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【Focus】アントグループに「No」を突き付ける国務院金融委員会(アントグループのIPO延期 その背景)②

前回(https://note.com/shanshan2020/n/nb773ba61e204)からの続き。

■国務院金融委員会のスタンスに対するアントグループのステータス
 上述の6つの委員会による主なコメントをアントグループのステータスに照らし合わせた場合、テクニカル且つ具体的に影響を受けることが考えられるのは「小口融資業務」に関する指摘である。
 アントグループは決済プラットフォームの「アリペイ」の中で「花唄」・「借唄」といった個人消費者向け小口のローン・融資のサービスを展開しているが、これは中国の銀行・貸金業者と協力して、アントグループ独自のリスク管理システム(ゴマ信用)を用いて与信を行ない、発生した利息収入の一定割合を自社の利益としているというモデルとなっている。

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 ところがこのモデルにおいてアントグループは自社の資金を直接、融資に提供しているわけではない。最新の計算によると、今年6 月までにアントが与信を行った貸付額は1.8 兆元に達していたが、貸付にあたり同社が負担したのはおよそ1-2%で、残りは提携先の銀行が引き受けている。
 これに対し、前述の議事録に残されたコメントの通り委員会として「規制当局は同種の業務を営むあらゆる企業に対しフェアであるべき」というスタンスを打ち出し、また金融リスクを回避し、レバレッジ比率を管理するための「ネットを通じた小口融資業務・資金管理等に対する新規定案」を打ち出している中で、アントグループのようなプラットフォームも貸し出しする資金の30%以上を負担することが求められる模様。
これはアントグループのこれまでの貸付負担額を総額の2%の360億元とした場合、この新規制によって5,400億元を自己負担する必要があることを意味し、レバレッジを加味したとしても、識者の見立てでは小口融資用の資本を少なくとも1,500億元は準備しておく必要があることとなる。(ちなみにアントグループが現在有する資本はおよそ350億元)
 またこの規定案の中では個人が借りられる金額上限を年収の1/3程度とするルールも盛り込まれる見込みで、上半期の売上725億元のうち、約40%を融資ビジネスにおける手数料収入で確保している中で大きな痛手となる
 売上の残りの約60%を担い、月間アクティブユーザーが7億人を超える、アリペイの決済手数料収入に対する影響はどうだろうか?
 現状特にアリペイが影響を被る新規制施行の気配は無いが、注視しなければならないのは、アリペイもまた政府直轄の中央銀行の監督管理下にある業務であるということだ。
 過去数年間に亘り、中央銀行は反マネーロンダリングを目的とするものなど、数々の政策・規制を既に打ち出してきたが、今までアリペイは安定してこれらの要求に応えられてきている為、現状アントグループの屋台骨であるアリペイまでもが危機に瀕する可能性は限定的であると考えられる。

 今回の措置を受け、識者は「規制リスクは、アントグループにとって最大のリスク要因だ」と語っている。
 今回のニュースが上場にわずかなマイナス要因を与えるだけだとみなし、大半の投資家はアントの長期的な成長に楽観的であり続けるだろうと考えているかもしれないが、今後の規制強化を考慮に入れると、成長の前提を見直す投資家もまたいるかもしれない。

(以上、ニュースサイト「金融监管研究院」におけるアントグループ上場延期にフォーカスした記事、及び動画サイト「好看視頻」におけるジャックマーによる上海外灘金融サミットにおける講演の模様より筆者が引用&翻訳・要約)
(記載の内容は転載不可でお願いします)

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