テレビはこんなに「不適切」 シュモクザメからスピリチュアルまで、テレビから流れるトンデモ話

意識高い系の「テレビ見てないアピール」が痛いという話をどこかで耳にしました。「俺、テレビとか観ないから~」とカッコつけている感じがするのでしょうか。

そうは言っても僕はテレビは見てないし、見るとしたら鵜呑みにすべきではないと考えています。テレビは多くの場合時間の無駄だし、テレビの情報はかなり疑って分析対象とした方がいいでしょう。テレビの情報は不適切な表現や誤りが多いだけでなく、社会にとって害悪になるような情報もテレビは平気で肯定的に発信するからです。

今回は、前から思っていたテレビについて、サメ社会学者という立場からお話しします。

一応断っておきますが、僕が批判したいのはテレビからの情報の劣化具合と、それを平気で流してしまう構造であり、テレビ関係者個人やテレビ出演者を攻撃したいわけではありません(一部除く)。僕の知人には映像関係でしっかりとした考えで仕事をなさっている人や、テレビ出演されている方で尊敬している人が沢山います。その方たちが悪いわけではないので。念のため。

目次:
【テレビから発信される不適切な表現】
<シュモクザメ>
<カワウソ>
<動物と話せる女>
<スピリチュアル>

【テレビから発信される不適切な表現】
「テレビだって自主したりして視聴者のことを考えているじゃないか」と反論されるかもしれませんが、僕からしたらハッキリ言って噴飯物です。もっとも、僕が興味のないトピックについては分かりませんが、ある程度知識がある分野についてはいかにテレビの情報がバカげているかが分かります。以下に少し例をあげましょう。

「シュモクザメは凶暴な人食いザメ」
「カワウソは可愛いペット」
「動物と話せる女」
「スピリチュアル系(主に生まれ変わり系)」

僕からすれば、これら全て、ある程度知的な情報発信者であれば安易に発するべきでない極めて不適切な表現です。テレビが「公共の電波」で情報を視聴者にお届けするのであれば、あまりにお粗末です。
一応順番に解説しましょう。

<シュモクザメ>
体が大きくダイバーが遭遇する可能性が恐らく最も高いアカシュモクザメについて言えば、性格が臆病なため、こちらから余程のことをしない限り攻撃されることはまずないでしょう。仮に攻撃するにしても、シュモクザメの口は小さく、噛み付かれて怪我をすることはあっても、ホホジロザメのように僕らの体を引き裂いて食べるには無理があります。怪我をしてかなり弱っている状態か、幼児が海に放り出されでもしない限り、シュモクザメが人を食うことはないでしょう。

過去にシュモクザメが小さな子供を食べてしまったという話がありますが、仮にそれが事実だとして、一匹のセントバーナードが幼児を殺したとしても全てのセントバーナードを殺人犬と呼ばないですよね。同じように、シュモクザメ全体を人食いとするのは不適切です。

あまり知られていませんが、アカシュモクザメ、シロシュモクザメ、ヒラシュモクザメの日本近海でも生息している三種はフカヒレを目的とした漁などで個体数が減少傾向にあります。さらに言えば、大型シュモクザメ類は、エイというサメ以外があまり捕食対象にしない生き物を食べているという意味で、生態系において重要な役割を担っています。アカシュモクザメが大きな群れで回遊する理由も正確には分かっておらず、絶滅させてしまえばどんな影響が生じるか分かりません。人にとって害悪でもないシュモクザメを悪者扱いすることは、間違っているどころかかなり迷惑な話なのです。

にもかかわらず、シュモクザメは「恐怖の人食いザメ」などと一部のバラエティー番組で報じられています。かつては『どうぶつ奇想天外』などサメを殺人マシーンではなく、怖いながらも優れたハンターとして描く番組があり、現在でもNHK特番の一部がまともな情報発信をしていますが、近ごろのバラエティー番組は悪意さえ感じる劣化ぶりで、サメに詳しくない方が観れば誤解すること間違いなしの内容に、あきれてものも言えません。


<カワウソ>
カワウソペット問題については以前記事を書いたので詳しくそちらを読んで欲しいですが( 「可愛い!」がカワウソを滅ぼす? “絶滅危惧種のペット” カワウソの実態 )、カワウソは絶滅危惧種であり、犬・猫のように安易にペットにするべきではありません。野生個体保護のために規制を強化すべきで、飼育は動物園・水族館など、保護・研究・啓発を目的に然るべき知識を持って飼育できる施設に限るべきでしょう。

無論「だから今ペットで飼っている人は今すぐカワウソを捨てろ」とか言うわけではありません。飼ってしまったのなら責任を持って飼うべき(可能なら然るべき施設に預けるべき)ですが、イタズラに「可愛い」のイメージだけ押し出して、カワウソについて無知な人や「絶対危惧種とか関係ねぇ」という
バカがカワウソを飼おうとするのを促進しないで欲しいのです。

こうした事情はカワウソブームを取材する時点で専門家に当たれば分かるはずですが、テレビを観る限りカワウソカフェやペットのカワウソばかり。動物園が映っても可愛い赤ちゃん映してタレントが「キャー!」って叫んで終わり。実質の宣伝でしかないですね。

<動物と話せる女>
動物と話せる女は、もはやお笑いです。いや、バラエティ番組で登場するので、涙を誘っているように見えて実はお笑いネタなのかもしれません。だとしたら、志村さんもベッキーさんも演出を間違えていますね。

動物と僕たちでは生きている世界が違います。視覚よりも嗅覚が発達している動物は匂いで世界を見ているかもしれない。見えるもの、聞こえる音、嗅ぐ匂い、全てが人間と異なるのです。人間が感じていない刺激を受けている動物も沢山います。サメを例に出せば、ほぼ全てのサメがロレンチーニ瓶という感覚器官で生き物が発する微弱な電流を感じ取れます。当然脳の構造も異なっています。

人間とその他の動物では、ただ単に頭が良い悪いとかでは測れない、知覚世界の根本的な隔たりがあるはずなのです(それは優劣とは関係なく、体験している世界そのものが異なるということ)。それなのに、「この子は悲しんでいるわ」とか「この子はあの子とまた会いたいと思っているの」と動物の言葉とやらを平然と分かりやすいメッセージに変換している時点で、相当に疑わしい。

仮に彼女が動物の気持ちを本当に理解できるのであれば、まだ未知である動物の思考様式についても分かるはずなので、今すぐ研究機関に赴いて科学に貢献して欲しいところです。また、テレパシーでないにしても表情や微妙な鳴き声の違いなどから動物の気持ちを読みとっているなら、その根拠を明示すべき。どちらもできないなら、オカルトの可能性が高いとしか言えません。

当然、テレビはこんな難しい話は抜きにして、ただ単に手ごろな感動話が欲しい一般人や騙されやすい頭が幸せな人向けにあーだーこーだとお涙ちょうだい動物物語を作ります。「動物と気軽に話すことができる能力者がこの世にいる!」と信じ込ませるのは、「こういうニッチな市場がありまっせ」と詐欺師にアドバイスしているに等しいです。これを不適切と呼ばずに何と呼ぶのでしょうか。

<スピリチュアル>
スピリチュアルなものについて。これはサメも自然も直接関係ないけど、最近意識高い系が「スピリチュアル」という言葉を肯定的に使い、なんにせよ何かの概念を積極的に広めようとしていることもあり、個人的に触れておきたいです。

学術的定義は抜きにして、俗に言うスピリチュアルというのは、以下の三つくらいに分類できると思います。

①単なる人生訓や格言を神秘的と見なして規則・法則化するもの(引き寄せの法則系)

②それ自体はデタラメなデマで済まされるけど詐欺などで悪用されかねないもの(血液型占い、水からの伝言系)

③その考え方自体が反社会的思想につながる危険性があり警戒すべきもの(魂の階層性、輪廻転成系)

①ならまだいい。ことわざと思って実生活に活かす程度なら害はないでしょう。②と③について、あまりにも警戒心がない人が多い。飲み会では多くの人が血液型占いの話題をバンバン振ってくるし、平然と『水からの伝言』というキング・オブ・アンポンタンな本の話を引用してくるセミナー講師もいる(それで商売が成り立っちゃうのがすごい)。

前世や輪廻転生についても「スピリチュアルな話って抵抗ある?」という超気軽な前振りで話し出す人がいて驚かされました。前世・生まれ変わりは、魂の階層性という概念とともにオウム真理教や一部の宗教の教義として用いられ、本人ではどうすることもできないものによって人に階層をつけること、つまり絶対的差別につながる思考です。『シャーマン・キング』みたいな明らかなフィクションならともかく、さも現実かのごとくテレビで放送するのはかなり問題です。しかし、現実には「スピリチュアリスト」、「スピリチュアル女子大生」、「前世を占うオカマ」など、ヤバい連中にテレビがお墨付きを与えちゃってます。

何より怖いのが、僕がこうした話をしても「難しい話は分からない」という理由から、僕より教祖的存在の言葉を信じる人が多いということ。人の幸福だの追求するほど意識が高いなら難しいことも考えてほしいものですが、言葉だけ高尚なことに引かれ、頭の中はお花畑の人たちが多いのでしょう。

以上解説した通り、これまでの四つの事例は肯定的に広めるのは不適切な表現に該当しますが、どれもテレビで平然と流されています。シュモクザメは危険動物特番で人食いザメとされる常連だし、カワウソペットブームはテレビもバックアップしてるし、動物と話せる女ハイジとやらは未だに『天才しむら動物園』に出演している(アルプスに帰って欲しい)。江原啓之氏をはじめとしたスピリチュアル芸能人も健在です。こんなものが平然と「公共の電波」とやらで流されていては、自主規制もへったくれもない。こんな事態が許されているのであれば、ゴールデンの時間にレイプもののAVが放送されても、僕は全く驚きません。いや、流石に驚くかもしれないけど、「おお、ここまで来ちゃったか〜」くらいかな。

テレビについてはまだ言いたいことが沢山あるのですが、事例を紹介するだけで結構体力使っちゃったので止めます。何が言いたいかといえば、テレビからは平然と不適切な情報が流れるので気を付けてねってことです。というより、テレビを見ても利益にならないように感じます。僕が「すごい」って思う人で、テレビを観まくって学んでいますという人はまずいません。英語教師で僕の恩師である安河内哲也先生は海外テレビドラマを観まくることで語学学習することを推奨していますが、そのくらいですかね。それもテレビ自体が目的ではないですし。

ちなみに、「池上彰の番組みたいに分かりやすくてためになる番組ならいいじゃないか」と思うかもしれませんが、池上氏本人が「テレビは観るものじゃなく出るものだ」と発言しています。池上さんを応援する意味でも本を買いましょう。

強いてテレビが役に立つ場合を言えば、貴重な映像が公開されることですね。深海ザメを特集したNHK番組『謎の海底サメ大国』は、クジラの死体に群がる深海ザメの食事シーンなど、極めて貴重な映像を僕たち非専門家のもとに届けてくれました。出演されていらっしゃった田中彰先生も、サメの研究や保護に長年携わってきた国内トップクラスのサメ研究者です。一般向けの番組としては十分すぎるクオリティだったと言えるでしょう。こうした映像作品は、図鑑や書物では味わえない興奮や知見をもたらしてくれるという意味で価値があります。こうした番組ばかりならいいのですが、残念ながらそうもいかず、おまけに民放ならCMも流れるので、映像で良質なもの触れるなら、DVDを厳選したり優れたYoutuberを見つけた方がいいかもしれません(そう、僕みたいなね!なんてね笑)。

さて、長くなったので今回はここで締めますが、ここでは動物と話せる能力という非科学やスピリチュアルというサメと直接関係ないトピックについて、何故僕がここまで語るのかという理由まで至れなかったので、今度の記事でお話ししようと思います。

その時まで、引き続きよろしくお願いします!

【Writer Profile】
自称サメ社会学者Ricky
1992年東京都葛飾区生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。2016年から現在の肩書を使って活動。社会人として普通に働きながら、サメ関連イベント参加、水族館巡り、水族館ボランティアなどの活動を通してサメについて学び、サメ、環境、水産、動物倫理などの分野で情報発信を行う。Youtubeでの動画配信や、第3回ソーシャルドリームコンテスト、もうやん文京などプレゼン・レクチャーイベントで登壇。今後、書籍の出版など活動の幅を広げていく予定。

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