対話型マネジメント。非医療介護職の私が3ヵ月間介護職の現場マネジメントを務めた話。
こんにちわ。コロナになったnoteから1年間もご無沙汰になってしまいました。
皆様、お元気でしょうか。私はとっても元気です。冬は嫌いです。コンサルから病院に転職して、ちょうど2年ぐらいの月日が経とうとしています。
ここ2年ぐらいは具体と抽象の思考が行き交う、中々いい感じの時間を過ごしています。
現場で起きる人と人とのもつれ(適応課題)は、なんとも不思議で歯がゆく、またそこが面白くもあります。人の良い部分や悪い部分をたくさん見て、「人間って面白っ」と思えるほどには、いい感じに肩の力が抜けてきました。
入職当初は、THEコンサル的な課題解決マンで毎日鬼のような顔をしてましたが、最近はだいぶ表情も軟らかくなってきたねと言われたりしてます(笑)
僕の立場は人事・人材開発・経営企画の責任者です。対話と仕組みの両輪でヒトの観点から病院を少しずつよくしていくことが、僕の仕事ですし、僕のやりたいことでもあります。急ぎすぎると、違う歯車が壊れてしまうのをここ数年見てきたので。
さて、そんな僕ですが、10月-12月の3か月間、介護科の課長代行として、20名程度の介護士の現場マネジメントを行っていました。
ここ数年の組織改革で病棟の役職者も変わり、現場が不安定な状況が続いました。
この状況を、「第3者的な立場で、かつソフトランディング的に解決してほしい」という要望で経営会議で僕に声がかかりました。最終的には、経営会議で「本当に僕でいいのか?」と確認し、皆の合意を得たので、承諾をしました。
これまで、マネジメントはそこそこ経験してきましたが、自分の専門性が届かない現場職のマネジメントは初めてでした。
でも、個人的にはワクワクする案件でした。現場の人たちと一緒の世界を見れることがシンプルに嬉しかったのです。加えて、自分がこれまで行ってきたマネジメントスタイルと仮説がどこまで通用するのかを試してみたかったという思いもありました。
そこから時を経て、今年の1月からはお役御免ということで、今はその任を降りて、後は現場リーダーに引継ぎ、今はサポーター的な立ち位置で見守っています。まだまだ課題は山積みですが、「皆で前を向いて歩こう」という雰囲気が少しずつできてきた気がします。
自分自身も新しい視点を得たとても貴重な3か月間だったので、しっかり記録しておこうと思います。
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私のマネジメントスタイル
少し話を脱線しますが、私の今のマネジメントスタイルは対話型です。「対話とは何か」は色々定義があるので割愛しますが、ひざを突き合わせての話し合いを大切にしていると思っていただければいいです。
対話型マネジメントはこちらの本が分かりやすいのでどうぞ。
というのも20代の頃に初めてマネジメントをした時に、鬼のような進捗管理をしすぎて失敗した苦い経験があります。
そこからコーチングの学びやコミュニティ運営をする過程で、「安心安全な場づくり」の重要性を感じました。俗にいう、心理的安全性というやつです。
人に焦点を当てるのではなく、土壌に焦点を当てる。「安心安全」の場づくりが人の変容に繋がると、コミュニティ運営を通して学びました。地面がぬかるんでいると、ジャンプもできませんから。
そこからマネジメントスタイルを対話型に大きく変えました。今はメンバーと1on1面談を週1回1時間するという手法にしています。そこでは、話すテーマは決めず、時には雑談で終わることもあります。
すぐに結果につながるわけではありませんが、続けていると次第に顔色が変わり、のびのびと働いて成果を出すメンバーを見て、このスタイルが自分には合っているなと今は思っています。
「人は自分のタイミングで自然と変わっていくし、変わるには自分で気づくしかない」
変わることを押し付けることは、時に相手の安心を脅かし、結果的に変容に繋がらないことがあります。気付きの余白が残ることが、対話の良さだと思っています。
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起きていることを見つめる(現状把握)
話を戻します。10月からの正式な役職の任を受ける前に、自分なりに何が起きているかをまず整理してみようと思いました。コンサル的に言うと「まずは現状把握」ですね。幸いに現場職とはこれまでに頻繁にコミュニケーションを取っていたので、それなりに現場の実情は把握していました。
また、私が現場マネジメントをすることに、現場から大きなハレーションもなく、すんなり受け入れてもらえたのは幸いでした。
色々ヒアリングをしてみると、おおよそ以下のような課題が上がってきました。
上記の様な課題は現場職に限らず、多くのチームのあるあるです。個人のこれまでの経験で、ばらばらに動いている状態。この状態だと必ずどこかにずれが生じますし、価値観のすれ違いが起きます。結果として、人間関係の悪化につながる。よくあるテンプレートだと思います。
僕の経験上、このケースは話し合いがきちんとされていないチームでよく起きると思っています。
どうして話し合うことができないか。「重要だけど緊急ではない」ので、あと回しにされやすいからだと思っています。よく言う第2領域というやつです。ひざを突き合わせて話すことは労力がいりますから、なおさら後回しにされやすいです。
特に、現場職が抱える日々の業務には緊急度が高い案件が多いと思います。結果として、日々の業務をこなすので手一杯で、「話せたらいいよね。話したいね」ということだけ互いに伝えて、話し合いはされないということがしばしば起きます。
現場職には致し方ない側面もあります。ただ、話し合いが開催されないまま、毎日もやもやが溜まりに溜まって、ふたを開ければ取り返しがつかいないことになっているというのはよく目にするケースです。先送りにした第2領域の問題が、「価値観の違い」や「あの人とはもう分かり合えない」といった、特大ブーメランになって返ってくるのです。
だからこそ、少ない時間でも定期的にお互いの気持ちや考えを伝える場が必要だと僕は思います。話し合いの時間を作りにくい職種だからこそ、仕組み化することが大切です。
現状把握がある程度終わったタイミングで、今の現場に足りないのはまさに「話し合い」だろうと確信しました。
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私の役割確認と3か月後のゴールイメージ(要件定義)
さて、何となく自分がやるべきことは分かったてきたので、次は自分の今回の役割を明確に示すことにしました。ペライチの簡易な役割基準書を作り、経営メンバーと現場メンバー1人1人への説明を丁寧に行いました。
この工程を踏んでおかないと、経営メンバーからは「期待していた役割と違う」と思われるし、現場からは「この人は何をする人なんだろう」と不思議がられて、ミスコミュニケーションが起きることがあります。
あくまで私の役割は、「こういうことで、こんなことを考えてます(ここはやりますが、ここはやりません)」と伝えて回りました。
次に3か月後のゴール設計です。そもそも3か月でできることには限りがありますし、大前提として自分が抜けた後の1月以降も運用が回るように設計しなければなりません。3か月後のことを考えずに、「自分が変えたいものだけ変える」は絶対にやってはいけません。
手を入れるところ、手を入れないところの線引きが必要です。
定性的な目標ですが、このあたりが良いだろうと考え、経営メンバー、現場役職者(看護、介護とも)ともに3か月後のイメージの認識すり合わせを行いました。
僕の仕事場はナースステーションです。他の通常業務(人事・経営企画室業務)もあるので、日々の介護の現場業務までは入れませんが、できるだけ同じ景色を見たいと思って、作業場を1階から2階の病棟に変えました。
始めは私が毎日ナースステーションにいることを不思議がられましたが、次第に馴染んでいきました。
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話し合いの場を作る(会議調整)
まず初めに、話し合いの場を仕組み化するところから始めました。何のことはありません。ただ会議を調整するだけです。
前述したように「話合えたら話し合いたいね」は、結局時間が確保されず、話し合いの場が開催されません。なので、会議自体を定例化し、3か月分の予定自体をまずブロックしてしてしまいます。その予定をベースにシフトを作成します。
とても基本なことですが、すごく重要なことです。定例の第何週と決まっていることで必ず話し合いは開催されますし、日々の業務の中で課題が見つかった時に、「あの会議の場で出してみよう」という課題解決の癖がつくからです。
会議の時間は病棟役職者と相談し、とても申し訳ないけど今回は時間外とさせていただきました。その代わりに1時間で終わらせること、時間外申請をその場で行うこと、アジェンダは事前に回収すること、不毛な会議をしないこと、を約束しました。
嫌な顔せず、「話し合いは必要だから」と快諾していただいた病棟役職者の皆さんには感謝しかないです。
というわけで、看護科も巻き込み、下記のような会議体を設け、関係者の3か月間のスケジュールを全ブロックしました。
議事録は必ず作成し、データを全員のグループラインにて共有しました。そして、参加できなかった方には議事録を基に、1人1人読み合わせを行いました。
やっていることは実にシンプルです。ここを丁寧にやるかどうかで運用に大きな差が出ますし、次回の会議の質がぐっとあがります。
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話し合いの土台を作る(話し合いルール)
話し合いの場のスケジュールはできました。しかし、「会議が上手く進行しない」と、たいていの場合は次に、会議自体の中身の課題にぶつかります。
なので今回は全ての会議のファシリテーションを私が担当しました。本当はここもすぐに現場に任せたいところですが、会議の質はファシリによって大きく左右されます。今回は「話し合いの必要性を感じてもらう」ことが優先なため、私が担当することにしました。
ファシリテーションは、前職のハイズ時代(医療経営コンサル)の経験やコミュニティ運営(SHIP)でかなり鍛えられたので、自分の得意分野の一つです。
ファシリテーションのテクニックを書くと、これもnote何本かになってしまうので、大事にしているポイントだけサクッと書きます。
会議中に①~③を意識して、「今何を話すべきなのか(目的)」をアジェンダのタイミングやその都度、確認していくことが重要です。
意思決定のみの会議になってしまうと、声の大きな人の意向が重視され、対話がおろそかになり、価値観のずれが生じます。
情報共有のみの会議だけだと、「この会議は意味なくないか?」と感じて、会議に参加しない人(発言しない人)が現れます。
対話のみの会議になると、「話合えてるのはいいけど、ちゃんと進んでいるのか?」と不安な気持ちになってしまいます。
「この議題はしっかり決めようね。この議題は共有のみにしとくね。この議題はまだ決めなくていいから、じっくり時間をかけて話そうね」
都度、議題の目的と前提となる条件を丁寧に揃えていくことが、きちんと話し合いをするうえで、とても重要です。「会議がしっかりと進んでいる」という安心感が会議への参加への集中度に繋がると思っています。
さらに、会議の導入部分も丁寧にしたいところです。タイムマネジメントも大切ですが、どんなに短くてもいいので、会議の冒頭にはできるだけチェックイン(アイスブレイク)を実施しています。
なぜなら、頭の中の大半は「さっきまで行っていた業務」が占めているからです。
なので、会議に集中してもらうための頭の切り替え作業として、チェックインをすることで、スムーズに会議にはいっていくことができます。ざわざわした心を落ち着かせるためにも有用です。
合わせて、話し合いのためのルールもできれば皆で作成し、毎回の会議の冒頭で皆で確認することもオススメです。
ファシリテーターとしては「何を言っても拾ってくれる」という安心な空間づくりが腕の見せ所になってきます。
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役職者同士が共同帯意識を持つ(チームルール)
話し合いが滞りなく開催されるようになってきたので、次に手を付けるべきことは、「役職者同士の考えをすり合わせること」だと思いました。
意識統一が図れているとは言わないまでも、ある程度の方向性や大事にしていることの共通認識を持っていおくことは、今後話し合いを進めていくうえで重要です。
「私たちは敵ではない。仲間だよ」
共同帯意識を持つこと。チームビルディングの意味合いも兼ねて、役職者のチーム運営ルールを皆で決めることにしました。
方法はワークショップでも対話でもなんでもいいです。大事なことは、与えられたものではなく、自分達で考え言葉にすることだと思います。考える余白を残すことです。
3か月間の中でチームルールを振り返り、「今これ大切にできているかな?」とか自分達を問いかける時間を何度か作りました。
対話を重ねて、少しずつ自分たちの言葉に落としていくことで、チームはよりしなやかになっていくと思っています。
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毎日振り返りを実施(経験学習サイクル)
今回の私の関わりの中で、一番重きを置いていた点はここです。毎日、その日出勤している役職者と15分間の振り返りを行いました。
議題はなんでも大丈夫です。
自分のための時間ではなくて、相手のための時間
その日の業務の振り返りや今モヤモヤしていることを言葉に出していくことを繰り返します。
何もトラブルがなかった平和な日でも、「なにか引っかかっているものはない?」と聞いてみると、「ひっかかるってほどではないんですけど・・・」と小さな声が意外と上がってきます。
振り返りの中で上がった課題や決まり事項は、他メンバーに情報共有の抜け漏れがないように、スプレッドシートにまとめておきます。これを役職者間で共有し、いつでも見れるようにしていました。
始めは面倒に見える作業かもしれませんが、毎日繰り返していくと、「今日は何かあったかな?」と、振り返りの癖がついてきます。
振り返りの癖がついてくると、自分が考えていることや思いを言葉にするのが上手くなります。言語化というやつです。
何かを経験したままにして、振り返りをしないままは、とてももったいないです。そこには新しい気づきがあるからです。
経験を経て、振り返り、言語化していくことで、次の新しい実践に繋がっていく。経験学習のサイクルを自然に回せれるようになると、人は自走をしていくと思っています。
ただ、自分1人で振り返りをするのはなかなか難しいですし、疲れます。だからこそ、他者との対話を通して、経験学習サイクルを一緒に回していくんだと思っています。
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メンバーとのすり合わせ(定例1on1面談)
今回の3か月間は役職者同士の「話し合い」が優先課題ではありますが、役職者とだけ話していると他メンバーと壁が生まれますし、当たり前ですが見えてこないものがたくさんあります。
メンバーとは月1回は定例で1on1面談を設け、すり合わせの時間を作りました。すり合わせには、下記の9ボックスが役に立ちます。
メンバーと話すときに意識したことは、「メンバーから出た課題をそのままにしないこと」です。もしかすると、その課題はメンバーのSOSの声かもしれません。課題を聞くだけ聞いて放置してしまうと、1on1面談が逆効果になります。
皆からの課題や改善意見は資料にまとめて、進捗は見えるようにしました。解決した議題は、病棟会議で資料にまとめて共有し、動いていない課題に関しても「今度の議題にあげてるからね」と進捗を口頭で伝えるようにしました。
メンバーにも「何かが変わる。良くなるかもしれない。」という期待感と空気を作っていくことも大切なことだと思っています。
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他にやったこと(マネジメント業務)
他にやったことは以下の通りです。この辺りは一般的なマネジメント業務なので、詳細な説明は割愛します。とりあえず、資料はたくさん作りました(笑)
最近は受容系の優しいマネージャーが増えてきましたが、耳の痛いこともきちんとフィードバックをすることもマネージャーの重要な役割ですよね。私は昔からフィードバックが苦手です。心がきゅっとする、あの感じで苦手で。人事に不向きな性格だと自分でも思ってます(笑)
これではだめだと思って、色々本で学んで試してみた結果、「包み隠さずストレートに伝える」という手法に今は落ち着いています。普段の自分との落差にびっくりされることもあります(汗)
マネジメント業務でフィードバックと評価がやっぱり一番嫌ですよね。
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分断が引き起こすもの
冒頭に申し上げた通り、今は少しずつ皆で前を向いて歩こうという雰囲気ができてきた気がします。1月以降も会議は継続されていますので、話し合いの仕組みは継続されています。
看護と介護の連携も以前より進み、協力体制ができてきました。役職者の連携が以前より強くなったことで、病棟が安定してきたように思います。
頑張ったのは私ではなく、現場のメンバー皆です。時間がない中でも話し合いに参加してくれて、一つ一つ改善を進めてくれました。
改めて、心から感謝したいです。ありがとう。
どんな仕事もどんな職種も中心にあるのは、「話し合い」だと私は思っています。
話合いがなされないままだと、自分自身の仕事の領域のみを自分のスタイルでやる人が増え、分断が生まれます。
分断が生まれると、分断の間にある業務を特定の人が埋めるようになります。そのしわ寄せに耐え切れず、「どうして私ばかり・・・・」と不満が大きくなって、チームの人間関係が悪化に繋がります。
新型コロナウイルスの業務対応はまさにだと思います。ワクチン対応、スケジュール管理、検査対応等、既存の延長線上にない業務が降ってきたときに、話し合いがなされないままだと、納得できないまま特定の部署が担当することになります。結果として、業務負荷が起き、部署間での連携に溝ができます。
更に、新型コロナウイルスの影響で、話し合いの機会もどんどん減ってきました。緊急時には、話し合いが設けられたとしても意思決定の場面が多く、ゆっくりお互いの考えを話す機会を作ることは難しいです。
こんな時代だからこそ、「まず話し合おうよ」と素直に言えるチームづくりが大事だと思います。
「モヤモヤしたら話そう」、「困ったら相談したい」と純粋に思える人間関係の質が、最終的には結果の質につながると私は思います。これが生産性の向こう側なんじゃないでしょうか(笑)
とても長くなりましたが、このnoteを読んで、明日誰かとゆっくり話してみようかなと思ってもらえたら幸いです。
(ばいばい)
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