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注目の法改正等ver3(2020.4.6現在)

<はじめに>


こんにちは。社会保険労務士法人シグナル 代表 有馬美帆(@sharoushisignal)です。

※このnoteは、2020年1月23日に公開したnote記事を最新の情報を踏まえて加筆・修正したものです。

随時、表形式でお伝えしています「注目の法改正等」ですが、今回は現在開会中の常会(通常国会)で成立した法改正も踏まえた最新の内容をバージョンアップした表とともにお伝えします!

※働き方改革関連法も順次施行されています。それについては、すでにnoteで記載したこちらの記事をご覧ください。
大企業版>https://note.com/sharoushisignal/n/nd0d445398ea5
中小企業版>https://note.com/sharoushisignal/n/nbc7e5fb1efb9


<注目の法改正等>

以下、表を順番に見ていきますね。

note.本文用-法改正Ver.3

<1.賃金請求権の消滅時効期間が当面は3年(5年後に見直し)>


賃金請求権の消滅事項期間に関して、労働基準法の改正がなされました。
この点につきましては、本年1月26日付の記事でお伝えしました通り、賃金債権の消滅時効については当分の間は「3年」となりました。本年4月1日以降に賃金支払日が到来する賃金請求権について改正法が適用になります。また、賃金台帳等の保存期間も当分の間は「3年」となりますので、あわせてご注意ください。

本年1月26日付の記事抜粋

労働基準法で、労働者が会社(使用者)に対して有する賃金などの請求権の消滅時効については原則として「2年」と定められています(退職金は5年)。消滅時効というのは、一定の期間内に権利を行使しないと法的な権利そのものが消滅してしまうという制度のことです。
民法では債権の消滅時効について、原則的に10年と定めていますが、「月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権」の消滅時効は「1年」と定められているのです(民法174条)。
ですが、これでは労働者の保護として弱い面があるということで、民法の特別法である労働基準法(労基法)で、前述の「2年」と定められました(労基法第115条)。
ところが、民法の債権法改正により、「逆転現象」が生じてしまったのです。
今年の4月から、原則として「①権利を行使できると知ったときから5年」「②権利を行使できるときから10年」に統一されることになります(注1)。
そうなると、労基法で定める「2年」は、なんと民法より短い期間を定めたものとなってしまうのです。
これにより、労働者を保護するはずの労基法が、労働者が権利を行使できる期間を短縮することになってしまう事態が生じてしまうため、労基法の定めについても見直しの議論が始まった、というのがこれまでの経緯です。
議論の結果、賃金債権の消滅時効については労働基準法も民法に合わせて「5年」の消滅時効にすべき(注2)であるが、会社の経営面などに与える影響の大きさを考慮し、当面の間は「3年」とすることで法改正がなされることになりそうです。
「賃金債権の」と限定がついていることにご注意ください。労働者が会社に対して有する請求権には、他に年次有給休暇に関する権利(年休権)などがあります。こちらは、有給休暇は労働者に早く消化してもらうのがあるべき姿ということで、「2年」に据え置かれます(注3)。
賃金債権の消滅時効に関する改正で、実務的に一番問題となるのは未払残業代の消滅時効に関する問題でしょう。
従来は未払残業代問題に関する紛争の解決では、使用者側からすると最大「2年」遡っての支払いを求められることを覚悟する必要がありました。ですが今後は、「5年」という期間を視野に入れ、できるだけ早期に未払残業代のリスク対策に取り組んでいく必要があるといえるでしょう。
注1:民法の新166条1項に定められています。
注2:本文中の①を主観的起算点、②を客観的起算点とそれぞれ呼びますが、賃金債権については基本的に①と②は一致すると考えられています。そのため「5年」という数字だけが労基法改正の議論で取り上げられています。
注3:以前のnote(https://note.com/sharoushisignal/n/n66bd35b01ead)でも触れましたが、有給休暇は「リフレッシュのための権利」です。


<2.身元保証書に極度額の記載義務化>


民法改正で保証契約に「極度額の明記」が定められました。
これにより、企業が採用時などに提出を求めることが多い身元保証書も、通常保証契約に該当するとされていますので極度額を明記しなければならななくなりました。


極度額とは、その保証契約で最大どれだけの保証をするかという金額のことです。
今までは身元保証書に「◯◯万円までの損害につき保証します」というような金額が記載されることはほとんどなかったと思いますが、本年4月1日からはそのような書面では不備があることになってしまいます。


<3.64歳以上の雇用保険加入者の保険料が免除から徴収へ>


保険年度の初日である4月1日時点で満64歳以上の方の雇用保険料の徴収については、これまで猶予(免除)されていたものがなくなります。給与計算時に注意が必要です。


<4.障害者雇用(週10時間以上20時間未満)に対する特例給付金支給>


障害者雇用促進法の改正により、特定短時間労働者を雇用する事業主に「特例給付金」が支給されます。

「特定短時間労働者」とは、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の障害者のことです。短時間であれば就業可能な障害者の働く機会を増やすための法改正となります。
特例給付金の額は、常用労働者100人超の障害者雇用納付金対象事業主に1人当たり月7,000円、100人以下では月5,000円となる予定です。


<5.採用時に、受動喫煙対策についての明示を義務化>


改正健康増進法では「望まない受動喫煙」が生じないための各種施策が講じられています。
これにより受動喫煙防止が「マナーからルールへ」変わります。

それに伴い職業安定法施行規則も改正され、本年4月1日から従業員の募集を行う場合、「どのような受動喫煙対策を講じているか」を募集や求人申込みの際に明示する義務が課されることになりました。


これにより、契約期間や賃金などの労働条件等明示事項に「受動喫煙防止措置」という新たな項目が加わることになります。


具体的には、「屋内禁煙」、「屋内原則禁煙(喫煙室あり)」といった文言を記載することになりますので、現在お使いの求人票等など書式の見直しに早めに着手してください。


<6、10、14一般事業主行動計画>


「一般事業主行動計画」というのは、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(以下、「女性活躍推進法」といいます)に基づいて、女性労働者に対する活躍の推進に関する取り組みを実施するように努めるようにされているものです。

現在は常時雇用する労働者の数が301人以上の事業主に対して、
①自社の女性活躍に関する状況把握と課題分析
②①を踏まえた行動計画の策定、社内周知、公表
③②の策定についての都道府県労働局への届出
④女性活躍に関する情報公表
が義務付けられています。


この点に関して、重要な法改正が順次施行されます。
まず、常時雇用労働者301人以上の事業主に関しては、本年4月1日から数値目標の設定が義務化されます。
さらに、本年6月1日には情報公表項目についての情報公表も義務化されます。これまで以上に、より具体的な取り組みと社会への情報発信が求められるようになるわけですね。

さらに、2022年4月1日からは、常時雇用労働者が101人以上の事業主にも一般事業主行動計画の策定・届出と女性活躍に関する情報公表が義務化されます。

女性活躍推進に関する対応策の義務化は次第に広がっています。現在は常時雇用労働者が100人以下の事業所も、女性活躍推進については今から関心を持って、できる範囲で取り組むように心がけてください。特に組織の急成長が見込まれる企業に関しては、まだ人数が少ない段階で基礎づくりをしておくことが、後の人事労務面の負担を軽減することにつながります。


<9、13 パワーハラスメント防止のための雇用管理上の措置義務化 大企業は義務化・中小企業は2022.3.31まで努力義務>


本年3月16日付の記事で詳しく説明しましたが、パワハラ防止措置に関しては施行日が6月1日からということで、大企業にとっては対応が急務となります。


中小企業は努力措置となりますが、義務化までの猶予はそれほど長くありませんので、今年中にパワハラ防止規程の整備などに着手されることを強くおすすめします。


パワハラ防止措置について、現段階で確実に準備を行わなければならないことはパワハラに関する相談体制の整備(窓口の設置など)と、相談した労働者に不利益が生じないようにすることです。

パワハラにも様々な類型がありますが、職場の「上下関係」に基づくものがやはり多いと思われますので、上長を介さずに相談できる措置をどう講じるかというのも1つのポイントになるでしょう。

相談体制の整備という点では、パワハラ防止研修を開催することも非常に効果的です。相談窓口をただ定めるだけではなく、研修内で相談体制について説明しておくことが、防止と発生時対応の両面でしっかり対応していたというエビデンスになるからです。



<11.子の看護休暇・介護休暇の時間帯取得義務化>


子の看護休暇・介護休暇が1時間単位で利用できるようになることは、子育てや介護に関わる働く方々にとっては非常に有意義な改正です。


ワークライフバランスの向上につながることから、離職防止の面などで企業にもメリットがあるでしょう。
その反面、勤怠管理がどうしても煩雑になってしまう面がありますので、その点を踏まえて今から準備を始められた方が良いでしょう。


<12.70歳までの就業機会確保努力義務化>


本年1月26日付の記事でご説明していますが、70歳までの雇用確保という法改正は、今後の日本社会のあり方を大きく変える可能性がある問題ですので、いずれ改めてご説明しようと思っています。


本年1月26日付の記事抜粋


「ついに来ました」という法改正です。
これも先ほどの「全世代型社会保障改革」の一環で、その狙いは書かなくてもお分かりだと思いますが、年金・医療といった社会保障制度の持続可能性のためには、多くの国民にできるだけ長く就労してもらいたいというのがメインの理由となります。
義務化の内容は、後日改めてこのnoteでも取り上げようと思いますが、今回は企業の経営者やHR担当者の方々に「努力義務である期間は短いかもしれませんよ!」ということをお伝えしておきます。
かつて、65歳までの雇用確保措置が努力義務化されたのはいつのことだったか覚えていらっしゃいますか?
「2000年」のことだったんですね。その努力義務が義務化されたのは「2006年」、さらに65歳までの継続雇用を企業に義務化したのが、「2013年」です。かなり速いペースで進んでいますよね。
この流れを踏まえれば、「70歳までの継続雇用」という日が来ることを念頭において、各企業は中長期的なタイムテーブルを作り始めた方が良いといえます。
もちろん、65歳以上は「高齢者」とされているわけで、加齢に伴う健康状態の個人差が大きく生じ始めることなどを踏まえた、65歳までの雇用とは違った義務になるとは思いますが、年金財政の厳しさを考えれば、企業にもかなりのレベルの対応が求められることは避けられないでしょう。
高齢者を戦力として活き活きと働いてもらうために、企業は健康管理・安全管理への配慮に加えて、リカレント(学び直し)などの制度についても用意する必要があるといえます。


それでは、次のnoteでお会いしましょう。
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社会保険労務士法人シグナル問い合わせ先 info@sharoushisignal.com
※現在お問い合わせを多数頂いているため、ご要望に添えない場合がございますことを予めご了承ください。

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