英語の出来ない人が英語曲を歌う時のちょっとしたコツ

(2016年にtich.jpに書いた記事の再録です)

日本人による英語曲を聴いていて感じたことや、歌を指導してきた経験から、日本人が引っかかりやすい英語曲の歌い方のポイントをつらつら書いてみようと思います。なお今回はあくまで曲の中の「英語の発音」に関する内容に留め、発声法や唱法については取り上げません。

※文中の「きれいに」は、「かっこよく」など他の言葉に入れ替え可。


言語として通じる発音と歌の発音は違うと心得る

日本語の曲でも歌詞カードなしで聞くと何を言っているのか聞き取れないことがありますよね。癖の強い歌い方をする人ならなおさらです。日本語の曲を日本人が聴く時であっても、発音そのものではなく前後の文脈などからこういう歌詞かなーと推測していることが多いものです。


そうやって考えると、英語曲でも「英語の発音」にこだわる必要がそれほどないことが分かります。大切なのは「歌」としてどう聞こえるかであって、英語としてどう聞こえるかではありません。語りに近いタイプの、いわゆる「歌詞(ストーリー)を聴かせる曲」の場合は多少事情が違いますが、多くの場合曲というのはリズムに合わせたり感情を込めたりする都合次第で、英語ネイティブの人が聞いても、英語の発音として「そうは聞こえない」ことがあるものです。特に英語は世界中に様々な方言や訛りがあり、発音の違いを揶揄した歌もあるように(https://www.youtube.com/watch?v=LOILZ_D3aRg 曲は1:07あたりから)、自分が話している訛りの英語に合わせた符割になっていたり、あえて「変な発音」を採用していることだってあります。


ちなみに上で上げた曲"Let's Call The Whole Thing Off"も、歌手が違えば発音もこれくらい違います。

https://www.youtube.com/watch?v=J2oEmPP5dTM
では、いい加減な発音でもいいのか? そういうことではありません。大切なのは「自分の好みの発音」を見つけることです。場数をこなすことで、このフレーズはこう歌うのが好き、というものがある程度出来上がってくるものですが、ここでは、とっかかりになる基礎の基礎をざっくりいくつか挙げてみます。


スタンダードナンバーで好みの発音を見つける


特定歌手の曲で歌いたいものがある場合はその曲を集中的に練習するのがいいのかもしれませんが、「英語の曲を歌う」とざっくり考えた場合、お手本は色々聴き較べるのがおすすめです。上にも書きましたが、同じ曲でも歌手が違えば発音も含めて歌い方が随分違ってきますから、数多くの歌手がカバーしているスタンダードナンバーを聴いてみて、自分の好みの発音を選んでみましょう。

(ただし複数の歌手からの「いいとこ取り」は、ちぐはぐになる危険性があるので初心者の方にはお勧めしません)


ちなみにこれは発音以外でも、例えばある曲がどうも歌いにくいな、と感じた時に他の歌手によるカバーがあった場合はとりあえず聴いてみると、ああ、この歌手はこんな風に処理してるんだ、と解決策が見えてくることがあります。ちょっとしたフレージングやブレスの入れ方など、自分では気づかなかったり、こういう風に歌わないといけない、という固定観念に囚われていたりするので、カバー曲の比較はお勧めです。


おしゃれな人のファッションを見て小物の使い方を真似たりする場合でも、いつも同じ雑誌や好きなモデルさんばかりを参考にするのではなく、たまには別の雑誌も見てみることってありませんか? この例えが適切かどうか分かりませんが、要は視点を変えたり視野を広げる努力をしてみる、ということです。


聞こえた通りに歌う


「教科書通りの発音で歌う」ことが「楽譜を見て歌う」ことだとしたら、「聞こえた通りに歌う」のは「耳コピで歌う」ことだといえるかもしれません。なんなら歌詞を見ないで聞こえた通りに書き取った歌詞カードを自作してしまいましょう。could Iは歌手によっては「くぅだぃ」かもしれないし「からあぃ」かもしれません。here we goが「ひゅいご」と歌われている曲もあれば「ぃよぅぃいがぁあうっ!!!」になっている曲もあるかもしれません。歌手の歌い方の癖や歌われるリズムによって、いくらでも変わるものです。


厳密には、日本語で書くことによって日本語の発音に引きずられてしまうこともありますが、ここではあくまでざっくりと、「教科書通りの発音から自由になる」ことを目指します。日本語にはない発音の表記用に自分専用の記号を作るのも手です。


参考音源 "Part Time Lover"

https://youtu.be/3kyulYS88Bs
上の曲を字幕の歌詞の通り教科書的な発音で歌ったら、多分大半の方はリズムがガタガタになるのではないでしょうか。促音入れまくりで全部つなげてしまって「から(な)っでぃんわんっせが(鼻濁音)っだっふぁん」位に崩して歌った方がそれっぽく聞こえるかもしれません。


TH、VとB、LとR等「日本人が苦手とする」と言われている発音等も、そこにこだわり過ぎず、まずは自分の耳が捉えた通りに歌ってみましょう。TheのTHを教科書にあるように歯で舌を挟んで、なんて丁寧にやっている時間のないアップテンポな曲の場合、「だ」と歌っていたり、「あ」と「え」の中間位の母音をちょっと濁らせた曖昧な発音でやり過ごしていることも多いものです。Rだってアメリカ英語とイギリス英語でも違いますし、人によって、あるいは曲によっては巻き舌で歌うこともあります。


また、教科書通りの「正しい発音」にこだわると、自分が苦手とする発音の箇所だけが妙に強調されてしまって全体のバランスが崩れることがあります。よくあるのが、Rが妙に強調された歌い方。ロングトーンを「R~」と歌っているのを聞くと、ああ、母音で伸ばした方がよく響くなのに、と思うことがあります。

※「母音で伸ばす」については章を分けてもうちょっと詳しく書きます。


無声音の子音を有声音で発音すると色気が増す(ことがある)

例えばK(K音はkey、okay等Kで書く単語と、cool、can等Cで書く単語があります)やP、Tなどの子音は、本来であれば発音する時に声が混じらない「無声音」です。これに対してLやWは発音する時に声が混じる「有声音」です。THはthere、that等母音が続くと有声音で、three等子音が続くと無声音になります。


この無声音ですが、曲のどこに現れるかによって、あえて声を混ぜて有声音にすることで色気が増したり感情を込められることがあります。といっても、ところ構わずということではなく、メリハリを考えてここぞという所で使うのが良いでしょう。激しい曲で「kill you!」とフレーズが出てきたらがっつりKを強く、それこそ「かはっ」と聞こえるくらい無声部分を大げさに発音した方がかっこいいかもしれませんし、哀愁に満ちたラブソングで「...sets us apart...」(私達を隔てるの…)といったフレーズが出てきたら、Pは弱々しく吐息交じりに、むしろFに近い位の発音の方が切なさが増すかもしれません。


無声音と有声音の使い分けでぐっと曲にメリハリが出ます。使い過ぎは禁物ですが。


T+母音はツァツィツツェツォっぽく歌う

これは好みもありますが、TをTのまま歌うと教科書っぽく、TSに近づけると感情が篭ったように聞こえます。


参考音源 "Time After Time"

https://www.youtube.com/watch?v=VdQY7BusJNU
歌は42秒あたりから始まります。1:23秒あたりの歌詞"time after sometimes"のTの発音に注意して聴いてみてください。うっすらとSが入っているのが分かるかと思います。


母音+Rは、母音で伸ばす

上にちらっと書きましたが、母音+Rの発音はRで伸ばさず、母音を切り分けるような感覚で、母音で伸ばしましょう。Rのロングトーンは日本人がやると過剰になりがちです。


参考音源 "Let It Go"

https://www.youtube.com/watch?v=L0MK7qz13bU
こちら、37-38秒あたりの"swirling storm"を聴いてみてください。Rではなく、その前のIやOを強調しているのが分かるでしょうか。サビの"anymore""door""care"の方がもっと分かりやすいかもしれませんが、いずれにせよ母音を最初に歌ってからRに繋いでいるのが聞こえるかと思います。


本当はよくない例の方も参考音源を入れるべきかもしれませんが、「悪い例」として取り上げるのも失礼なので、「桑田佳祐のモノマネ」を思い浮かべてみてください。「やりすぎ!」と思いませんか?(ちなみに筆者は桑田佳祐も大好きですので石を投げないでください)


二重母音はどちらかの母音で伸ばす

母音+Rと同じように、母音+母音のいわゆる二重母音も、母音を切り分けてどちらかの母音で伸ばして、もう一つの母音はちょっとくっつけるくらいの気持ちで歌うときれいに聞こえます。多くの場合最初の母音を伸ばして、二つ目は遅らせ気味につけるとそれっぽくなります。例えば、lieは「らああいい」と移行しながら伸ばすのではなく、「らああああぃ」のように最初の母音を伸ばして二つ目は最後にちょっとだけつけます。ただし単語によりけりで、例えばsweetなら「すぃいいいい…」のように二つ目の母音の方を伸ばします。


フレーズ終わりの子音を意識する


お手本にする歌手の歌い方にもよりますが、子音が消えすぎると何を歌っているのか分かり辛くなるので、フレーズ終わりの子音を軽くつけるように心がけましょう。例えばkindという歌詞を「かいん」で終わらせてしまわず、Dを軽くつけるよう意識する。nightを「なーい」で終わらせるのではなく、最後のTを入れるようにする。なお、Tは上にも書いたようにTSを意識すると「それっぽく」なることに加えて、子音として聞こえやすくなるというメリットもあります。やりすぎると文脈によっては複数形に聞こえてしまうので、自分でも聞き取り確認しながら良い加減を探しましょう。


また、最後の子音は通常は無声音でつけますが、これもあえて有声音にすると雰囲気が出ることがあります。これも聞き取り確認!


いろいろ書きましたが、なにか一つでも参考になれば幸いです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?