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今週のQ&A: 芝麻信用、QRコード送金

インターネットプラス研究所の澤田です。
noteをはじめて1週間しか経ってないにも関わらず、お陰様で多くの人にリアクションをいただきました。

これから週に1度ぐらいのペースで、はてなブックマークや Twitter を通じていただいた意見や質問に答えていきます。

芝麻信用は伝統的な金融機関に信用してもらえない人のためにある

芝麻信用 (ジーマ信用) について、澤田の記事ではアリババグループのプラットフォームとしての方向性に変化していったことを書きました。

この記事について、インターネット上でみつけたコメントから気になったものを拾っていきます。

中国では結婚相手に必要な条件は「車と家、それから外国への留学経験」とよく言われています。現在の中国人の信用の尺度はバブル期の日本に近しいのです。

芝麻信用はそんな多数派の価値観では信用を得られなかった人に対して金融サービスを提供するのが目的です。芝麻信用は車も家もないけれども飲食店を開業したい人に対して冷蔵庫の分割払いを提供します。

決済サービスである支付宝は紹介キャンペーンなどを通じて「あまねく (中国大陸の) 全員に使ってもらう」方向でプロモーションされていますが、芝麻信用はお金やモノを借りるときにしか顔を出しません。現に芝麻信用のユーザ数は2017年末現在で4,150万人と中国の人口と比べればかなり少ないです。芝麻信用は社会のデファクトとなることを目指しているのではなく本当に必要としている人に届くサービスを目指しているようです。(つまるところファイナンスですね)

送金のコストを考える

支付宝 (Alipay) はスマホ決済とあわせてQRコード送金サービスをつくり、小規模な店舗が積極的に導入した、という話を書きました。

送金の場合も金融機関や送金システム (Alipay など) にリスクがありコストがかかる、という意見についてみてみましょう。

送金のリスクとコストを考える前に、伝統的なクレジットカードのコストをもう一度考えてみます。

クレジットカードでの販売方法について、加盟店の規約をみてみましょう。

第9条 (信用販売の方法)
加盟店は、会員からカード提示による信用販売を求められた場合、以下の各号に定める全ての手続きを履行する方法によって、信用販売を行うものとします。
(4)売上票にカード記載の会員番号、会員氏名、有効期限をインプリンターにより転写し、加盟店番号、加盟店名、売場名、担当者名、支払区分、売上日付、金額、品名、型式、数量等を記入すること。

第10条 (売上票等の作成、保管および提出等)
4.加盟店は、信用販売を行った日から原則として1週間以内に、当該信用販売の売上票を支払区分ごとに取りまとめ、両社所定の売上集計表に添付して当社に送付するものとします。

https://www.jcb.co.jp/kiyaku/pdf/kameiten0705_03.pdf より抜粋

クレジットカードは決済端末に通して利用することがほとんどですが、規約上は「売上票」という専用の紙にインプリンタという器機を使ってカード番号を転写し (それのためにカードは番号が凸凹加工されていることが多いです) 売上票を郵送することが原則になっています。このようにクレジットカードはオンラインでの決済が一般化する前のレガシーを引き継いでいるため「販売から請求まで時間がかかる」こと、それが具体的には45日〜60日程度であり、その期間の利率 (年利18%として3%前後) がクレジットカード手数料の大義名分です。

写真: インプリンタ。カードの凸凹を売上票に転写します
CC-BY-SA 4.0 by Mipsparc

このようにクレジットカードに由来する決済システムでは、手元に入金されるまでの時間が長期間であることが問題であり、そのリスクが決済手数料に織り込まれています。(この理論でいくとデビットカードやプリペイドカードは決済手数料がもっと安くできるはずですが、決済会社はクレジットカードと同じシステムに載せて売っているのでいっこうに安くなりません)

送金の場合、金融機関に実際に預けられている資産をやりとりすることになるため「回収できるかわからない未来のお金」から由来するリスクは相当低減しますが、「システム障害で残高がゼロになってしまった」「振り込め詐欺の犯人にお金を渡してしまった」など、セキュリティ侵害や金融犯罪のリスクは依然存在し、それらを防ぐためにコストがかかります。(決済の場合も同様のリスクはあります)

支付宝では2017年時点で送金のコストは1件あたり0.02元 (0.4円) であり非常に低いコストで運営できています。また金融機関とは「振込できない事態が0.01%を超えた場合は契約を解除する」という約束をしており、現時点ではこの基準をクリアできる程度にリスクを低減できています。

送金コストの低廉化の面でいえば「双11」とよばれる毎年11月11日の大規模なEC上の特売によるものが大きいです。双11は短時間に極めて多くの商取引があり (2018年は21秒で10億元 (165億円) の売上がありました) 、これに耐えられる処理能力がインフラに求められます。双11は社内のエンジニアチームに対し「双11のトラフィックが3年後の通常トラフィックになる。技術を3年先取りする開発をするように」と日々言いつづけており、その研究成果が低コストで強力なインフラに繋がりました。一例を挙げれば、自社開発の分散型データベース OceanBase は Oracle の集中型データベースからの置き換えに成功し、コストの削減に大きく寄与しました。双11というハードルの高いマイルストーンにあわせて強靱な開発力をもつチームができたことが、安定性の高いインフラづくりにつながったと言えます。

マネーロンダリングや振り込め詐欺をはじめとした金融犯罪のリスク対応については「310モデル (申請3分、与信1分、関与人数0人) のために構築したAIモニタリングシステムが不正取引を効率的に検知する」という話以上の具体的な内容は外に出てきていないため「沢山もっているデータを活かしてAIで頑張っている」という玉虫色の答えしかできません。

総じて言えることは「送金は決済よりコストが安いものの、さらにコストとリスクを下げるための投資をものすごい勢いでやっている」ということです。

日本でやる場合、送金サービスの法規制はあるの?

日本で中国と同じような「QRコード送金」サービスを展開する場合に法規制はあるのでしょうか?

日本でやるには法改正が必須やな。もしくは銀行に本気だしてもらうか。
http://b.hatena.ne.jp/entry/4666732007940113890/comment/chintaro3
現状の送金サービスだとLINE PayにはLINEの友だち限定、Kyashには現金引き出し不可っていう大きな縛りがあるからそのままだと厳しそう。法改正なしで解決可能なんだろうか。
http://b.hatena.ne.jp/entry/4666732007940113890/comment/chikuwabus

日本では為替業務 (送金のことをいいます) は銀行 (信用金庫などを含みます) にしかできないこととなっていましたが、2010年から「資金移動業」という制度がはじまり、銀行以外でも届出をした会社であれば100万円以下の送金を手がけることができるようになりました。

一方、送金を継続的、または反復して行う契約 (=一度っきりではない) の場合、氏名と住所の登録に加え、銀行口座を開設するときと同じレベルの本人確認の義務が課されています。運転免許証やパスポートの写真のアップロードが必要なやつです。あるいは既に本人確認を終えた金融機関から情報提供を受ける方法でも本人確認ができます。(LINE Pay やメルペイでは対応する金融機関の口座を登録することで本人確認が完了します)

Kyash は本人確認をしない代わりに「決済」の枠組みでサービスがつくられています。具体的には「Kyash の中で使えるポイントを購入し、それを友だちにプレゼントするという仕組みです。この「ポイント」はVISAの加盟店で商品購入の決済に使えますが、ポイントを現金に戻して引き出すことはできません。LINE Pay の「LINE の友だち限定」というのは法規制とは関係ないでしょう。現に PayPay や pring は友だちではないユーザからお金を受け取れる QR コードを生成する機能をもっています。

なお送金に本人確認が必要なのは支付宝や微信支付 (WeChat Pay) も同じで、一般には中国の国民に発行されている二代身分証 (マイナンバー) を使います。

まとめると、日本の法規制の枠組みは送金サービスをつくる上では中国とあまり変わりません。少なくとも個人間での送金は中国とほぼ同じスタイルの「QRコード送金」をつくれます。もちろん銀行も「QRコード送金」をつくれるので、是非頑張ってください。

一方、本人確認の具体的な手順については改善すべき点が多いと感じています。次回の記事で詳しく説明します。

参考文献

芝麻信用について、ジャーナリストの高口康太氏 (ニコ技深圳交流会のメンバーでもあります)による記事も網羅的に書かれていて参考になります。

また、アントフィナンシャル - 1匹のアリがつくる新金融エコシステムという本にも立ち上げの経緯が詳しく書かれています。

インターネットプラス研究所のメンバーである高須正和氏により、この本の書評を載せております。あわせてご覧下さい。

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note でお仕事を募集したところ、いくつか引き合いをいただきました。ありがとうございます。案件によってはまだお請けできますのでご興味のある方はご連絡ください。


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デジタルワークプレイスをあらゆる規模の組織に届けることをミッションにZUNDA株式会社を設立しました。また、インターネットプラス研究所の代表で、インターネットの社会実装をテーマにした研究活動をしています。

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