメリカ人であっても、本場Stubb'sに行ったことがある人は数少ないはずだ。

これは、我々がいう「明石焼き」が、大半の日本人にとっては単なるソースのないたこ焼きとしか考えられないのに対し、実際に明石にある卵焼き(本来はそう呼ばれている)のお店に行くと、全く別物であることに驚くのと同じだろう。

何が言いたいかというと、「言葉だけ聞いてわかった気になる」のはかなり危険だということだ。

本家Stubb'sのソースは麻薬的である。そしてお土産用のStubb'sソース(全米のスーパーで入手可能)も、悪くない。逆にいうと、それすら使ってない日本のBBQは、BBQとは名ばかりの紛い物・・・は言い過ぎかもしれないが、とにかくBBQとして大切な何かが欠けているのである。昔、ワルシャワに行った時に、「ワルシャワで一番のお店」と紹介されているのがなぜか寿司屋で、しかもその寿司屋の寿司は全て砂糖がふんだんにまぶしてあって、美味いとか不味いとか以前に体が受け付けなかったことがある。BBQソースのないBBQはそれと同じだ。

しかしBBQソースはなかなか手に入らない。

しかももはやこの状況でいくら会社が休みに入っても「ちょっとオースティンまでBBQを食べに」なんて行けるわけがない。

ないないない。恋じゃない。

作るしかないのである。

かくして、BBQソース作りの旅が始まった。

最初はオーソドックスなレシピで、玉ねぎをフードプロセッサーでおろして、ウスターソースやケチャップ、ブラウンシュガー、リンゴ酢、日本酒なんかで味付けした。

これだけでも相当うまい。

もう市販の焼肉のたれなど使えない。ごめん。これは焼肉じゃないのよ。BBQなのよ。

そして第一回目のBBQソース作りが成功裡に終わったことで、僕の中である確信が芽生えつつあった。

実は親友の映画監督、エリック・マキーバーがオクラホマから持ってきてくれたお土産に、やたらフルーティでジューシィなBBQソースがあったのである。

最初に食べた時には「BBQソースにこんな解釈があるのか!」と衝撃を受けたが、今はもうオクラホマから友人の帰りを待つわけにもいかない。

しかし、もしかすると、あの時の「素敵なオクラホマ流BBQソース」を再現できるのではないか、と考えたのだ。料理とはつくづくロマン追求の旅であると思う。

あのフルーティさは、おそらくリンゴやベリー類。

そこでリンゴ一個丸ごとをフードプロセッサーで擦り下ろし、さらにキウイ一個も加えた。

玉ねぎは控えめに1/4だけ擦り下ろし、ケチャップ少々、A1ソースとリンゴ酢で煮詰めたものに、味の素と塩胡椒で調整。最近、味の素の加減の仕方がわかってきて、要は味の素は食材にある物質と結合することで旨味を引き出す性質を持っているので、実は表面に満遍なくかければ良い。

これに赤ワインも入れてさらに煮詰めるが、最後に禁断の技として、ラフロイグ10年を一雫垂らす。これが効く。ソース全体にスモーキーな香りが乗り、甘い口当たりになんとも言えない奥行きが加わった。

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こうして作ったBBQソースを友人に振る舞ったところ、非常に好評だった。

僕も朝、ターキーの切り身に自作のBBQソースとデジョンマスタードをつけて食べたら、美味すぎて衝撃を受けた。

すごいぜ味の素。そしてありがとうデロンギのフードプロセッサー!

そしてBBQの素晴らしさをぜひ一人でも多くの日本の皆さんと分かち合いたい!