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2020年ベストアルバム 50

2020年に聴いたアルバムで良かったものトップ50。今年は特に、色んなタイプの音楽を聴いたつもりでいたけれど最終的に落ち着くのはこのラインナップで自分の相変わらず感にテへへとならざるを得ない。不安定な時代ゆえ、今まで好きだったバンドやアーティストに安定感を求めた結果かもしれないけれど、好きな人たちが良い作品を出し続けてるありがたさをひしひしと。


50位 さよならポニーテール『きまぐれファンロード』

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実態不詳のポップスグループ、7枚目のアルバム。前3作とベストアルバムでSF的解釈で世界を循環(それはジョジョ6部やインターステラーかのよう!!)した後で辿り着いた穏やかな日常系ポップスたち。青春の情景を小春日和のような温度感で描いてきた彼女たち、終幕なきモラトリアムの姿。


49位 田中ヤコブ『おさきにどうぞ

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バンド家主のボーカルやnever young beachのサポートギターとしても活動するシンガーの1st。様相、佇まい、喋り声、歌声、ギタープレイ、全部が思ってる逆を行く、意外性の塊みたいな人だがアルバムは実にウェルメイド。フォーキーさとシュールさと、ぼけっとしてたら少し泣けてくる日常のこと。


48位 SACOYANS『Yomosue

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宅録シンガーSACOYANが2019年に福岡で結成したロックバンドの1st音源。90s オルタナ系ポップスの匂いを持つメロディと歌声が、轟音を味方につけて迫ってくる。リリースパーティで何度も音楽の道を諦めかけたことを涙ながらに語っていたSACOYAN、世も末だった地底からの逆襲劇が始まるはず。


47位 挫・人間『ブラクラ

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2000年代中盤のネットカルチャーに浸かっていた身ならばきっと思い当たる節のある何にもなれなさ、ルサンチマン、死にかけの青春。大人になれば良い思い出、、にできなかったゾンビたちの私怨が渦巻く1枚。参照元にニマニマできるサウンドに加え、終盤の心象描写が真に迫りすぎてグサりとくる。


46位 Helsinki Lambda Club『Eleven Plus Two/Twelve Plus One

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UKプロジェクトの4ピースバンド、4年ぶりの2ndアルバム。どちらかと言うと脱力系な印象だったのだけど今回は1曲目からハリのある激しいサウンドを聴かせ、「パーフェクトムーン」では普遍的なバラッドも奏でる。言葉遊びの中に本音をこっそり隠すようなシャイネスもまたどこか可愛くて良い。


45位 ナナヲアカリ『七転七起』

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SMAの2.7次元シンガー、大ボリュームの2ndアルバム。ボカロPとロックシーンの旨みを凝縮し、ハイカロリーなポップスを出力。生き辛さやサボりたさをけろっと歌う同世代シンパを濃くしつつ、素顔な言葉も自作曲では綴るようになり、様々な角度から彼女の生き様が見え隠れしている。


44位 蓮沼執太FULLPHONY『フルフォニーFULLPHONY

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気鋭の音楽家・蓮沼執太が率いる総勢26名からなる楽団のアルバム。耳をすませば幾らでも心を遠くへ連れていくような、音のマリアージュで織り成す風景画。後半はその贅沢な録り音を解体・再構築し作ったリミックスが待ち受け、これまでの景色をぐにゃりと変える。現代アート的な構成美がある。


43位 KERENMI『1

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日本屈指の名プロデューサー・蔦谷好位置が自身の音楽を展開するための音楽プロジェクト。オケ、メロディ、言葉、そして歌声を自在な組み合わせで混ぜながら生み出し、パラレルワールドのJ-POPオムニバス、架空世界のベストヒッツのような仕上がり。これが彼なりの"外連味"の解釈なのだろうか。


42位 君島大空『縫層

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新世代シンガーの筆頭株。設計図不明な音像が次々と降り注ぎ、1曲の中でも次々と別次元へと連れていかれるような心地に。穏やかな気持ちと不安な気持ちがかわるがわる押し寄せてくる、まさに音楽でしか出来ない感情表現/情景描写。奥深くに直接語りかけてくるような、超越的なイメージが浮かぶ。


41位 ラブリーサマーちゃん『THE THIRD SUMMER OF LOVE

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日本コロムビア移籍後、初のアルバム。多彩なサウンドを展開していた前作から一転、前半はバキッとした音のロックナンバーで固めた歯ごたえのある聴き心地。「豆台風」辺りから訪れる、メロディアスな楽曲も粒揃い。「ヒーローズをうたって」でじんと来た後の大オチも含め、実にキュートです。


40位 SHISHAMO『SHISHAMO6

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聴く少女漫画、としての役割もしっかり備えつつ、歳を重ねることで得ていく、人としての揺らぎを丁寧に綴った楽曲が目立つ。苛烈な感情をぶつける「忘れてやるもんか」から、弾けるようなポップス「ハネノバシ」へと繋ぐ曲順にもそんな、一筋縄ではいかない日々を示唆しているのだろう。前作から強まった横ノリなグルーヴを更に進めた、小躍りしちゃう楽曲が多い中、「真夜中、リビング、電気を消して。」といったザ・疾走感ロックも健在。


39位 銀杏BOYZ『ねえみんな大好きだよ

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約7年ぶり、4枚目のスタジオアルバム。最初3曲でばっつばつのノイズを聴かせた以降は歌の比重が増す。ノイズは美しいメロディの中に溶け出し、さながら大人になることを表現しているよう。しかし純情にまみれたシングル曲たちを経た先で聴く「生きたい」の極限な祈り、「GOD SAVE THE わーるど」の能天気と発狂の間のような感情、「アレックス」の郷愁に滲むのは歳を取るだけでは消せない空洞と追憶のこと。途方もなく人間味のアルバム。


38位 THE KEBABS『THE KEBABS

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UNISON SQUARE GARDENのベーシスト田淵智也とa flood of circleの佐々木亮介が中心となって結成されたピカピカでガサガサなロックンロールバンド、1st音源はライブアルバム。ジャンジャカ音を鳴らす気持ち良さ、大きい声で歌う喜び(田淵も普通に歌ってる)、メッセージ性ゼロの歌詞(でもなんか楽しい!)、快楽中枢をベタベタいじくってくる痛快なアンセムばかり。偏差値高めな音楽がもてはやされる中、ここまで頭空っぽになれるのも大事。


37位 the telephones『NEW!』

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活動再開後初となる8thアルバム。やっぱコレなんだよなぁ、と踊り暴れ出したくなる楽曲の数々は、彼らが活動休止していたこの5年間で一切耳に入ることのなかったエクストリームな魅力が満載で、いかに彼らがスペシャルな存在であるかを堂々と証明しているかのよう。DISCOという諸刃の武器も使いこなし、様々なタイプの楽曲の中で自然に同居。特にベース長島涼平が手掛けた「Sleep Walk」のグルーヴィーなメロウさは新機軸。未だ底知れず。


36位 ROTH BART BARON『極彩色の祝祭

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神秘的な響きの中で僕たちの日々を泥臭く描き出す。いやむしろ懸命に生きるそ姿こそが最も神聖なものなのだよ、とそっと教えてくれるようなアルバムだ。三船雅也のソロプロジェクトとなり音像は更にフリーフォーム。選りすぐりのリッチな音色が耳を癒す。美しいメロディと肉体的なリズムにいつの間にかすっぽりと全身を覆われ、体を芯から温めていく。そして囁かれる、<物語を絶やすな>という声。2020年の記憶に残り続ける言葉だ。


35位 ステレオガール『Pink Fog

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ざらざらしたギターの音がまずぱっと耳に飛び込んでくる。ラフで豪快、荒っぽいサウンドを乗りこなしていくのは実にキャッチーで眩しいメロディ。歌声も気怠げなようで力強く、とてもクールだ。未確認フェスティバル2018の準グランプリの5人組、ともすればもっと共感を誘ったり、一体感を煽るような楽曲にも仕上げられそうなテイストだが、そこに一線を引いてる感じがまたイカす。媚びてないチャーミングさって最強だ。ライブも観てみたい!


34位 SAKANAMON『LANDER

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12年目の6thアルバム。着陸船の意を冠した題通り、従来/今後のリスナーの元へ辿り着かんとする強い音、強い言葉が紡がれている。ロックバンドが隙間産業になりつつある時代、そもそもニッチな在り方で偏狂者に対して求愛を繰り返してきたSAKANAMONはブレることなく、"ちょっとした実験と自らの王道"を貫くアルバムを作り出せているように思う。藤森元生(Vo/Gt)の視点もやや柔らかくなったがしっかりひん曲がっているから安心できるのだ。


33位 藤原さくら『SUPERMARKET

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3年ぶりの3rdアルバムは、そのタイトル通り多彩なラインナップの楽曲が並び、様々なジャンルと溶け合っている。VaVaとトラックを練り上げた「生活」。しっかりと押韻しながら、ラップと歌の中間のような滑らかなボーカルで2020年春の“気怠げでリアルなリリックを展開。冨田恵一とのタッグ「Monster」「コンクール」ではいつになくエッジーな言葉で時代に向き合う。 “アコースティックギターの弾き語り”の枠の外へ、大きく羽ばたく。


32位 tricot『真っ黒

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10年目のメジャー1stアルバム。世に出た頃の野蛮さは控え目となり、その演奏の構築美をとくと見せつけるテクニカルでシックな色合いの作品。とはいえ地味なわけではなく、針の穴に糸を通すかのような演奏の一体感、その混ざりを堪能できる。トリッキーながらも独特の心地よさを持ったメロウな楽曲が揃い、内側からグツグツと煮えたぎってくるよう。緩急自在に楽曲をドライブさせる吉田雄介のドラミングが完全開花、バンドの根幹になった。


31位 MONOEYES『Between the Black and Gray

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3年ぶりの3rdアルバム。ELLEGARDEN再始動後、という視点で聴いてみるとやはりこのバンドは少しシリアスだし、黒い気持ちを隠さず真ん中に置く。だけどスコットの存在が音楽性にカラッとしたものを与えているなぁ、と。


30位 眉村ちあき『日本元気女歌手

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弾き語りトラックメイカーアイドル、2020年2枚目となるアルバム。これまでの完全単独制作から一転、本作では外部アレンジャー、提供曲、コライト、カバー曲を一気に増やしている。しかしあくまでも中心にあるのは彼女のアナーキーな生き様。イタい元彼、取れない免許、今田耕司にヒルナンデス、心にあるもの、目に映るもの全てを題材にできる才気。騙されたと思って1曲目を聴いて欲しい。この世の全アルバムの1曲目史上1番面白いので。


29位 Age Factory『EVERYNIGHT

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奈良発3ピースバンドの3rdアルバム。押し寄せる怒涛の轟音と、静寂を体現するかのような繊細なメロディ。その起伏の中で有り余るほどのメッセージを詰め込んで送り出す。10曲29分というスピード感で置き去りにするように突き進んでいくが、これくらいの短さで届かなければ意味がない、同世代としてはシンパシーを覚える部分もそうでない部分もあるけれど、俺はこうだ、を音楽全部を賭けて鳴らしてくるんだから向き合いたいって思える。


28位 RYUTist『ファルセット

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新潟の4人組アイドル。超高品質ガールズポップで、その晴れやかなサウンドにどうしたってうきうきしてしまう1枚だ。柴田聡子を登用した健やかすぎる「ナイスポーズ」、弓木英梨乃によるストレートな「きっと、始まりの季節」など制作者の持ち味を活かす楽曲から、Kan Sanoのペンによるダンサンブルな「時間だよ」やパソコン音楽クラブによる懐かし歌モノ「春にゆびきり」など新鮮なソングライティングも。瑞々しい歌との交差も眩しくて!


27位 ゲスの極み乙女。『ストリーミング、CD、レコード

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前作で大々的に展開された攻めたビートメイクを推進し、独自のフロウは更に進化。豪勢に盛り込まれたブラスやコーラスワーク、上品なのに毒々しいゲス印のポップスを2020年版にアップデートした6thアルバム。「私以外も私」や「キラーボールをもう1度」など、過去曲への目配せをしながらも全く違う装いの楽曲を立ち上げてしまうとこも流石の人食いっぷりである。これ程までに豊かな音楽を展開しつつ、どこか冷徹な質感なのが不気味で良い。


26位 King Gnu『CEREMONY

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2019年の覇者が投下してきた強い楽曲たちを集めた強すぎる2ndアルバム。何となく聴いてるリスナーも置いてけぼりにせず、心酔していくリスナーでさえも迎合しない。ただひたすらにシーンごと揺さぶり続ける姿勢に感服。


25位 PEDRO『浪漫

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BiSHのアユニ・Dのソロプロジェクト、メジャー2ndアルバム。ざらついた質感のギターロックにアユニの駄々こねシャウトが乗っかるという基本形を踏襲しながら、よりハードな楽曲や、アユニの発声そのものを音の一部として扱ったような「pistol in my hand」などより個性的な楽曲が集う。松隈ケンタのプロデュースはありつつも、アユニの主体性はどんどん増すばかりでネガポジを往来する独言リリックのキレも凄まじい。9月に運よくリリースツアーを目撃できたのだが、言葉少ない彼女が自我を持ち、自らの言葉で歌を放つ喜びを噛み締めていたように思う。人としての成長譚がそこにはあった。


24位 Vaundy『strobo

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トラックメイクもアートワークも自ら手掛けるマルチアーティストの1stアルバム。初手「東京フラッシュ」と2手「不可幸力」がスムースなメロウラップだったので、あぁこの感じかぁと流しかけたのだけど、アルバム聴いたら曲を追うごとに重ね塗りされる驚きがあった。何といってもM4「怪獣の花唄」の直球のエナジーよ!このタイプのシンガーが切ってくるカードとは思えない、突き抜けたアンセム感があって思わず拳を握りしめた。トランシーな「soramimi」、軽快なネオアコ「Bye by me」など、どれもが悉く耳に馴染んでくる。スタイリッシュな岡崎体育とも呼ぶべき人懐っこい音楽だ。


23位 yonige『健全な社会

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大阪出身の2人組ロックバンド、2年半ぶりの2ndフルアルバム。2018年のEPから漂っていた平熱な生活感を中核に据え、ナチュラルな方向転換に成功している。初期は苛烈な感情をぶつけることがアイデンティティだったけれど、今回は淡々と気持ちの揺れ/機微を描写してある。決して怒らなくなったわけじゃないけれど、真顔で訴えかけてくる。歌声も包容力を得つつも、同時に突き放すような孤高さもあるのが良い。Gotchプロデュースによる1,2曲目の奥行きなど、これまで以上にふくよかで温かみのあるサウンドを手にしている。こういう変化って5thアルバムくらいで起こるものと思っていたよ!


22位 小山田壮平『TRAVELING LIFE

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元andymori、現在はALのソングライター、キャリア初メジャー作。数年にわたってライブの場で育ててきた楽曲たちを集めた作品で、性急なリリースが要求されがちなシーンにまったり反抗するような、マイペースに作ったからこそ生まれたなだらかな質感がある。旅に出る理由としてうってつけな1枚。


21位 milet『eyes

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去年から色んなところで彼女の曲を聴くたびに耳を掴まれ、また君か!ってなっていたので、今回の1stフルアルバムはその驚きたちが塊になって襲来してくるような、凄まじい“圧”がある。大作なのにクドくはさせない艶っぽくクールにも聴こえるロー&ハスキーな声質はその楽曲を都会的にも野性的にも染めあげる。今っぽいオケや歌唱法を、今っぽいだけで済ませず、根底にあるメロディの力を全力で引き出す。そんな彼女の表現力がトラックを越える度に違った絶景を脳内に広げ、全く飽きの来ない18曲69分を作り出している。アッパーの中に翳り、ダウナーな中にも祈りがあるバランス感が秀逸。


20位 藤井風『HELP EVER HURT NEVER

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色気と破壊性がダダ漏れなルックス。上品さと粗野さを兼ね備えた佇まい。優しさも危なさも放つ歌声。先鋭的なビートの上で引用するのは吉本興業の芸人たち。落ち着きたい時もワクワクしたい時も聴くことも出来る。こういった両立をどちらも遜色なくやってのけてるとこに異常な才気を感じる。グッドメロディを歌うユーモラスなソロシンガー、国民的になり得るスターポテンシャルでは!クネクネと踊らせる曲が多い中、ラストにドカドカとしたロックナンバー「さよならべいべ」と故郷が涙で滲むような「帰ろう」が配置されているのも堪らない。最後の最後に、真っ直ぐなのもかましてくる。


19位 a flood of circle『2020

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ここ4年くらい年1ペースで良作を出し続ける、ストイックでありがたいロックンロールバンドの10thアルバム。フラッドのアルバムはおぉ相変わらずだなぁ!とか、これぞど真ん中だよなぁ!と、その王道感、鉄板感を毎度ながら楽しめるのだけど、どんどん聴き進めていくうちにその奥行きを知り、幅を知り、前作を明らかに更新している、、という感想を持って結局は天を仰ぐ気分になる。象徴的に時代を題したフリして、いつも通りを鳴らす意義を証明するための命名だと言うのだから信頼できる。<誰が何と言おうと それをロックンロールと呼ぼう>(「Roller's Anthem」より)の言葉に恥じぬ快作。


18位 ズーカラデル『がらんどう

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札幌の3ピースバンド、メジャーデビュー作。投げ出す寸前にギリギリ湧き上がるエネルギーを込めた歌、想いが伝わりきらないもどかしさを描く歌。簡単ではない日々の悲喜こもごもが、口ずさみたくなるコーラスとともにスルリと心へ流れ込んでゆく。どこまでも身近なロックンロールバンドなのだ。



17位 米津玄師『STRAY SHEEP

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ジャパニーズ・ポピュラーミュージックの破壊者であり、覇者の5thアルバム。「Lemon」以降の2年と少しを凝縮した米津玄師サーガであると同時に、コロナ禍の混迷をも表現し尽くしており、まさに時代の語り部としての役割を存分に発揮している。自身の影響源である野田洋次郎を意外性のあるポップチューンの中に組み込んだり、「パプリカ」を追憶の曲としてリメイクしたり、思いっきりギターロックをやった「TEENAGE RIOT」をアルバムの終盤に配置したり、どの部分を切り取っても彼の別物と別物を混ぜ合わせる感性のユニークさが垣間見える。迷い、検証し、創出する音には矜持と祈りが。


16位 daisansei『ドラマのデー

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東京の5人組バンドの1stアルバム。安宅伸明(Vo/Gt)が宅録していた曲世界を大きく広げるバンドとしての本格始動は去年から、という期待の新星。メロディアスかつ穏やかなフォークロックは、くるりやサニーデイ・サービスを想起させつつも、その影響下にある故かアレンジの手数はかなり豊富。「花束」ではワンフレーズをガシガシとループさせ、「ラジオのカセット」では前曲と続きで聴くとかなり驚くような不意打ちを果たしてくる。宅録出身だからか、サウンもかなり細部まで作り込まれている。特にコーラスへの凝り方がとても若手バンドとは思えない。先人のエッセンスの正統継承者。


15位 大森靖子『kintsugi

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メジャー5thアルバム。張り詰めた緊張感がだんだんと心地よくなってくるような、歪な聴感がある。常々、世界を切り裂いて中身をえぐり出すような言葉を綴ってきた彼女だが、その鋭利さは過去最高級。ZOCに託せなかった、自分で歌うほかなかった自分の現実をびっしりと文字を並べて描き出す。とっつきにくく思われがちだが、書いてあることが真実という点でこの上なく誠実。“普遍的な痛み”など存在しないということを切々と伝え、その傷痕に黄金を見出す優しさもある。盲信者を集めてカルトになることを望まずに冷静に曲を受け止めさせようとする、思考フル回転させざるを得ない芸術。


14位 マカロニえんぴつ『hope

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マーケティングを周到にやってスピーディーに売れる手法が台頭する中、シーンの流行とかフェスでの機能性といった戦略から徐々に離れ、やりたい放題やり出してからの魅力が凄まじいのが彼ら。60分14曲のアルバムをつるっと聴かせる膨大なアレンジの引き出しで、どれもしっかりと個性が立っている。ユニコーン、フジファブリック、クリープハイプといった影響源などとっくに血肉にし、はっとりの振り絞るようなボーカルが映える劇的なサウンド展開を獲得している。ただ、そういう中で素朴な「ヤングアダルト」が白眉なのもまたイイ。<夜を超えるための歌が死なないように>、在りたい。


13位 ポップしなないで『上々

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ピアノボーカルとドラムによる2ピースバンド、1stフルアルバム。今までの代表曲を網羅しつつ、初めてギターやサンプリングのアレンジを取り入れるなど、土台を安定させつつも数歩先へとイメージをかっ飛ばしている。最小限の音数で強く耳を惹くメロディ、発色豊かながらどこか哀愁や無機質さ、枯れやファニーさも含んだかめがいあやこの歌声は、SFセカイ系な歌詞のシーンを見事に体現している。逃避願望や世界変革衝動といった青々しい想いこそで、この現実をべた塗りしていくような2020年にうってつけの音楽。ミニマルから宇宙規模、想像力の振れ幅と音像がぴったりと合致している。


12位 ストレイテナー『Applause

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2年半ぶりの11thアルバム。年々ホリエアツシ(Vo/Gt)の歌心は丸みを帯び、穏やかなポップソングを次々と作り出すバンドになってきており、本作でもその方向性は健在。バンドとしてのアティチュードも、きゅんとなる気持ちも、等しく歌う姿はどんどん定着してきている。故に、久々に不穏で攻撃的な楽曲が並ぶ中盤のブロックに懐かしさと安心を覚えてしまう。ダークな質感、幻想的なタッチというテナーの原風景もしっかりと刻まれているのが喜ばしい点。近年のキャッチー路線と、従来のマニアックな側面、その配分を微調整しながら、彼らにしか作り得ないオープン&ドープな作品になった。


11位 あいみょん『おいしいパスタがあると聞いて

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大躍進を経ての3rdアルバム。彼女の歌はいつも不思議だ。最初聴いた時は、あぁあいみょんの新曲だなるほどなるほど、とあっさりした感想を持つのだが聴けば聴くほど、なんだこの旨味は、、と後々気づくことばかり。「ハルノヒ」に込められた誰かのことを思いながら過ごす日の愛しさや「空の青さを知る人よ」の全能感を知るのに1年かかってしまったよ。いつの間にか日常にそっと大事なもののように忍び込む彼女の歌の魅力。例えばおいしいパスタを食べに行こうとちょろっと約束したことが、その日まで生きる意味になったりして。そういう些細だけど大切な魔法が彼女の音楽には隠れている。


10位 Gotch『Lives By The Sea

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ASIAN KUNG-FU GENERATIONのフロントマン、ソロ3rdアルバム。ベッドルームミュージック的な1st、オーガニックなバンドサウンドの2ndを経て、本作ではHip Hopと多彩なリズムの海に飛び込んだ。3作とも全く違うアプローチなのも彼の探究心の現れのようで、今なお新たなプロダクトを提示し続けるアーティストの鏡だと思うわけだが、ラッパーからの客演や適材適所の演奏陣など、興味本位でやっただけ、とは決してならないタフな表現に仕上げた点も素晴らしく、複数に異ジャンルの交差点としてこの上ない。長い自粛期間に生まれた閉→開のイメージな楽曲たちは明日を照らしてくれる。


9位 パスピエ『synonym

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11年目の6thアルバム。前作『more humor』で刷新されたサウンドを先鋭化させた先行シングル群を経て辿り着いた本作は、ここまでの10年間を丸ごとリファレンスとして用いたかのような、既聴感あるパスピエ節を全く新しい形状でデザインする試みが炸裂している。アッパー&ポップな「Q」、オリエンタルでトランシーな「tika」など、これぞパスピエ!な楽曲も未知なる新鮮味と共に堪能できる。譜面を回文にする珍妙な狂気を含んだ「oto」や、壮大かつ緻密に展開される「つむぎ」など、パスピエにしかなし得ない実験要素も満載な中、「プラットホーム」のような真っ直ぐさも確かに根付いている。


8位 リーガルリリー『bedtime story

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切れ味鋭いヒリついた演奏や神秘性を持つボーカルを継承しつつ、より感情を直線的に描き出す曲構成や轟音の中に柔らかさを残すサウンドスケープなど、メジャー1stフルアルバムにして新境地へと降り立った1枚。散文詩のように印象的なフレーズを連ね、"私"を世界の中心に据えるような詩作は、より自由で気高い美しさを湛える。時代の潮流とは無縁なオルタナティブなバンドサウンドで限りなく“自己”を描く作品にも関わらず、間違いなく2020年の混迷する社会へもタッチしているのが不思議。優れた表現者は、敢えて今にチューニングせずとも、今を描いてしまえるということなのだろうか。


7位 tricot『10

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tricot、2020年2枚目のアルバム。内省的な『真っ黒』に対し、『10』はかなり抜けが良くて風通しが良い印象。セッションを封じられ、万事休すかというところにリモート制作という新たな発想が出現。そんな新しい生活様式よって生まれた多彩なアレンジ、例えば「あげない」はミニマルメロウ感や「炒飯」における普遍的なポップスとしてのプロダクト、女子メンバー3人が歌を掛け合う「サマーナイトタウン」などは驚きに満ちる。どんな急場も遊び場に変えてしまうタフさが滲む1作だ。10周年だからといって総括的な作品に留めることをせず、どんどん新たなフォルムを獲得してて恐ろしい!


6位 ネクライトーキー 『ZOO!!

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人あたりなんていくらでも良くできるし、愛想笑いも習得した。だけどその分、ぶっ壊れそうな自我は内側でフツフツと煮えたぎり、時たま暴走が始まる、、そんなマトモな心象を素っ頓狂なバンドポップでメイクアップした1作。前作『ONE!』と比べると、幾分か前を向く曲も多い一方で過去の怨恨や現状への苛立ちを強めた曲も多く、メジャーに行ったくらいでこれまでの鬱憤を精算させてたまるかという強い意志と呪いが伝わってくる。本当は何より、今生かされてる世界が怖くて恐ろしく、それでも取り続ける限界のファインティングポーズ。”何もなさ“をネクライトーキーは受け止めるのだ。


5位 眉村ちあき『劇団オギャリズム

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前作から8カ月足らずでのリリースの2ndアルバム。本能が赴くままに放出されたアイデアをハンドメイドで形にした、腹一杯食らいくなるジャンクで極彩色のJ-POPコンピレーション。ヒップホップ、ワルツ調のバラード、ホーン入りのギターロック、90s歌謡曲など参照点は多岐に渡るが、どんなジャンルも取り込み、全てを自分の一部として吸収してしまう。もはや何を歌っても良いモードに突入しているその奔放で純粋なキャラクターも味方につけ、キャラに添ったムーブも、ギャップ演出も自在にこなす。ハイカロリーで奇天烈、情緒不安定でフリーキー、一人芝居とは思えない濃厚なポップス劇場。


4位 羊文学『POWERS

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3ピースオルタナティブロックバンド、メジャー1stアルバム。これまで培ったサウンドメイクを存分に振るい、もはや描けない感情はない程に開花した表現力に驚く。最小限の楽器で繊細かつ多彩なカラーリングを施した12曲を束ねて編むのは、2020年を生きる者たちの群像劇。深い残響の渚を漂う「mothers」の祈り、シャキッとしたシンプルなアレンジで聴かせる「変身」の力強さ、様々な音色が並び合うことで、隣り合う人に息づく世界の存在を伝えている。自然な言葉遣いと超越的な歌声によって日記のようにも、観察者のようにも捉えられる塩塚モエカ(Vo/Gt)の楽曲との距離感も絶妙。


3位 Base Ball Bear『C3

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3ピースバンドとしての活動、レーベル移籍を経ての8thアルバム。2019年発表のEP2作を丸ごと収録し、新曲は4曲という構成にも関わらず、作品としての強度は抜群。ギター、ドラム、ベース、以上!という楽器構成でありながら、これだけ多彩で多面的な音楽の面白さをアピールしており、盛らずに削ることで特異的な進化を遂げ続ている。バンド自身の在り方やスタンス、思考を題材にした詩世界も、ベボベの歴史上かつてないことで、その新鮮さは作品全体を風通し良く仕上げている。グルーヴを磨き、適切な“描写対象”を選び取りながら研ぎ澄まされてきたベボベの、最新型の瑞々しさが迸る1枚。


2位 赤い公園『THE PARK

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バンドとしては通算5枚目、ところがボーカル交替後としては最初だし、ほぼセルフタイトルな題も相まってデビュー盤のようなフレッシュさ。歪な程の振れ幅の中で常に良い歌と良いプレイが鳴り続ける充実の11曲。ピアノとストリングスが踊る春めきナンバー「紺に花」はサビ裏のコーラスが妙で癖になるし、シンプルな四つ打ちに見せかけて終盤のノイズワークが光る「ジャンキー」など掴みづらい音像は健在。ところがボーカル石野理子の表現力が楽曲に凛々しい輪郭を与え、ポップソングに辿り着いてしまう。「夜の公園」を初めて聴いた時、これを出してしまったらもう無敵だ、と確信した記憶がある。そしてその予想は的中。10年目に手にした新しい初期衝動が全方向へ輝きを放つ。悲しい出来事もあった。けれどこの眩しさは永遠だ。


1位 UNISON SQUARE GARDEN『Patrick Vegee

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8枚目のフルアルバム。上位に並んだずっと好きなバンドたちの中でもとりわけずっと好きなサウンドをずっと好きな感じでずっと好き放題やってる様が爆裂にカッコいい。彼らのジャパニーズロックは移ろいゆく流行の外周、疲弊した心の中、生き方を定める上で最大輝度の存在感を示してくれるはず。


※トップ10についてはポッドキャストでも語っています。



<2020年ベストアルバム>
1位 UNISON SQUARE GARDEN『Patrick Vegee』
2位 赤い公園『THE PARK』
3位 Base Ball Bear『C3』
4位 羊文学『POWERS』
5位 眉村ちあき『劇団オギャリズム』
6位 ネクライトーキー 『ZOO!!』
7位 tricot『10』
8位 リーガルリリー『bedtime story』
9位 パスピエ『synonym』
10位 Gotch『Lives By The Sea』

11位 あいみょん『おいしいパスタがあると聞いて』
12位 ストレイテナー『Applause』
13位 ポップしなないで『上々』
14位 マカロニえんぴつ『hope』
15位 大森靖子『kintsugi』
16位 daisansei『ドラマのデー』
17位 米津玄師『STRAY SHEEP』
18位 ズーカラデル『がらんどう』
19位 a flood of circle『2020』
20位 藤井風『HELP EVER HURT NEVER』

21位 milet『eyes』
22位 小山田壮平『TRAVELING LIFE』
23位 yonige『健全な社会』
24位 Vaundy『strobo』
25位 PEDRO『浪漫』
26位 King Gnu『CEREMONY』
27位 ゲスの極み乙女。『レコード、CD、ストリーミング』
28位 RYUTist『ファルセット』
29位 Age Factory『EVERYNIGHT』
30位 眉村ちあき『日本元気女歌手』


31位 MONOEYES『Between the Black and Gray』
32位 tricot『真っ黒』
33位 藤原さくら『SUPERMARKET』
34位 SAKANAMON『LANDER』
35位 ステレオガール『Pink Fog』
36位 ROTH BART BARON『極彩色の祝祭』
37位 the telephones『NEW!』
38位 THE KEBABS『THE KEBABS』
39位 銀杏BOYZ『ねえみんな大好きだよ』
40位 SHISHAMO『SHISHAMO6』

41位 ラブリーサマーちゃん『THE THIRD SUMMER OF LOVE』
42位 君島大空『縫層』
43位 KERENMI『1』
44位 蓮沼執太FULLPHONY『フルフォニーFULLPHONY』
45位 ナナヲアカリ『七転七起』
46位 Helsinki Lambda Club『Eleven Plus Two/Twelve Plus One』
47位 挫・人間『ブラクラ』
48位 SACOYANS『Yomosue』
49位 田中ヤコブ『おさきにどうぞ』
50位 さよならポニーテール『きまぐれファンロード』


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