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00s to 20s 〜チャットモンチーとリーガルリリー

時代は2020年代。僕がポップカルチャーに自覚的に触れ出したのが2000年代半ば。15年程が過ぎた。当時リアルタイムで触れていたモノに共振するような作品がここ数年増え、2000年代は既に影響元として語るべき世代になったと実感する。この「00s to 20s」シリーズの記事では音楽を中心にしながら、ゼロ年代とトゥエン年代(byスカート澤部氏)を繋げ語りしていきたい。

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2014年結成の女性3ピースバンド・リーガルリリー が2020年2月5日にリリースした1stフルアルバム『bedtime story』が強烈な聴きごたえだ。切れ味鋭いヒリついた演奏を耳に残しつつ、その轟音の中には美しさと温かみが光っている。感情の揺れにくっきり連動しながら緩急自在に噴出していくサウンドスケープは、少し危険な匂いを含みながら心に沁み渡っていく。


3ピースのガールズバンド、少しファンシーな女の子がボーカルを務め、キューンミュージックからのメジャーデビュー、というトピックと言えば思い出すバンドがもう1組。今から約20年前、2000年の春に徳島の高校で誕生したチャットモンチーだ。2005年のメジャーデビュー以降、日本を代表するガールズバンドとして名を馳せて、後世に多大なる影響をもたらした存在だ。


2000年代、中高の軽音楽部でチャットモンチーのコピーバンドはとても多かったように思う。女の子が3人寄ればチャットを鳴らし、3人寄らなくても歌いたい女の子が1人いれば男子2人が加わってチャットを鳴らしていた。教室の隅で自意識を燻ぶらせる代わりにギターを持った彼女を見守るしかなかった僕、、なんていう有ったか無かったか忘れたけど妙にくすぐったくなる思い出を勝手に蘇らせてくるチャットモンチーの音楽。自然で逞しい立ち振る舞いと、そこに宿る鮮やかな詩情は少年少女の感性を大きく揺さぶった。

たかはしほのか「チャットモンチーにはなりたかったんですよ。でも、なれなかったんで……。私たちは変な音楽がやりたいんですけど、(チャットモンチーは)シンプルなことしかやってないのに変っていうのがすごいなぁと思います」 (Mikiki インタビュー 2017.08.30 より)

リーガルリリーのVo.&Gt.であり全楽曲の作詞作曲を担当するたかはしほのかもまた、かつてチャットへの憧れをこのように語っていた。研ぎ澄まされたアレンジの中でしなやかに世界を描き出すチャットの表現力は卓越したものがある。そこに羨望の眼差しを向けつつも、自らはそうなれないと凝った曲作りを行っていたリーガルリリーだが、『bedtime story』では直情的かつ表情豊かなグルーヴを獲得し、シンプルなサウンドも聴き所の1つとなった。


チャットモンチーはメンバー全員が書く三者三様の歌詞も特徴だが、特にVo.&Gt.橋本絵莉子の綴る歌詞は常に感嘆と畏れと共に受け取っていた。特に2000年代、恋愛描写の中にシリアスな情念をぶつけた歌詞は当時中高生だった僕に「女の子、怖くね、、?」と思わせるにはあまりある禍々しさを放っていた。2009年『告白』収録の「やさしさ」にある、《明日ダメでも明後日ダメダメでも 私を許して それがやさしさでしょう?》というパンチラインに、「それがやさしさなのか、、」と素直に受け取る程には心酔していた。


リーガルリリー・たかはしほのかの書く歌詞はどうだ。散文詩のように印象的なフレーズを連ね、句読点と独特なアイテムを用いながら生み出す幻想的でシュールな世界は彼女の脳内にそのまま繋がっているよう。感情をぶつけることはせず、自らの感情の中に引きずりこむ魔力を持つ。"私"の世界を起点とし終点とするような詩作は《私は私の世界の実験台 唯一許された人》と歌う「1997」にも顕著だ。"私と君"の関係を描く楽曲においても、恋愛的な匂いは漂白され、2人の間に流れる危うくも気高い詩情だけが残存する。


たかはしの歌詞に初期から刻まれていた戦争や死への恐れは、基地のある町・福生で育った原風景から引き出されたものだろうし、シリアスな祈りのように鳴り響く。混迷を極める2020年代を生きる若者の言葉として切実であり、政治的なものではないひとりの"声"として生々しく聴こえる。こういった大きな題材も自分の世界の話として自然に歌の中で語ることができるシンガーは稀有であるように思う。『bedtime story』は、穏やかな気持ちをくれる作品であると同時にその背後に刻まれた傷痕や恐怖も隠さず描き切った。


チャットモンチーの話に戻る。2010年以降、ライフステージの変化に伴って橋本の歌詞にも変化が訪れた。より広い世界を捉え、人生観・生き様を投影した慈愛のある楽曲が格段に増えた。2012年からはバンドの音もどんどん刷新され、2018年の解散まで常に新たな表現を求め続けるタフなバンドへと変わっていった。橋本がチャットモンチーを結成してから20年経つこの春、橋本は児童学習誌「小学校一年生」のCMソングを歌唱している。奇しくも橋本には4月から新入学を控えた息子がおり、あの頃のえっちゃんを知る世代としては時の流れに軽く眩暈がしてくる。若き衝動も母になって見える景色も、どんな自分も引き連れながら橋本は無二のシンガーになりつつある。


結成6年目のリーガルリリーは今もなお活動初期とも言える時間におり、たかはしほのかがどのようなソングライターになるかは分からない。既に確立された美学を持つバンドだが、たかはしのこの世界の捉え方次第で無限に変貌していく余白も残している。『bedtime story』においても、軽やかに跳ねる「まわるよ」やどこかリラックスした音色を操る「猫のギター」など新機軸な楽曲も多く揃っている。時代の潮流とは無縁に、鳴らしたい音を鳴らす主義の下で今の時代を寓話的に解釈した言葉を放つ。そんな特異な距離感で世界にリーチする在り方はある意味最もその時代を歌えるのではないか。鳴らしたい音に導かれながら、しなやかに年を重ねるバンドであって欲しい。



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