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今後法改正が見込まれるものver1

<はじめに>

※ver2をアップしています。ぜひ「今後法改正が見込まれるものver2」の方をご覧ください。

こんにちは。社会保険労務士法人シグナル 代表 有馬美帆(@sharoushisignal)です。

前回は、注目の法改正等をご紹介しました。今回は、改正に向けて議論中のものを表とともにお伝えします。

note.本文用 今後の法改正 (1)

<1.賃金請求権>

労働基準法で、労働者が会社(使用者)に対して有する賃金などの請求権の消滅時効については原則として「2年」と定められています(退職金は5年)。消滅時効というのは、一定の期間内に権利を行使しないと法的な権利そのものが消滅してしまうという制度のことです。

民法では債権の消滅時効について、原則的に10年と定めていますが、「月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権」の消滅時効は「1年」と定められているのです(民法174条)。

ですが、これでは労働者の保護として弱い面があるということで、民法の特別法である労働基準法(労基法)で、前述の「2年」と定められました(労基法第115条)。

ところが、民法の債権法改正により、「逆転現象」が生じてしまったのです。
今年の4月から、原則として「①権利を行使できると知ったときから5年」「②権利を行使できるときから10年」に統一されることになります(注1)。

そうなると、労基法で定める「2年」は、なんと民法より短い期間を定めたものとなってしまうのです。
これにより、労働者を保護するはずの労基法が、労働者が権利を行使できる期間を短縮することになってしまう事態が生じてしまうため、労基法の定めについても見直しの議論が始まった、というのがこれまでの経緯です。

議論の結果、賃金債権の消滅時効については労働基準法も民法に合わせて「5年」の消滅時効にすべき(注2)であるが、会社の経営面などに与える影響の大きさを考慮し、当面の間は「3年」とすることで法改正がなされることになりそうです。
「賃金債権の」と限定がついていることにご注意ください。労働者が会社に対して有する請求権には、他に年次有給休暇に関する権利(年休権)などがあります。こちらは、有給休暇は労働者に早く消化してもらうのがあるべき姿ということで、「2年」に据え置かれます(注3)。

賃金債権の消滅時効に関する改正で、実務的に一番問題となるのは未払残業代の消滅時効に関する問題でしょう。
従来は未払残業代問題に関する紛争の解決では、使用者側からすると最大「2年」遡っての支払いを求められることを覚悟する必要がありました。ですが今後は、「5年」という期間を視野に入れ、できるだけ早期に未払残業代のリスク対策に取り組んでいく必要があるといえるでしょう。

注1:民法の新166条1項に定められています。
注2:本文中の①を主観的起算点、②を客観的起算点とそれぞれ呼びますが、賃金債権については基本的に①と②は一致すると考えられています。そのため「5年」という数字だけが労基法改正の議論で取り上げられています。
注3:以前のnoteでも触れましたが、有給休暇は「リフレッシュのための権利」です。

<2.中途採用比率公表義務化>

労働施策総合推進法の改正により、労働者数301人以上の大企業について、「中途採用比率」を公表することが義務付けられるようになる予定です。
なぜ大企業向けの義務付けなのかというと、大企業になるほど中途採用の比率が下がる傾向があるからです。

今回の改正の背景には、いわゆる「就職氷河期世代」対策や高齢者雇用の確保という狙いがあります。
この改正は「全世代型社会保障改革」の一環として行われます。
就職氷河期世代の方々や、高齢者の方々にできるだけ就業してもらいたい。そのために大企業に対して重い腰を上げて、中途採用に積極的に取り組んでもらうためのきっかけにしたい、というわけです。

それに加えて、比率が公表されることで、「あの会社は中途採用に積極的なんだな、だったら応募してみるか」というように、経験者の転職が活性化することも狙いの一つです。
「働かないおじさん」が注目のワードになったりしていますが、現在の雇用の流動性が低いままでは、その問題はなかなか解決できないでしょう。この法改正で、そういう方々が新たな環境で活躍してもらうきっかけになるかもしれませんね。


<3.70歳までの就業機会確保努力義務化>

「ついに来ました」という法改正です。

これも先ほどの「全世代型社会保障改革」の一環で、その狙いは書かなくてもお分かりだと思いますが、年金・医療といった社会保障制度の持続可能性のためには、多くの国民にできるだけ長く就労してもらいたいというのがメインの理由となります。

義務化の内容は、後日改めてこのnoteでも取り上げようと思いますが、今回は企業の経営者やHR担当者の方々に「努力義務である期間は短いかもしれませんよ!」ということをお伝えしておきます。

かつて、65歳までの雇用確保措置が努力義務化されたのはいつのことだったか覚えていらっしゃいますか?

「2000年」のことだったんですね。その努力義務が義務化されたのは「2006年」、さらに65歳までの継続雇用を企業に義務化したのが、「2013年」です。かなり速いペースで進んでいますよね。
この流れを踏まえれば、「70歳までの継続雇用」という日が来ることを念頭において、各企業は中長期的なタイムテーブルを作り始めた方が良いといえます。

もちろん、65歳以上は「高齢者」とされているわけで、加齢に伴う健康状態の個人差が大きく生じ始めることなどを踏まえた、65歳までの雇用とは違った義務になるとは思いますが、年金財政の厳しさを考えれば、企業にもかなりのレベルの対応が求められることは避けられないでしょう。

高齢者を戦力として活き活きと働いてもらうために、企業は健康管理・安全管理への配慮に加えて、リカレント(学び直し)などの制度についても用意する必要があるといえます。


<4.高年齢継続雇用給付の段階的縮小>

これは、3.でお伝えしたお話と「表裏一体」の関係にあるのです。

先ほど見たように、政府は2000年代に入ってずっと、65歳までの雇用確保に取り組んできました。雇用の確保のためには、企業の対応が必須となりますが、企業の経営面への配慮も欠かせません。

そこで、高年齢継続雇用給付金の制度を設けて、60歳到達時点で賃金が低下した場合に、一定の基準を満した60歳以上65歳未満高年齢労働者に給付金を支給するという形で企業を側面支援してきたわけです。

時は流れて、「70歳までの雇用確保」が現実的なものとなりつつあります。それは同時に、「65歳まで働いて当たり前」「65歳まで雇って当たり前」の社会が到来したということを意味します。

そうなると、高年齢継続雇用給付金という「特別の配慮」はもはや不要ということになります。いきなり廃止すると影響が大きいため、2025年度から現在の半分程度の水準とし、その後段階的に縮小していくのが政府の方針です。

この改正も、やはり中長期的なタイムテーブルが必要なものですね。
仮に将来、「70歳までの継続雇用」が義務化に向かうようならば、高年齢継続雇用給付金がリニューアルして登場するのではないでしょうか。

<5.複業者の労災における休業補償等の合算給付>

政府の「働き方改革」の目標の一つが「柔軟な働き方」の実現です。

「柔軟」とは何かということになりますが、①契約形態、②就業時間・場所の柔軟性に加えて、③複業(副業・兼業)に関する柔軟性がその内容となります。

複業のなかでも一番イメージしやすいのが「副業」ですね。
一般的には企業に安定的な立場で雇用されている方が、その企業の労働時間外に副収入を得るような働き方を意味します。
大企業でも「副業解禁」をされるところが増えつつあります。副業で得た知見を自社に持ち帰ってもらうことを期待するなどの理由があるそうです。

政府も企業も副業推進に向けて動き始めていますが、ここで問題になるのが、万が一にも労働災害(労災)が発生した場合です。

現在の仕組みは、複業を前提としたものとなっていないため、労災保険の支給に関する労働時間や賃金の算出の結果による補償が、柔軟な働き方をされる方にとって十分なものとならない面がありました。

法改正により、この点について例えば複数の会社での残業時間について合算されることになり、過労死ライン超えによる労災認定が受けやすくなる予定です。

もちろん、過労死など労働災害は起きてはならないものですので、この法改正を機会に、各企業の経営者やHR担当者の方々は、自社がどのように複業(複業・兼業)を位置づけるかについて、抜本的な検討をなされることをおすすめします。

<6.雇用保険関連でいくつか議論中>

雇用保険の失業給付における給付制限が5年の内2回までは3か月から2か月に変更する制度、離職票の支払基礎に日数だけではなく労働時間による基準も補完的に設定、雇用保険の65歳以上対象者に2つの事業所を合算して週所定労働時間が20時間以上の基準を適用する制度が議論されています。


それでは、次のnoteでお会いしましょう。
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