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ディズニーストアの高台のプーさん

 僕は今、ディズニーストアに来ている。1人で来るなんて生まれて初めてだ。
 男だが小さい頃からぬいぐるみなどといったかわいいものが好きで、ディズニー自体にはかなり疎いがくまのプーさんは好きだった。理由は、自分に似ているとよく言われていたからだと思う。
 とは言ったものの、プーさんのぬいぐるみを買ったことは無く、来週にネットで知り合った友人に会う時に見せびらかそうと思い、今僕はディズニーストアでうろちょろしているのだ。

 ディズニーストアに到着して、まず僕は驚いた。どこにも男がいないのだ。見渡す限り女性のみ、お客さんもキャストも全員女性しかいなかった。
 間違えて女子トイレに入りそうになってしまった時のような気持ちになった僕は一旦店を出た。なんだか恥ずかしくなってきたのだ。平日の昼間に男1人で乗り込んで、女性のキャストに「あ…あの…プーさんのぬいぐるみってありますか…?(照)」なんて訊かなければいけないのだ。恥ずかしいなんてもんじゃない。
 とはいえ、せっかくストアに来たのにこのまま帰るわけにもいかない。僕は勇気を振り絞り、再度入店した。

 店内はそこまで広いわけでもなく、ショッピングモール内のいたって普通の広さだった。
 僕はとにかくさっさとプーさんのぬいぐるみを見つけてさっさと会計してさっさと帰ろうと、店内を見渡した。こうして捜索している間にも客やキャストに
「あら〜、"おひとりさま"ですか?(笑)」
「お前、ディズニーストアは初めてか?肩の力抜けよ」
「おいおい見ろよみんな!プーさんのぬいぐるみが欲しいんだってさ!HAHAHAHA」
なんて思われてしまうに違いない。そうなってしまったら、僕はもう一緒このトラウマを背負うことになる。血眼になってプーさんを探した。

 店内全体を見終わり、「やっぱり、どこにもプーさんが居ない…」と、ふと上の方を見ると、棚の1番上の奥に隠れるようにプーさんがいた。
 うお!!居た!!! と喜んだのと同時に僕は「いや、どうやってアレを取るんだ…??」という絶望に近い感情に襲われた。僕の身長(163cm)ではどう考えても届かないのだ。それどころか170cmあってもギリ届くかどうかわからない高さに標的は鎮座しているのだ。
 いや、普通に考えてキャストに頼んで取って貰えば良いだけなのだが、平日の昼間に男1人で乗り込んで、女性のキャストに「あ…あの…、あっちの上に置いてあるプーさんのぬいぐるみを取ってもらえませんか…?(照)」なんて訊かなければいけないのだ。恥ずかしいなんてもんじゃない。

 僕はどうにか自分の力で取ろうと手を思い切り伸ばしてみたが、全く届きそうにない。どうしたものかと立ち尽くしていると、僕の後ろを背の高い男性キャストが通った。
 …ん?男性キャスト?!
 気がつくのに一瞬遅れた。男性のキャストが居るじゃないか。最初は裏にでも居たのだろうか、僕よりも背が10cmは高そうだった。よし、あのお兄さんに声をかけよう。そう思ったは良いのだが、恥ずかしさは軽減したとはいえ、それでも十分恥ずかしく少し躊躇ってしまった。そうこうしてる内に、男性キャストはすぐに裏に戻ってしまったのだ。

 "ただ、キャストに声をかければ良いだけ"の状態のまま、僕は店内を30分ほど彷徨いた。その間に家族連れやカップルが入店するたびに、僕の中の恥ずかしさゲージが溜まっていっている感覚になった。誰も自分のことなんか気にしてない筈なのに。

 結局、入店から1時間が経過したころに僕は女性キャストに「あ…あの…、あっちの上に置いてあるプーさんのぬいぐるみを取ってもらえませんか…?(照)」と震え声で言ったのだ。女性キャストは、とても明るい表情で脚立を持ってきて、プーさんを取ってくれたのだ。
 その明るい表情のおかげか、最終的に僕はどこか幸せな気持ちになりながら帰宅したのだった。

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