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古代ギリシア神話 〜イリアス〜


イリアス。この単語を聞いて、なんとなく覚えている人は多いかもしれない。学校の教科書で一度は耳にするからだ。確か、古代ギリシア最古の文学だったかな?そこまで知っている人は素晴らしい。だが、このイリアスという物語が、どんな内容なのかまでを知る人は数少ない。古代ギリシアは古代ローマと並んで、現在の西洋世界の基盤となる重要な文明である。そんな彼らの最古の文学とは、いったいどんなものなのだろう?その内容を簡単にだが、駆け足で紹介していく。

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イリアスとは、トロイア軍とアカイア軍(ギリシア連合軍)との間で行われたトロイア戦争を描いた物語である。古代ギリシアの学者エラトステネスによれば、前1184年頃のギリシア世界が物語の舞台になっているという。イリアスは前8世紀に成立し、吟遊詩人ホメロスにより口承で伝わり、前6世紀のアテナイで文字として記録され、前2世紀のエジプト・アレクサンドリアでほぼ現在に伝わっている形となった。ところで、イリアスとはどういう意味なのか?イリアスとは、トロイアの別名である。トロイアは小アジア(現在のトルコ)に位置した国家で、塩の専売権を有していた。

イリアスで描かれるトロイア戦争。その事の始まりは、トロイアの王子パリスがスパルタ王の妻ヘレネの美しさに惚れ、強奪したことによる。激昂したメネラオスは、ミュケナイの王で兄のアガメムノンに相談を持ち掛けた。アガメムノンは弟を侮辱したパリスへの復讐とヘレネの奪還を約束し、ギリシア中の都市国家から兵士を徴収し、連合軍を結成する。トロイア戦争は十年にわたる長期戦だったが、イリアスの中で描かれているのは、その中の十日間程度に過ぎない。作中では何人もの英雄が登場するが、主人公格はアキレウスである。親友パトロクロスの戦死を機に、休戦していたアキレウスが怒って参戦、アカイア軍を優勢に導いた。アキレウスは宿敵トロイアの王子で最高軍司令官のヘクトルと交戦し、見事勝利を手にする。その後、ヘクトルの父でトロイア王のプリアモスがアキレウスに息子の遺体の返還を懇願する。アキレウスはこれに応じ、ヘクトルの葬儀をもってイリアスの物語は終了する。

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【登場者紹介】

イリアスに登場する神々や人物は、その一部が貨幣の上で表されている。

ゼウス
雷の男神。トロイア戦争では中立的な立場を採って見守っていた。ギリシア世界の最高神で、最も権限を持つ。

ヘルメス
伝令の男神。トロイア戦争では中立的な立場を採った。トロイア戦争の後日談を描いたオデュッセイアでは、アカイア軍の英雄オデュッセウスが無事故郷に帰還できるよう支援した。

ポセイドン
海の男神。アカイア側に味方した。アカイア軍のオデュッセウスが考案したトロイアの木馬作戦を見破ったトロイアの神官ラオコーンを海に引きづり込んで抹殺した。

アテナ
戦略の女神。アカイア側に味方した。トロイアの王子パリスが、ギリシアで最も美しい女神に自分を指名しなかったことから、トロイアを激しく憎んでいる。

ヘラ
結婚の女神。最高神ゼウスの妻で、女神の女王。古代ギリシア世界の実質の最高権力者。アカイア側に味方した。パリスがギリシア一美しい女神として自分を指名しなかったため、トロイアをひどく憎んでいる。

へファイストス
鍛治の男神。アカイア側に味方した。憎んでいる妻アフロディテや彼女の愛人アレスがトロイアに味方したため、その反発からアカイア側に手を貸した。

アポロン
光明の男神。ギリシア世界で一位、二位を争う美男神。トロイア側に味方した。巨大な拳でもってアカイア軍をなぎ倒した。

アルテミス
狩猟の女神。トロイア側に味方した。アカイア軍がトロイアに向けて出航できないように嵐を引き起こして邪魔をした。トロイアの最高軍司令官アガメムノンが純潔の巫女を犯したため、彼をひどく憎んでいる。嵐を鎮める代償としてアガメムノンの娘を要求し、彼自身に抹殺させた。

アフロディテ
美の女神。トロイア側に味方した。パリスがギリシア一美しい女神に自分を指名したため、彼にギリシアで最も美しい人間の女性ヘレネを授けた。だが、ヘレネはすでにスパルタ王メネラオスの妻だったため、これがトロイア戦争の発端となる。

アレス
暴力の男神。ギリシアで一位、二位を争う美男神。トロイア側に味方した。愛人のアフロディテがトロイアに手を貸していたため、彼もまたトロイアに味方した。

オデュッセウス
アカイア軍の英雄。戦略の天才。非常に頭が良く、狡猾な人物。戦うのを拒んで隠れていたアキレウスを見つけ出し、前線に復帰させる。また、トロイアの木馬を考案し、長きにわたった戦争を終結に導いた。

アイネイアス
トロイア軍の英雄。女神アフロディテと人間の男性アンキセスの息子。トロイアは敗戦により滅亡したが、アイネイアスは城の裏口から脱出し、イタリアまで敗走していた。彼はその地で、後のローマの祖を築く。


イリアスの構図を見るに、トロイア戦争は人間同士の戦いであると同時に神々の戦いでもあった。

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私はこの物語に夢を見てきた。イリアスは創作というのが定説だが、こんなにも生き生きとリアルに描かれているのに創作なんだろうか?そんなふうに疑ってしまうほど、この物語には惹きつけられる。現実だったら良かったのに。そんなふうに何度も思った。私と同じようなことを思っていた人間が当然だが、ずっと昔に存在した。彼の名は、シュリーマン。ドイツ人の実業家だが、考古学に強い興味を寄せており、イリアスが現実だと信じて発掘を行った人物である。彼は父から聞いたイリアスの物語に胸を高鳴らせ、いつか発掘を行いたいと夢見る少年だった。そして、実際にその夢を実現させる。だが、残念ながら彼がイリアスの考古遺物だと信じていた発掘品は、全く異なる時代の名もなき人々のものだったということが現在では判明している。また、彼は考古学をきちんと学んでいないアマチュア発掘家だったため、発掘における地層を乱して後世の発掘を困難にした人物として酷評されている。それでも、私は彼の情熱には敬意を示したい。幼い頃の夢を叶えた行動力に強い尊敬の念を抱く。私も彼のような揺らぎない真っ直ぐな夢と志を持てたら......。そんなふうに思う。

Shelk 詩瑠久🦋

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