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横浜のガンダムはエンジニアのブルーインパルスだ!

未踏のAIフロンティアプログラムで去年から一緒にメンターをやっている吉崎航さんがシステムディレクターを務める、横浜の「動く実物大ガンダム」を見に行ってきた。

18メートルもの巨大ロボットが歩行アクションをしたりしゃがんだり立ち上がったりする様子は、テレビやYouTubeやTwitterなどで既に散々流れていると思うが、根本的にビデオで見ると、やたら遅く見えたりCGのように見えたりするなあ、と思う人も少なくないだろう。

しかし実物は全く違う。ハッキリ言って、これほどブロガー泣かせ、YouTuber泣かせのネタもないだろう。なにしろ「実物は写真や動画とはぜんぜん違う」ということを写真や動画を使って説明しなければならないのである。

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写真だけ見てもできの悪いCGにしか見えないというのが最大の欠点かもしれない。

しかし、実際にこのサイズの人型のロボットがモーションする様は圧巻の一言である。ビル6階ぶんの大きさのものが、瞬時に3階ぶんくらいのサイズまで縮んだり伸びたりするのだ。これ以上速かったら危ない、としか思えないのだ。

このバカバカしさと圧倒的な説得力。これこそがこの展示の見ものといえる。こんなすごいものが1600円で見れるというのは、今生きている人類にとってものすごい財産だと思う。

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このチケット争奪の凄さというのは、もう大変で、僕もチケット販売時の10時に5人がかりでスマホをいじり、一発目のチケットはすぐ売り切れるだろうから最初から12時の回を狙ってなんとか入場券5枚と、ドック入場券5枚を確保した。

特にドック入場券は1時間あたり40枚しか発行されておらず、ガンダムを間近で見ることができる唯一の方法なので入手は困難を極めた。もうこれは愛情の勝利である。

ただもう寒い。雪すらちらつく気候だったのもそうだけど、完全に油断していた。これから行く人はもう完全装備で行くことをおすすめしたい。女性に関してはヒール厳禁。とにかく並ぶし疲れる。

一番衝撃だったのは、一応チケットは二時間制なんだけど、「ガンダムベース」という建物に入るには2時間待ちの行列に並ばなければならない!!!

もちろん出場のチェックはないので並ぶことができなくはないが、まあ普通に考えてこの寒空の下、二時間も外で待ったらコロナ関係なく風邪を引いてしまう。防寒対策は万全に!と強調しておきたい。中に自販機もないので、魔法瓶にあったかいお茶を入れて持っていったり、ホッカイロみたいなものをもっていくのを忘れないようにしていただきたい。

当然ながら、1/1スケールなので、マーキングというか、プラモデルでいうところのデカールが、もう嫌というほど細かい。

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実物大のプラモデルのような巨大さと、やはり圧倒的な説得力。「たしかにここにマーキングがないと危ない」と思わせるような迫力に満ちているのだ。

これまでの立像は、全く動かないので、「危ない(WARNING)」と書いてあっても、「まあ雰囲気でしょ」という感じだったのだが、今回のはガチで危ない。こんなものでも蹴られたら自動車は吹き飛ぶだろうし、人間などひとたまりもない。

写真を見てわかると思うが、このガンダムは腰の部分のジョイントで「浮いている」状態である。つまり「大地に立つ」わけではない。

これは、実際に接地させると、どういうダメージが本体に蓄積されるかわからないためで、今回は腰部のジョイントだけでちゃんとモーションがとれるかどうかの実証実験をしているという考え方もできる。

腰部を支える仕組みは「Gキャリアー」と呼ばれていて、今回のロボットのいわば心臓部は本体よりもむしろGキャリアーにある。

これを見て「二足歩行ロボットじゃないじゃん」と言うヒトもいるかもしれないが、もうちょっと冷静に考えてみてほしい。もしも本当に18メートルの巨大ロボットを作るとして最初から接地するように作るだろうか。

それはもう、危なすぎるのである。

そもそも今回、材料工学的にも機械工学的にも非常に新しいイノベーションを必要としていて、たとえば大トルクを発する減速機は、1:1000というこのロボットのためだけに開発された空前のもの。シミュレーターでなんども強度や必要なトルクを計算した上で作っているものの、どれだけ大変だったかは想像に難くない。

そしてこのステップは、真に自立歩行する巨大ロボットを作るためにはどうしても必要なものである。

そのためにいろいろな方法が考えられるが、ガンダムというキャラクターを"利用"したことで興業として成立させ、そのための技術開発ができたという点は特筆に値する。

少なくとも軍用だったり建設・建築用だったりといった、アニメの中で想定された用途では巨大人型ロボットはいつまでたっても開発されそうにない。合理性がないからだ。

しかし、興業としてなら成立する、という考え方で、実際に連日の大盛況で12月中のチケットは即完売、1月も完売間近、という状況だ。

そして一年半の興業のあとの予定はまだ決まってない。

たとえば、一年半後に取り壊しが決まるとして、もしも取り壊すのであれば、その前に地面に接地させてどのくらいの重量や負荷がかかるか実際に測定することもできるはずだ。

その時に得られる実測データは他のどのような方法でも計測することができない貴重なものである。

そして実際、僕はドックに登って間近にガンダムを見ることができたのだが

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ふつーにメチャクチャ怖いのである。

このロボットの腕が、暴走したら、ドックの5Fなど木っ端微塵に吹っ飛ぶ。

目の前で自分の身体よりも大きい腕が、すげースピードでワチャワチャ動くのは恐怖という他はない。少なくともこれが兵器だったらイヤすぎるのである。

オープニングセレモニーで富野監督が「人型であることの意味、そしてそこから感じられる、巨大ロボットの優しさ」といったようなことをおっしゃっていたが、たしかに、「いつでも殺れるぜ」というやばい腕の関節が"敢えて"こちらに向かってこないというのは「優しさ」という言葉に尽きるのかもしれない。

「ちょっとでもプログラムがミスったら死ぬじゃん」という恐怖は、このロボットじゃないと味わえないかもしれない。いやだってさ、この肩から腕の軸、絶対動くじゃん。当然、可動域にはハード的ソフト的制限がかかっていると思うが、それでも絶対動くし、へんな方向に動いたら見てるヒトは死ぬ。なかなかないよこういうレベルのアトラクションは。

だいたい、アニメだとこの手のお披露目イベントの日にロボットが暴走したり宇宙人が攻めてきたりして、「本当は戦う予定じゃなかったのに」やれやれとパイロットが搭乗して戦闘に巻き込まれていく、というのがお約束なのだが、この日は幸いなにも起きなくてよかった。

ブルーインパルスが危険スレスレの飛行をすることに、危ないだけで意味がないと思うか、それとも飛行技術の向上と実地データを得て、なおかつこれからの未来を生きる人々に夢と希望を与えていると考えるか。

僕は横浜のガンダムは後者だと思う。

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最後に人差し指を立てるガンダムの姿は、まるで

「これはまだ第一歩に過ぎない。まだまだこんなもんじゃないぜ」

と語りかけているように僕には見える。