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皮膚疾患のとらえ方(3)/合宿のテーマより 

講師 小林詔司 / 文責 積聚会通信編集部

『積聚会通信』No.7 1998年7月号 掲載

皮膚の他覚症状として色は重要である。色を観察するところは、表皮はもちろんのこと唇などの粘膜移行部、舌、口腔などの粘膜部のすべてに及ぶ。最近では内視鏡の発達から胃や大腸の粘膜の色も観察されるようになった。
 
色を診るときには、まずその基準色を考慮しなければいけない。人種的な要素や個人的な肌色は当然のこと、粘膜の赤色など部位の特色も頭に入れなければいけない。
 
表皮や唇については、表面の潤いをみる。どのような色であっても適度の湿り気があればよしとするものである。ただ適度の湿り気の判断が往々にして難しく、血圧の高い人に時々みられるように過度に光沢のある面色などを良しとしがちであるから注意しなければいけない。
 
さて色は東洋的には基本的に五色に分けている。すなわち白色、青色、黄色、赤色、黒色であるが、積聚治療ではこのような色の表現は体の熱のあり方を意味していると考える。
 
白色は最も冷えを表現し、黒色は最も熱性を表現していると見なしている。
 
白色が観察されるものに、貧血などの下眼瞼の粘膜、失神したときの顔面、あるいは凍傷になる前の冷えきった手足の指、皮膚の脱色したもので白なまずや白髪の類である。爪が脱色することもある。肺ガンの人で両足の母趾爪が全く脱色した例を経験している。眼の白内障もこれらに属する。顔面麻痺の時に口腔内に白線が走るのを観察する。白舌苔がある。アトピーなどの皮膚疾患や長期療養の人の肌に落屑をみるのも同じとみる。頭の雲脂(ふけ)もこれにいれる。
 
青色の代表は唇などのチアノーゼである。打撲などの内出血、女性によく見られる打撲の記憶がないのに顕れる生理的な紫斑、もちろん紫斑病の紫斑、歳を取れば浮き出てくる静脈の色、あるいは病的な静脈瘤などがこの色に属する。
 
黄色はいろいろな面で観察される。身近なものでは目や手掌などが黄色くなる黄疸がある。みかんを食べ過ぎたときのカロチンの色、打ち身が治りかけたときに観察される黄色、あるいは尿毒症でも黃色が出る。
 
赤色をみてみよう。まず炎症の色である。湿疹、皮膚炎もこれに入れる。また手足や耳の火照り、顔面の紅潮、目の充血、打撲ときの赤色などに見られる。
 
皮膚の黒色は西洋医学的にはメラニン色素による。黒は最も熱のこもった状態とみれば、メラノーマが悪性なのも頷ける。そこまで行かなくても黒色の疣や紫外線に負けた茶褐色の肌はよく見られる。これらは、そこに熱が凝縮することによって体は何らかの気のバランスをとっているのだ、と理解することが出来る。
 
一人ひとりの体は本来ある一定の年数を健康に生きるように定められているが、これはいわば精気が充実している状態と見なすことが出来る。この状態で、体に熱が充満している。
 
しかし往々にしてこのような行き方はできないもので、種々の要素から精気の充実性は欠けて精気の虚損した状態に傾くものである。この時、体は十分な熱を産生できずどこか体の芯に冷えが生じていると見なすのである。
 
ところでこの体の芯の冷えは直接的には判断できず、体の表面の観察や医学的な検査で見つかる異常性から類推される。
 
皮膚の色がいろいろな異常性を示すのは、体の芯の冷えが表面にも冷えとなって顕れたり(白、青色)熱となって顕れている(黄、赤、黒色)ということなのである。