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装甲が問題だ/『シャドウラン 5th Edition』コラム08

01 前口上


 この記事は新紀元社から発売されている『シャドウラン 5th Edition』日本語版ユーザーに向けた言い訳です。
 記事の閲覧・利用に関する前置きは下の記事を参照してください。


02 装甲が問題だ

 現在、テストチームでは「超人化」ルールの長期的影響を調査しています。「超人化」ルールはマンデインにも無限の拡張性を与える夢のルールですが、当然のことながらゲームのパワー・インフレは避けて通れません。もちろん、ルールを読み込んだPCが強くなるのは(程度問題とはいえ)許容できるのですが、「ルールを読み込んでいないPCが死にやすくなる」ことには注意が必要です。

 つまり、テストチームでは「敵NPCの攻撃力の強化を誘引するインフレかどうか」を重視しています。この点において、SR5の(すべての追加データを網羅した)パワー・バランスは既に危機的であることが分かっており、「ナーフの道」の記事で示したようにある程度の調整をしていく必要があります。

 テストプレイのごく初期の段階から、いわゆる「タンク」型キャラクターの装甲値とダメージ抵抗DPが高すぎることは危険視されていました。アーキタイプのタンクでさえ37DPのダメージ抵抗を持っており、アサルトライフルのダメージを充分止められるレベルに達しています。
 しかし、GMの立場から見て、こうしたキャラクターが「いつも」無傷で立っているというのはいささか許容しがたいものです。2~3点くらいのダメージはコンスタントに受けて欲しい、と思うのが人情でしょう。けれども、例えば【強靱力】3にアーマージャケットを着ただけのシャーマンが、タンクに向けられるべきDV15近辺の攻撃を受けると、だいたい一撃で気絶か悪くすれば即死します。
 SR5は「ヘイト管理ゲーム」ではありません。前衛と後衛のダメージ抵抗DPに20点もの差があると、GMが「前衛の数値だけ見て設定した攻撃力で後衛を即死させてしまう」うっかり事故が起こりやすくなります。


03 「電」の本気は見たくない

「超人化」ルール導入後に起こる未来を俯瞰すると、多くのマンデイン・キャラクターが最終的に2~4本のサイバーリムを入れるであろうことは想像に難くありません。マンデイン・キャラクターの最大のボトルネックは【精度】であり、【精度】を大きく改善する手段のひとつがサイバーリム(『Chrome Flesh』収録のCyberlimb Optimization)だからです。
 Cyberlimb Optimizationによって【精度】を改善できる道を(Chrome Fleshに掲載されているリスト以上に)広げることは何よりも優先されるべきですが、その副作用にも気を配らなければなりません。
 従来のルールでは、サイバーリムはエッセンス・コストと価格に比してメリットが少なく、唯一装甲を積みやすいことが利点でした。全身6箇所のサイバーリムに3点ずつ装甲を積めば18点もの装甲値を稼げます……稼げてしまうのです。先ほど「ダメージ抵抗DPに20点もの差があると事故が起こりやすくなる」と言ったことを思い出してください。
 リム1本あたり3点の装甲値が過大であることは明らかです。2点ですら許容できません。キャラクターの【強靱力】を基準にダメージ抵抗DPに上限を設ける(例えば【強靱力】×5DPまでとか)案もありましたが、サイバーリムが問題であるならばサイバーリムに上限を設けるのが順当だろうと判断しました。

 他方、Liminal Body(Chrome Flesh)に限って上限を撤廃するというプランも検討しましたが、「Liminal Bodyを積んだキャラクターが定番のビルドになっても構わないのか?」という問いに対する答えはNoです。「銃夢」シリーズに登場するモーターボール選手のような尖ったデザインの全身リム・キャラクターが増えるのは良いことです。しかし、「電」のようなケンタウロス型のキャラクターばかりになっても良いとは思いません。

 唯一妥協できるかもしれない点は、前腕部や下腿部のような一部の部分リムに、装甲値を積めるようにすることでした。しかしながら、「サイバーリム対応表」を作成している途中でこれも諦めました。「全体リム」と「部分リム」の中間的な「大部分リム」が存在できる余地はなかったのです。

サイバーリム対応表

 サイバーリムを利用するキャラクターが増えるのなら、もうひとつやらなければならないことがありました。分かり難いルールであったサイバーリムを使用した能力値の扱いについて、統一した基準を示すことです。
 これは、単純に「平均値を常に適用する」以外の道はあり得ません。そこで、テストチームから再三にわたって「サイバースカルの容量値の低さと入手値の高さが問題だ」と突き上げを受けていたこともあり、一工夫入れて「平均値の計算から頭部を除外する」という一文を入れました。この調整と、超人化ルールにより、生身の身体能力値を大きく下げ、サイバーリムによって補完するというビルドが現実的になりました。例えば、生身の【筋力】や【敏捷力】が1でも、両腕と両脚のサイバーリムが9なら平均値は37÷5(切上)で8になります。

 サイバーリムを利用した新たなビルドに道を開いたこと、超人化ルールによってリムを取りやすくなったことをもって、サイバーリムの利点であった装甲値とのトレードオフとなったのはこのような次第です。



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