【本】吹上奇譚 吉本ばなな
ファンタジーとリアリティのあいだを紡ぎ、その淡々とした日常にある光るものに焦点を当てて、わたしたちの視点や視野を優しく揺らす。吉本ばななさんの作品は、わたしのなかでそんな存在だけど、その真骨頂がこの吹上奇譚という長編だと思う。
今年、谷崎潤一郎賞を受賞した短編集「ミトンとふびん」もすごく好きだったけれど、やはり長編というのは、その物語の登場人物と会ったことがあるような、彼ら自身が自分の身近な存在として心に住んでしまうような作用があるもので、意識への残り方、自分のものの見方への