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従業員数別 法令遵守 早見表 Ver.5

こんにちは。

IPO支援(労務監査・労務DD・労務デューデリジェンス)、労使トラブル防止やハラスメント防止などのコンサルティング、就業規則や人事評価制度などの作成や改定、各種セミナー講師などを行っている社会保険労務士法人シグナル代表の特定社会保険労務士有馬美帆(@sharoushisignal)です。
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※このnoteは、2022年1月12日に公開したnote記事を加筆・修正したものです。
多くの皆様にご覧いただいている記事だからこそ、新たなバージョンを作成しようというやる気が湧きました。読者の皆様、いつもご愛読ありがとうございます。

経営者や人事労務担当の方には、従業員数が増加し、気が付けば50名近くになっており、従業員の方に急いで衛生管理者の資格を取りに行ってもらったというご経験がないでしょうか。

各種法令では、従業員数が、50人もしくは100人というラインに達したり超えたりすると、企業がコンプライアンス上対応しなくてはならない項目が増えます。
そこで悩みのタネとなるのが、従業員数のカウント方法です。

「従業員」には、パートタイマーやアルバイトなどの非正規従業員も含むのか、全社(企業全体)として数えるのか、もしくは支店(事業場)ごとに数えるのかなど、各項目ごとに悩みますよね。

そこで、その悩みを解決して法令遵守していただくために、今回、早見表を作成してみました!

経営者や人事労務担当の方は、この早見表を活用し、ぜひ調べる時間を節約してください。
それでは、早見表を以下に掲載いたしますのでご覧ください。




▷就業規則

就業規則とは、従業員(労働者)が遵守すべき職場規律や集合的な労働条件について、使用者が定めた規則のことです。常時10人以上の従業員を使用する使用者は、就業規則を制定した上で、労働基準監督署長に届け出る必要があります(労働基準法第89条など)。

この「常時10人以上」とは会社全体(全社)ではなく、事業場(支店など)の単位で数えます。従業員には正社員だけでなく、アルバイトやパートタイマーなどの非正規雇用労働者も含まれます。なお、派遣労働者は「派遣元」の事業場で「常時10人以上」にカウントされることになりますので、お気を付けください。

▷安全推進者

安全管理者または安全衛生推進者の専任が義務づけられていない、常時10人以上の従業員を使用する小売業、社会福祉施設、飲食業などの事業場に配置され、安全管理を行う者です。
安全推進者は労働安全衛生法では配置が義務づけられてはいませんが、「安全推進者の配置に係るガイドライン」が行政当局から出されており、配置されていない事業場は当局による指導の対象となります。

「常時10人以上」は事業場単位でみること、従業員には非正規雇用労働者も含まれることは就業規則の作成・届出と同じです。

ここで、注意を要するのが派遣労働者の扱いです。労働安全衛生関連法規に関しての「常時使用する労働者の数」については、派遣先の事業場及び派遣元の事業場の双方について、派遣労働者の数を含めて算出することになっています(ただし、安全管理者と衛生委員会については、選任・設置義務が派遣先事業場のみに課せられていますので、派遣先の事業場について、派遣労働者を含めて算出します)。

安全推進者には特定の資格は求められませんが、事業場内で一般的に取り組まれている安全活動(整理整頓や交通事故防止など)に従事した経験を有する者のうちから選任する必要があります。

▷安全衛生推進者(衛生推進者)

安全衛生推進者(衛生推進者)とは、常時10人以上50人未満の従業員を使用する事業場で、労働安全衛生法(安衛法)により選任が義務づけられている者です。

安全衛生推進者と衛生推進者は何が違うの?」という疑問を持たれた方も多いと思いますが、まずはご自分の会社が、次に列挙する業種に当てはまるかをご確認ください。

林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業

当てはまった場合は安全衛生推進者、当てはまらなかった場合は、衛生推進者を選任することになります。安全衛生推進者は職場の安全衛生面を、衛生推進者は職場の衛生面のみを、それぞれ担当することになります。


▷男女別トイレ

事務所衛生基準規則(事務所則)および労働安全衛生規則(安衛則)にトイレ(条文上は「便所」となっています)についての定めがあります。

トイレは、男女別であることが原則なのですが、小規模事業場の現状に配慮して、常時10人以内を使用する事業場に限り、男女同一のトイレを設ければ良いというように基準が緩和されています。

この要件緩和に至るまでにはかなりの議論がなされていて、その結果、「トイレは男女別が原則」であるということも再確認されています。あくまで小規模事業場に向けた例外的措置ということですね。


▷休養室または休養所 1

事務所則および安衛則には「休養室又は休養所」の定めもあります。

常時50人以上または常時女性30人以上を使用する事業場に、従業員が「が床することのできる」休養室又は休養所を設けなければならないとしています。「が床する」とは横になって寝られるという意味で、全部漢字を用いると「臥床」になります。
こちらは、常時女性30人以上を使用する事業場の項目となっています。

▷休養室または休養所 2

休養室1でご説明したとおりで、常時50人以上を使用する事業場には、従業員が「が床することのできる」休養室又は休養所を設ける必要があります。


▷安全管理者

安全管理者は、法定の業種で常時50人以上の従業員を使用する事業場ごとに、安全管理者の資格を有する者から選任することが義務づけられた、職場の安全管理を担当する者です。

「法定の業種」とは、安全衛生推進者の項目でご紹介した業種です。これらの業種は、特に安全面への配慮が強く求められる業種ということです。

安全管理者は、厚生労働大臣が定める研修(安全管理者選任時研修)を修了した者か、労働安全コンサルタントのみしか選任されることができないため、法定の業種に属する会社では、従業員数が50人に近づく前に、安全管理者の確保に動く必要があります。

さらに安全管理者で注意すべきは、使用する従業員の数に応じて、専任の管理者を置く必要があり、その数も従業員数によって増えるという点です。


▷衛生管理者

衛生管理者とは、職場の衛生全般を管理する国家資格者です。
安衛法では、事業場(支店)の従業員数が50人に達した段階で専任が必要になります。
そのため、法令遵守のためには国家試験に合格した人が必要になります。

社内に、衛生管理者資格を有する人がいない場合は、従業員数が50人以上になることが予想された段階で、どなたかに、試験を受けて資格を取得してもらうようにしましょう。

衛生管理者は、第一種と第二種に分かれており、業種によりどちらかの資格が必要となります。
難易度は普通程度といわれる試験ですが、合格率は第一種衛生管理者で42.7%、第二種衛生管理者49.7%(いずれも令和3年度)と、実際は半数以上が不合格となる試験で要注意です。この点からも、企業として早めの対策が必要ですね。


▷産業医

産業医とは、従業員の健康管理に関して助言・指導する医師のことです。
50人以上の事業場(支店)では、安衛法の定めにより 産業医を選任する必要があります。


▷ストレスチェック

ストレスチェックとは従業員のストレス検査を行うことでメンタルヘルス不調を防止する安衛法に基づく制度です。
50人以上の事業場(支店)では、毎年の健康診断に加え、ストレスチェックも行う必要がありますのでご注意ください。


▷定期健康診断報告書

常時50人以上労働者を使用する事業場では、「定期健康診断結果報告書」を所轄労働基準監督署に提出する義務があります(安衛法第66条1項)。


▷障害者雇用納付金

障害者雇用促進法では、全ての企業に対して障害者の雇用を義務付けており、従業員数に占める障害者雇用の割合を障害者法定雇用率といいます。
障害者法定雇用率は現在2.3%ですが、令和6年度(2024年度)から2.5%、令和8年度(2026年度)から2.7%と段階的に引き上げられることになっています。

障害者雇用率が未達成の常用労働者100人を超える企業は、障害者雇用納付金が徴収されることになります。
金額は、未達成者1人につき、月額で原則50,000円です。この納付金は障害者雇用の促進のための調整金や職場環境整備に使われています。

この常用労働者には、派遣労働者は含まれません(派遣元の常用労働者として扱われます)。


▷一般事業主行動計画(次世代育成支援対策推進法)

一般事業主行動計画(行動計画)とは、次世代育成支援対策推進法(次世代法)で定められた、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働環境の整備などに取り組むに当たって、
1 計画期間
2 目標
3 目標達成のための対策およびその実施時期

を定めるものです。

常用労働者数101人以上の企業に、行動計画の策定・届出、公表・周知が義務づけられています。

行動計画を策定したら、策定の日からおおむね3か月以内に、都道府県労働局雇用環境均等部(室)に「一般事業主行動計画策定・変更届」を郵送、持参、電子申請のいずれかで届け出る必要があります。

常用労働者には、原則として次の場合が該当します。

(1)期間の定めなく雇用されている場合、
(2)一定の期間を定めて雇用されている場合であっても、その雇用期間が反復更新され、事実上期間の定めなく雇用されている場合と同様と認められる場合
(3)日々雇用される労働者の場合、雇用契約が日々更新され、事実上期間の定めなく雇用されている場合と同様と認められる場合

正社員以外のパートタイマー・アルバイト等でも、(1)~(3)に該当すれば常用労働者となります。
出向者については、原則として生計を維持する主たる賃金を受ける企業で算定します。なお、派遣労働者については、派遣元で算定されます。


▷特定個人情報取扱規程

特定個人情報取扱規程とは、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律で定められた、個人番号を取り扱う企業が、特定個人情報を適正に取扱うための社内規程のことです。

原則、個人番号を取り扱う企業は、特定個人情報取扱規程を作成しなければいけないことになっていますが、特例的に、従業員数が100人以下の中小規模事業者においては、事務で取り扱う個人番号の数量が少なく、また、特定個人情報等を取り扱う従業者が限定的であること等から、特定個人情報取扱規程の作成が義務付けられていません。

ただし、以下の事業者は特例対象に含まれていないので注意が必要です。

・個人番号利用事務実施者
・委託に基づいて個人番号関係事務又は個人番号利用事務を業務として行う事業者
・金融分野(個人情報保護委員会・金融庁作成の「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」第1条第1項に定義される金融分野)の事業者
・その事業の用に供する個人情報データベース等を構成する個人情報によって識別される特定の個人の数の合計が過去6月以内のいずれかの日において5,000を超える事業者

中小規模事業者における「従業員」の考え方ですが、個人情報保護委員会の「特定個人情報取扱規程ガイドライン」によると、中小企業基本法における従業員をいい、労働基準法第20条の適用を受ける労働者(解雇の予告を必要とする労働者)に相当する者をいいます(ただし、日々雇い入れられる者、2か月以内の期間を定めて使用される者などは除かれます)。派遣労働者が解雇予告を受けるのは、派遣元企業においてになりますので、ここでいう従業員に派遣労働者は含まれないことになります。

▷社会保険の適用範囲拡大

社会保険(健康保険と厚生年金保険)は、適用事業所で常時雇用されている労働者と1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している通常の労働者の4分の3以上である労働者が加入対象となります。

加えて、政府は医療保険や年金の財源確保のために、特定適用事業所で働くパートタイマー・アルバイトとの短時間労働者にも社会保険の適用範囲を拡大させてきました(「社会保険の適用拡大」といいます)。

要件としては、

・週の所定労働時間が20時間以上であること
・雇用期間が2か月を超えて見込まれること
・賃金月額が88,000円以上であること
・学生でないこと

となります。

先ほど「特定適用事業所」という言葉が登場しましたが、これが「社会保険の適用拡大」の対象となる事業所のことです。
定義としては「事業主が同一である一または二以上の適用事業所で、被保険者(短時間労働者を除く)の総数が常時○○○人を超える事業所」の、「常時○○○人を超える」の部分が順次改正され、2022年10月からは「常時100人を超える」となっています。さらに、2024年10月には「常時50人を超える」となります。

この「○○○人」は社会保険の被保険者数で判断されることにご注意ください。
被保険者数は同一事業主(法人番号が同一)の適用事業所の被保険者(短時間労働者除く)の合計数です。非正規雇用者であっても短時間労働者でなければ被保険者数に含まれます。


▷一般事業主行動計画(女性活躍推進法

女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の策定義務が、常時雇用する労働者数101人以上の事業主に課されています。具体的には次の段階を踏むことになります。

1 自社の女性の活躍に関する状況把握、課題分析
2 一般事業主行動計画の策定、社内周知、公表
3 一般事業主行動計画を策定した旨を都道府県労働局に届出
4 取組の実施、効果の測定


▷女性の活躍に関する情報公表(女性活躍推進法

女性活躍推進法では、常時雇用する労働者が一定数以上の事業主に対して、女性の活躍に関する情報公表も義務づけています。
具体的には、常時雇用する労働者が301名以上と101名以上の2カテゴリに分かれ、それぞれ別の内容の情報公表が必要となります。

常時雇用する労働者が301名以上
○女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供に関する実績
 A 8項目から1項目選択
 B 男女の賃金の差異
○職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績
 C 7項目から1項目選択

常時雇用する労働者が101名以上
301名以上のカテゴリのA~Cのうちから任意の1項目を選択

2022年7月8日から、労働者数301人以上の事業主は「男女の賃金の差異」について公表する義務が加わりました
この「男女の賃金の差異」は、男性労働者の賃金の平均に対する女性労働者の賃金の平均を割合(パーセント)で示すことになります(小数点第1位まで)。
加えて、「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」の区分での公表も求められています。


▷正規雇用労働者の中途採用比率公表

労働施策総合推進法等により、常時雇用する労働者が301人以上の事業主に対して、正規雇用労働者の中途採用比率の公表も義務づけられています。

ここでいう「常時雇用する労働者」とは、雇用契約の形態を問わず、
①期間の定めなく雇用されている者
②過去1年以上の期間について引き続き雇用されている者または雇入れの時から1年以上引き続き雇用されると見込まれる者
のいずれかを満たす労働者を指します。
また、「中途採用」とは「新規学卒等採用者以外」の雇入れを意味します。

中途採用比率は「直近の3事業年度の各年度」について、おおむね年に1回、公表した日を明らかにしてインターネット上での公表その他の方法で行うことが求められています。


▷育児休業取得状況公表

育児・介護休業法の定めにより、常時雇用する従業員数が1000人を超える企業は、男性労働者の育児休業等の取得状況について少なくとも毎年1回、公表する義務が課せられます。

公表する内容は次の①または②です。
①男性の育児休業取得率
②育児休業等と育児目的休暇の取得率

公表するのは、「公表を行う日の属する事業年度の直前の事業年度」であることに注意を要します。

▷労務手続きの電子申請義務化

特定の法人の事業所が社会保険・労働保険に関する一部の手続きを行う場合について、電子申請が義務化されています。
この改正のポイントは大きくわけて2つあります。

第1のポイントは、「特定の法人」が対象になることです。具体的には、「資本金等の額が1億円を超える法人」です(その他にも相互会社などが対象になりますが省略します)。
「1億円」ではなく「1憶円を超える」に注意が必要です。

第2のポイントは「一部の手続」とは何かということです。
健康保険・厚生年金保険については、算定基礎届・月額変更届・賞与支払届です。
労働保険については、継続事業(一括有期事業を含む。)を行う事業主が提出する年度更新などの申告書です。
雇用保険は、資格取得届、資格喪失届、転勤届、高年齢雇用継続給付支給申請、育児休業給付支給申請です。

▷計画的な対応を

以上の各項目の中には、計画的な対応を要するものが多くあります。
例えば、ベンチャー企業の場合などは 、一気に従業員数が増加することがよくあります。結果として、対応が後手に回ってしまうというコンプライアンス上のリスクがありますので、従業員が30人規模に達したあたりから、できれば社会保険労務士のアドバイスを受けつつ、各項目につき前倒しで準備をおこなっていきましょう。


それでは次のnoteでお会いしましょう。

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