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マークの大冒険 | 東風 〜動き出す歯車〜

たとえ東の風が吹こうとも、
ボクらの冒険は終わらない。

そこに謎がある限り、
ボクらは前に進み続ける。

ボクらの冒険は、
まだまだ始まったばかりだ。

夢と志を持ち、
風のように駆け抜ける。

毎日が冒険。
毎日が非日常。

ボクらはそんな果てなき旅をする。
動き出した歯車は止まることを知らない。


🍀🍀🍀


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午後。女学院にて。

「あの子、自慢とか全然しない子だからあれだけど、成績も結構良くて、運動もできて、親は病院長だっけ?家柄も良かったりするのよ。まあ、女子校にいるからあんな感じだけど、共学だったらモテモテだろうね」

柊臨は腕を組みながらそう言うと、続けて「あんたには高嶺の花ね」と告げた。

早川瞳。

ボクにとっては高嶺の花で、おそらく本来なら接するはずのない存在だった。あの日までは。


🍀🍀🍀


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早川とボクが最初に出会ったのは、ボクの写真事務所だった。彼女の方からある日、突然訪ねて来たのである。彼女は恐る恐るドアを開けると、事務所の中をぐるりと覗き、「誰かいますか?」と言った。あの制服は道路を隔てて向かいにある女子校のものか。しかし、女子高生がこんなところに何のようだろう?ボクはそう思いながら、彼女がいるドアの方に向かった。

「何かようかい?」

「あ、いた!」

「一応、営業中ではあるんでね。それで、女子高生が何のよう?」

「天才考古学者なんですよね?」

「はあ?それ、どこソースだよ。確かに歴史を探究する者の端くれではあるけど、今は研究所を追い出されてこの様さ。このしょぼい撮影事務所で、その日暮らしだよ」

「片山さんが言ってました。あいつは本当はすげーヤツなんだって。知識量がハンパなくて、どんな謎でも解決しちゃう隠れた天才だって」

「片山のおっちゃんか。あのおっさん、調子いいからな。けど、なんで女子高生があのオッサンに用があるわけ?」

「見てもらいたいものがあって......。学校の帰り道で偶然拾ったの。たぶんコインだと思うけど、ずいぶん形がいびつで変だなと思って詳しそうな学校の先輩に聞いてみたら、もしかしたら古代のお金なんじゃないかって。だから、近くの骨董店に行って訊いてみたの。店主のおじさんは、古代のお金であることは確かだけど、詳しいことはわからないって。けど、そしたら、あなたの名前が出てきて。私も変だなと思って、あそこは写真屋さんじゃないんですか?って訊き返したら、いやいや嬢ちゃん、あの写真屋の坊主は、実は天才考古学者なんだ。俺が見てきた中でも飛びきりのな。今はあんな感じで燻ってるけど、今に世に名を残すスーパールーキーってやつさってね」

「なるほど、そういうことか。片山のオヤジ、本当に調子がいいな。それで?見てもらいたいブツってのは?」

「えっと、ちょっと待ってて。これなんだけど......」

彼女はスクールバッグを何やらゴソゴソ漁ってブツを掴むと、ボクの目の前に手を差し出した。そして、ボクは一瞬硬直した。

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「はぁ?おま......なんで女子高生がこんなもん持ってんだよ......?これは古代エジプトで発行された最初期のコインだぞ。交易決済に利用されたテトラドラクマ銀貨で、描かれてるのはアレクサンドロス大王の肖像」

「アレクサンドロス大王って、あの教科書に載ってるアレクサンドロス大王?」

「そうだよ、そのアレクだよ。これ、大王が被ってる帽子が象の毛皮のものだろ?通常はライオンの毛皮の帽子を被ってるのだけど、エジプトで発行されたものだけデザインが異なるんだ。だからエジプトで発行されたものとすぐにわかる。発行年は前311年から前304年頃。アレクサンドロス大王の配下で当時エジプトを統括していたプトレマイオス1世がサトラップ時代に発行したものだよ。表面はアレクサンドロス大王、そんで裏面には古代ギリシアの女神アテナが描かれているんだ」

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「さすが天才考古学者!おじさんの言う通りだね」

「いや、こんなのはただの情報に過ぎない。知ってるか、知らないか、それだけさ。それにしても、キミはこれをどこで手に入れたの?」

「だからー、学校の帰り道で拾ったって、さっき言ったよー?」

「いや、こんな貴重なコインが道端に落ちてるわけない。オークションに出たら、いくらすると思ってんだ」

「いや、けど本当に拾ったんだってば」

「にわかには信じがたいな」

「疑り深いなー、もう」

「当たり前だろ、そんぐらい貴重なもんなんだよ。道端に誰かが落とすはずがない。博物館レベルのシロモノだぞ」

「ふーん。そうなんだ。ところで、何でそんなに詳しいのに写真屋さんなの?」

「はぁ?それ訊くか?いろいろあったんだよ」

「まあ、いいや。謎は解けたことだし、一見落着。なんか面白いから、また来るよ。あ、そういえば、私、ヒトミ。早川瞳っていうから、よろしくね。それじゃ、またね」

カランカランと、玄関にドアの鈴音が響き渡る。彼女が去ると、店内は急に静かになった。近くの車道を走る車の音が聞こえてくるほどだった。

それにしても、竜巻みたいに人を巻き込む女だったな。やれやれ、ここは写真屋なんだから店に入ってくるなら仕事のひとつでもくれよって感じだよな。あー、やばい。今月もカツカツで、ローン組んで買ったカメラの支払いができるか微妙だな。今月は質素な生活をしないと。だがしかし、アレクサンドロス大王のテトラドラクマ銀貨か。面白いものを見たな。久しぶりに関連の文献でも読んでみようか。


🍀🍀🍀


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それから早川は、ボクの事務所に時々顔を出すようになった。最初はそれが鬱陶しいと思っていた。だが、彼女との出会いがボクの忘れかけていた「考古学者として名を残す」という夢に再び火をつけることになっていく。

そして、彼女が拾ったあのコインがわざと落とされたもので、それを機にこれからボクらが様々な事件に巻き込まれていくなんて、あの時は知る由もなかった。


To be continued...


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【キャラクター紹介】

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マーク
古代オリエント文明を探究する冒険家。いつか自分も歴史に名を残す大発見をすることを夢見ている。写真屋を生業にしている。


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早川瞳
大きく綺麗な目から瞳と名付けられた。元気いっぱいな女の子で、都内の私立女子校に通っている。一枚のコインを偶然拾ったことでマークと出会う。


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柊臨
瞳と同じ学校に通うひとつ上の先輩。瞳の紹介でマークと出会う。毒舌でツンツンしているが、根は優しく情に厚い。実は学年トップの秀才少女。


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Shelk 詩瑠久

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