見出し画像

麦と絹が聴かなくなったロックたち〜「花束みたいな恋をした」空想前日譚の・ようなもの


上のツイート、自分ながら笑ってしまうほど無茶苦茶な放り出し方だなぁと思っていたのだけど想定以上に多く拡散されて、意外とみんなそう思ってたのかも、、と。そう、この映画、所謂ロックミュージックへの言及がワンオク以外にほとんどない。あるとしたら麦くんの来てたナンバーガールのTシャツか、家にあったくるり『ファンデリア』のレコードくらいか。いや絶対聴いてたはずじゃん2人とも!昔は聴いてたロックバンド、いるでしょ?!SCHOOL OF LOCK、聴いてたでしょ?!という思いから勝手ながら麦と絹が聴かなくなったロックたちを10曲選出。2人が出会う前に思いを馳せたい。


1.BUMP OF CHICKEN「K」

小学校高学年から人とは違うセンスを身につけたいと思ったならばインターネットが最も手っ取り早い。麦と絹がいつからカルチャーに意識的だったかは定かではないけど、2000年代のネット文化に触れてなきゃ押井守を神と崇めない。ということは絶対おもしろフラッシュ倉庫にも入り浸っていたのだろうし、BUMPとの出会いは必然的にフラッシュ動画です(下記動画は無音)

驚いたよねぇ、Kの意味が明かされるラストカット。僕も驚きで目が回った記憶。ダンデライオンもラフ・メイカーも観たよね。だいたいローティーンの芽生えたての自意識に藤原基央の言葉が刺さらないわけがない。麦と絹が拾った黒猫にも、バロンじゃなくてHoly Nightと名付ける未来もあったはず。


2.ASIAN KUNG-FU GENERATION「江ノ島エスカー」

僕みたいにNARUTOとハガレンでハマれなくても、「ソラニン」と「横道世之介」があるから逃げられない。あのカルチャー圏でアジカンを無視できるはずがない。中学時代に『サーフ ブンガク カマクラ』を聴いてたと考えるならばきっとそのアルバムを聴きながら江ノ電乗車もやったことあるだろう。

だから静岡旅行のシーンではハンバーグ屋のさわやかではなくてゴッチの地元である島田市を聖地巡礼するシーンがあってもおかしくなかったはずなんですよ。ところで2人はいつアジカンを聴かなくなったのだろうか。『ランドマーク』頃か?夢に生きたい2人にとっては現実を見せつける音楽はキツいのかもしれない。でも、現実に抗う喜びを歌い続けてるアジカンもイイのよ。


3.ELLEGARDEN「Red Hot」

アジカンを聴いてれば伴って聴くことになるバンドも何組かいると思う中でも、エルレの存在は際立っていたと思う。麦と絹にとっては最初の英語詞の曲を聴く体験だったんじゃないだろうか、僕もそうだし。絹ちゃんは分からないけど、麦くんはあの大学での振る舞い方を見る限り、ウェイすることも一興と捉えてるフシはありそうなので、高校くらいの時はカラオケでエルレをカッコよく歌うことに命を懸けてたくらいのことはありそうだ。

高校の卒業式の間、ずっと「Red Hot」の歌詞カードを読んでた奴がいたけどあれはイメトレだったのかな。それはそうとフェスとかでパンクロックを浴びるのは苦手そうな麦と絹、スカパラで肩組まされるのとかも嫌がりそう。


4.フジファブリック「蒼い鳥」

フジファブリック初期のMVたちの映像美にやられ、『FAB FOX』の奇天烈さに心を掴まれたら2007年のシングルリリースラッシュはきっと楽しみだったろう。当時中学1年生にして塚本晋也に触れていたとは思えないけど、フジファブリックが主題歌なら、と「悪夢探偵」には手を出してそうな気がする。

「若者のすべて」も当然リリース時点で把握していて、自分だけが大切に思っている曲にしていただろうから、2012年の月9くらいから盛り上がりを見せ始めた「若者のすべて」のブームはちょっと距離を置いた感じで見届けてそう。でも何年か経ったらこの「若者のすべて」の人気も受け入れられるようになるはず。大人になるからね。Mステでの披露にもちゃんと泣くよ。


5.チャットモンチー 「恋愛スピリッツ」

男心、女心みたいなことに言及するのすら慎重になってしまうのだけど、誤解を恐れずに言えばやっぱりチャットモンチーの初期三部作にはこちらが慄いてしまうほどには、女性にしか書けない強い言葉が詰まっているように思う。絹ちゃんのあの気ままなように見えて図太いタフさを培った音楽の1つとしてチャットモンチーの尖ったスタンスを支持していたのはしっくりくる。

麦くんはわぁかっけーくらいにしか聴いてなかったと思うけど、だんだん分かってくる、この曲に込められた情念の正体に直面する瞬間が来るはず。2人はチャットモンチー・メカとかをどう捉えてたんだろうなぁ、とか思っちゃう。2人の甘い夢が終わりゆく頃、このバンドも完結していくんだよなぁ。

6.神聖かまってちゃん「ロックンロールは鳴り止まないっ」

2人の高校時代に思いを馳せるとするならば、時は2010年代ロックシーンの幕開け。andymori、ふくろうず、星野源あたりはずっと聴いていただろうというのはイメージできるが、神聖かまってちゃんは瞬間的だったのではないか、と勝手な想像。2人とも間違いなく高2の夏にドラマ「モテキ」に打ち震え、満島ひかりのカラオケでの絶唱シーンとともにこの曲を克明に認識し、「劇場版 神聖かまってちゃん」で二階堂ふみとエンカウントしているはず。

けれど2人の文化圏に収めるには存在が破格すぎたような気がする。2人はネット発の音楽をどう捉えてたんだろう、とも考える。ニコ動にいるイメージはないけど、米津玄師はきっと『diorama』からチェックしてただろうな。

7.サカナクション「ネイティブダンサー」

2010年代を代表するバンドとしてセカオワ、ワンオクは槍玉に上がってしまったけれどサカナクションはきっちり聴いてたように思う。特に『シンシロ』付近の新たな波が押し寄せてる、っていう潮流は当時高校生の麦と絹にはぶっ刺さっていたのでは。ただ『sakanaction』以降、2010年代半ばにどうしてもリリースペースが落ちていったバンドなので、流行の最先端をキャッチするのに忙しい麦と絹は他のバンドに目移りしていったのだと予想。

サマソニで久々に観て、今こんなんなってんの?!とその壮大なアクトにびびってそう。和太鼓はないっしょ~とか、踊り子さん、何?などとのたまっておられそう。巨大化していくバンドから離れていく、それもまた青春。

8.クリープハイプ「手と手」

2012年、2人が大学に入学した辺りから巻き起こり始めたロックフェスのムーブメント。所謂四つ打ちロックなる踊ること、騒ぐことを重要視した音楽たちを2人が受け入れているはずがなく、この辺りは総スルーしてきっとシャムキャッツ、森は生きている、ceroなどを聴いていたんだろうな、と思う。

唯一、ギターロック界隈で聴いていた可能性があるとすればクリープハイプか。松居大悟監督の台頭、池松壮亮の躍進、さらに尾崎世界観の文壇への参入など、2人の周辺文化と接続する部分も多かったバンド。何より、2人の暮らしぶりはまさに1stアルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』的な刹那的で怠惰なムードに包まれていた。後々になって悶え聴き返したはず。

9.ゲスの極み乙女。「ぶらっくパレード」

当時、indigo la Endはきのこ帝国と近いシーンにいたので、インディゴのボーカルが何やら新しいバンドを始めたらしい、という情報はきっとチェックしていたに違いない。そしてYou Tubeで観たMVで鳴っていたのがいかにもアングラっぽい、ピアノが軽やかに鳴る"ヒップホッププログレ"なんてラベルが貼られていたら聴き始めることでしょう。新しいモノに飢えた2人なので。

ただ周知の通りどんどんマスに向かって開けていくバンドですし、2人が出会った2015年の1,2月ってまさに例の騒動の渦中なのできっと自然に聴かなくなったのかもしれない。でも2020年のアルバムでもう1回戻ってこれそう。音楽はいつ離れようとも、一度嫌いになろうとも誰も拒まないのが素敵な点。

10.Suchmos「Miree」

Suchmosのデビューは2015年初夏。2人は甘い日々の最中で、ヨギーやネバヤンと同じく生活のBGMになっていたのは間違いない。「STAY TUNE」だって早々にチェック済なはず。しかしステージを駆け上がっていく姿は、クリエイティブな仕事に憧れる麦くんには目を覆いたいほど眩しかったのでは。

2人が別れて以降、さらにドープな作風に移行していくSuchmos。2020年の冬、2人が偶然再会した数ヶ月後に出たのが『THE ANYMALS』。久々にSuchmosでもちょっと聴いてみようか、なんて思ったかもしれない。そして何でこんなことに?!と面白がりながらも、変わっていった自分たちにも目を向けていく。2010年代の後半ってつくづく変わり目だったんだな、と。

extra track.ももいろクローバー「ミライボウル」

バンドではないけどもう1組だけ。あのカルチャー圏にいたならば、ももクロ以降の、AKB48の侵食に拮抗するべく勃興したオルタナティブなアイドルシーンにはきっと一度は足を踏み入れていたはず。アイドルを聴くという行為そのものに1度は意味を見出すのがサブカルに染まりたい僕らの運命なのだ。

旧BiS、でんぱ組.inc、Negicco、lyrical schoolのチェックはマストだし、「バトル アンド ロマンス」前後までのももクロは必修科目だったわけです(「CDショップ大賞」がまだ有能だった時代、、、)。「ゴッドタン」とか「ウレロ」シリーズとの関係性もあったし。もちろん『5TH DIMENSION』以降の動きに文句をつけながら離れていくというムーブ含めて、の聴き齧りです。


それにしても映画「花束みたいな恋をした」、大ヒット中ですね。この間、近所の映画館に行ったら公開初週より人が入ってる印象でした。この作品が多くの人を惹きつけている理由、沢山あると思いますが"ポップカルチャーと自分"の視点で色々と論じたくなるから、というのは1つ大きくあると思います。自分の愛してきたカルチャーはそれまでの生き方の写鏡だと思う人、いやただの外面だよと思う人、様々です。僕は圧倒的に写鏡派で、何を好きでどこが好きで何を大事にしているか、がその人の中身に関わると思ってる派ゆえ、ここにあげた音楽の延長上にあの2人があると思うと更に愛おしい。

#映画 #映画レビュー #映画感想 #映画鑑賞 #映画備忘録 #映画紹介 #映画の感想 #花束みたいな恋をした #はな恋 #坂元裕二 #土井裕泰 #Asiankungfugeneration #アジカン #BUMP #BUMPOFCHICKEN #ELLEGARDEN #フジファブリック #チャットモンチー #神聖かまってちゃん #サカナクション #クリープハイプ #ゲスの極み乙女 #Suchmos #ももクロ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?