見出し画像

新宿

地下街のカレーハウスの香りを嗅ぐたびに
「外回りの時はいつもここで食べるんだ」
と言っていた
私が初めて入った会社の
おじさんのことを思い出す

陽気な人で
営業向きで
少し抜けていて
いつも依頼がギリギリで
お客さんにもよく怒られて
でも憎めなくて
みんなに愛されていた

きっかけは忘れたが
社内で記念写真を撮ることがあって
私のカメラで色んな写真を撮った
おじさんを椅子に座らせて
周りを女性社員で囲んでポーズを撮ったりして

すごくいい笑顔の写真になった

そして、その写真が
おじさんの遺影になった

どこかで気づけなかった?
あの日の会社の空気を思い出すたびに
胸の奥がずしんと重くなる

葬式は会社で出した
葬式を出すお金も家族も
おじさんにはなかったから

おじさんを囲んで写真を撮った人たちで受付をした
私たちが写ってるはずなのに
切り取られて写っていない写真が飾られていた

切り取られた私たちは
まだこうやって
生きている

新宿のガード下ですれ違う人たちのうち
どれくらいの人が
もう無理だと思って生きてるだろう

カレーハウスの香りを嗅いだ日は
新宿を歩きながら
いつもそんなことを思う

サポート頂けるととても嬉しいです🐶 サポート代は次の本を作るための制作費等に充てさせていただきます