#83 トラバントは大人気?

トラバントとは、東ドイツで国民車として親しまれた小型自動車である。

西ドイツは資本主義。メルセデスベンツ、フォルクスワーゲン、BMWといったそうそうたる自動車メーカーが競争して技術が向上して「ドイツ車」としてのブランドを築き上げていった。一方、東ドイツは社会主義体制のため、唯一の国営企業が多少のマイナーチェンジはあったようだが、30年以上ほとんど変わらない「トラバント」を生産し続けた。それでも東ドイツの国民には大人気(というより慢性的な資源不足で需要に対して供給が追いつかなかった)となり、注文すると納車は10年後という状況だったという。

1989年、ベルリンの壁が崩壊して東西ドイツ間の行き来が自由になると、東ドイツの国民がトラバントに乗って西ドイツへ入国するようになった。トラバントは西ドイツでは浦島太郎のような車で、最新式のドイツ車の横を大量の排気ガスを出して走るトラバントに西ドイツの国民は衝撃を受けたという。そして西ドイツでは大気汚染が深刻になるという問題も発生した。

トラバントは西ドイツの国民から「段ボールカー」や「最高速度はレッカーされている時だ」などと揶揄された。東ドイツでは鉄が不足しており、国の定めた規格に重量制限もあったため、トラバントのボディには樹脂と綿を組み合わせた軽量の素材が使用されていた。実はボディの素材はレース用の車でも使われる高度なものだったらしいが、その独特の風合いから「段ボールカー」と馬鹿にされてしまった。

トラバントは東西冷戦における資本主義と社会主義の格差の象徴となってしまったのだが、現代でも現役のトラバントはあるらしく、レトロな雰囲気を醸し出す車体は一部ファンの間では当時とは違った意味で根強い人気があるようだ。

【参考】


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