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<Daokoにまつわるエトセトラ>拡張し続けるDaokoワールドの今


アルバム『Slash-&-Burn』をリリースしたDaokoさんに、制作背景についてインタビューしました。

多くのコラボレーションを展開する一方で、本格的にDTMを取り入れたり初のセルフプロデュースを行なったりと、ますますDaokoワールドが進化を遂げていることが分かった今回の取材。DAWを駆使し音楽を作り、ビジュアルで世界観を表現し、告知から公開までをインディペンデントで行なうアーティストが増えている今、Daokoさんもまたユニークな姿勢でその道を追求しています。
そもそもDaokoさんは、2010年頃にニコニコ動画「歌ってみた」のカルチャーから頭角を現したことからも分かる通り、もともとDIYなマインドを持ってデビューしたアーティスト。と同時に、創作意欲の赴くまま大勢のアーティストやクリエイターともコラボを重ね、マルチな才能を発揮してきました。特に、2019年に個人事務所を設立して以降はますますその姿勢が強まっているように見えます。だとしたら、そういった形で拡大し続けているDaokoさんのマルチな活動を一度、立体的に紐解いてみたくなりました。幸い、今回の取材はたくさん時間をいただけたため、エピソードもたっぷり。せっかくなので、ご本人の許可をいただき公開いたします。題して、<Daokoにまつわるエトセトラ>企画!!

バンドをやるDaoko

もともとDaokoのサポートメンバーだったプレイヤーたちが、Daokoという枠を超え生まれ変わったバンドがQUBIT。ギター・永井聖一、ベース・鈴木正人(LITTLE CREATURES)、ドラム・大井一彌(DDATS/yahyel)というメンバーでバンド活動を展開中。他方、今回のアルバムのライブツアー「Daoko “Slash-&-Burn” Tour 2024」で新たに組まれたバンドは、ベース・越智俊介、ドラム・吉田雄介、マニュピレーター・吉井雅之という面々。原曲にアレンジを加えつつダンサブルな演奏を披露していた。バンドメンバーとともにプレイすることで、Daokoの新しい面がますます花開いてきている。

——「Daoko “Slash-&-Burn” Tour 2024」のバンド編成はどのように組んでいったんですか?
なんとなくツアーを考える際の初期段階から同期とドラムとベース編成がいいなと思っていて、以前から交流の深い吉田雄介さんに最初にご相談して他のメンバーの方をご紹介いただきました。

――『Slash-&-Burn』の曲を演奏するにあたって、バンドメンバーにはどのようなディレクションをしたのでしょうか。
まずマニュピレーターの吉井さんとスタジオでプリプロをやり、セトリも私の叩き台を元に吉井さんとマネージャーと一緒に考えていきましたね。その後曲順に流して、今回の編成の各々の役割分担を相談しながらメモして、まとめて各バンドメンバーに伝えました。私はまとめる能力や統率力があまりないので、メンバーのやわらかくおおらかな雰囲気に助けられてます!

――Daokoのバンドと、QUBIT とはどのような違いがあるのでしょう?QUBITのDaokoはバンドの一部なので、そもそも存在的に違いますね。棲み分けは意識的にしていて、QUBITでのDaokoは楽器の一部という感覚で歌っています。人力ボカロっぽさが強いというか。楽曲もすごく難しいので、刺激であり修行になっています。メンバーの才能がすごくて、自分自身もファンなので、気も引き締まる。ライブや制作を重ねる度に“バンド”という生き物になっていく過程がとても楽しいです。


シンガーとしてのDaoko

もともと、ウィスパーボイスから幼げな声まで、脆く儚い世界観を表現することに長けていたDaokoのボーカル。その後徐々にニュートラルな歌唱表現も会得し表現幅を広げていった一方、バンド・QUBITにより、太くエネルギッシュな声も手に入れた。結果、現在では多彩な声色使いのボーカリストに。

――QUBIT によって、ボーカリストとしての幅がかなり広がった印象があります。『Slash-&- Burn』で、今の Daoko さんだからこそ表現できた/歌えたという曲はありますか?
「GAMEOVER」が最新曲なのですが、編曲に入ってもらいつつも自分の中でのDTMスキルの上達を感じられましたし、そのコンセプトを貫きながら、衝動的で燃えるような歌を歌えているかと思います。「BLUE GLOW」は、原曲は15~16歳に作っていたものなので、当時と比べると歌い方が大人になったなぁ……と感慨深い曲。10年かかってやっと最近、グルーヴというものに乗れるような感覚がありますね。あと、声をコロコロ変えるのは癖です。楽しくて。

――最近のライブでは特に、ボーカルの線が太くなったように感じます。歌唱力の変化を、ご自身ではどのように捉えていますか?
ボイトレには定期的に通いつつも、家でひとりでよく歌ってますね。最近、海外でのライブの機会が多かったから少しずつスキルがついてきてるのかな? 個人的にはまだまだ全然だめだなって感じなんですけど、最近周りの方が褒めてくださることが多くて、本当なのかな……と思ってます(笑)。でも、歌うことに対して楽しさを見いだせるようになったのも一つ大きな一歩なのかなと。カラオケも好きですけど、引きこもっている時間の方が長いので、最近はお風呂で自然なリバーブで歌ってます。

ラッパーとしてのDaoko

もともとデビュー時に“ニコ動出身ラッパー”といった形容もされていたDaoko。その後も、どの時代の作品においても歌詞に韻を散りばめ、多彩なフロウを試してきた。また、「GAMEOVER」などを筆頭に、音としての響きに執着したアプローチも多々観察できる。その代表的な試みが、"子どもと大人が一緒に楽しめる体験"をコンセプトに、ラップをオノマトペで構成したプロジェクト<ヲコダヲコ>。第一弾は、永井聖一×あらゐ×Daokoというコラボで作品が公開された。

――『Slash-&-Burn』でも、「FTS」などで Daoko さんは丁寧に韻を踏んでいます。ボーカルスタイルや音楽性の幅が広がってきている中、押韻はもはやDaoko作品のシグネチャーになっていると感じますが、Daoko さんが今も韻にこだわる理由を教えてください。
やっぱり、日本語ラップのリズムが好きだからですね。降神さんのように、韻が固くありつつもリリカルなラッパーさんに憧れがあるので、自然と韻を意識してしまいます。より音楽的に気持ちいいラップを追求するとなると、韻は欠かせない。言葉遊びとしても楽しいし。ただ、私のラップスタイルだと歌詞が長文になってしまうので、日々のストックが肝です。

――「なんちゃって」の“らららったらら らーらら”のように、Daoko さんの歌詞においては心情の意味的な告白(=重さ)と音としての響き(=軽さ)の妙なバランスがとてもユニークです。ヲコダヲコともつながるところかもしれませんが。
「なんちゃって」の制作は2021年なのですが、リラックスした状態で作っていた気がします。ヲコダヲコは子供視点を重視しながら大人も楽しめるプロジェクトを目指して制作しているので、ソロの「なんちゃって」のような曲の”ららら”は子どもになった自分が歌っているのかもしれません。自分の中の子どもが出てきているというか。

――プロジェクト「ヲコダヲコ」の今後の構想について教えてください。
今後も続行したいなと思ってます。ワークショップやライブ、ビデオなど……やりたいことはたくさんあるので、やるぞ!(強い意思)


作詞家としてのDaoko

小説『ワンルーム・シーサイド・ステップ』はじめ、Daokoと言葉の戯れは様々な方向へ拡散を見せてきた。近年は、これまでになかったような赤裸々な歌詞内容も多く、「SLUMP」では、“最近スランプで何も出来ずに這いつくばってうなだれた/ヒットソングも書けないけれど勿体ないが仕方ない/やりたい放題やらせてよ ねえ/わたしがわたしであるために/死体じゃない”というラインも。

――「SLUMP」を筆頭に、『Slash-&-Burn』ではこれまで以上に赤裸々な心情を吐露されている印象です。アルバム制作中のマインドはどのような感じだったのでしょうか。
制作時期が2021年なので、その時の空気感がありますね。曇り空な感じ。けっこうお酒を飲んでいて、缶チューハイでは酔えない時期だった。あまり世間の目を気にせず、あけすけにリリックを書いているなと思います――と、今となっては俯瞰的に捉えられるようになったかな。世間や他者へのごく個人的な感情と、自分という存在の境界線を探しているような言葉が多いですね。少し時間が経ってみて振り返ると、悪い意味だけでない”呪い(おまじない)”要素が全体的なムードだなと思います。

作曲家としてのDaoko

本格的なDTMの導入など、『Slash-&-Burn』のトラックメイク/作曲についてはアルバムインタビューでたっぷり語られている。ぜひご一読を。

画家としてのDaoko

「絵を描くことは生活の一部」と語るDaoko。「groggy ghost」をはじめ、自身の楽曲のイラストレーションを手がけるほか、2022年にはGINZA SIXのArtglorieux GALLERY of TOKYOにて初の絵画個展Daoko “the twinkle of euphoria”も開催。アクリル画や水彩画など、50点以上の肉筆画を発表した。魅惑的な色使い、少女や魔法、天使、蝶といったモチーフからは、音楽とひと続きの世界観が感じられる。

――「天使がいたよ」の MV は、Daokoさんがご自身で描いているんですね。モチーフとして多用してきた「天使」を改めて描いていますが、色使い含めどのようなインスピレーションで描いていったのでしょうか。
色は、ちょっと緑が入った青系~アクアマリンカラーのイメージがあって、それにあわせて絵の配色を考えたり写真を選んだりしていきました。軽くMVの指示コンテ動画みたいなものを共有したのですが、仕上がりが素晴らしくて。映像監督の佐伯裕一郎さんとは長いお付き合いで、Daokoの音楽を理解していただいているので今回編集をお任せしたんです。佐伯さんがカラフルに彩ってくれて、最高なお仕事すぎて感動……。自分の描いた絵が動く、感動たるや!


クラブミュージックフリークのDaoko

『THANK YOU BLUE』(2017年)あたりから徐々にダンサブルな傾向を強め、近年はYohji Igarashiとの共作『MAD』(2022年)などを通して、よりエッジィなクラブミュージックへと接近を見せているDaoko。度々、ナイトイベントでもフロアを沸かせている。現行シーンで隆盛するボカロミュージックとクラブミュージックのクロスオーバーに対し、独自のアプローチを試みている点が面白い。また、プライベートではUKハウスを好んで聴き、DJにも挑戦中とのこと。

下記プレイリストは、23年末に本人がブログ記事で紹介していたもの。ボカロを中心としたラインナップの中に、UKハウス等エレクトロニックミュージックの曲もちらほら。

――最近のDaokoさんのワークスを聴いていると、Yohji Igarashiさんとの仕事の影響が非常に大きいように感じます。
クラブでのライブも増えましたし、感謝しっぱなしです。Yohjiさんの最高なトラックとより一層マッチするよう、語感とフロウについて以前よりも意識するようになりました。Yohjiさんとの楽曲は皆が踊ってくれるので、やはりフロア向けの音作りに仕上がっていて凄いなと思いますね。海外のお客さんの反応も良く、どんな国でも盛り上がる。あと世の中的にも、ボカロミュージックやナードな音楽が、クラブミュージックと融合しはじめているのが面白い。もともとボカロにも踊れる音楽シーンがあったし、そもそもナードな雰囲気が社会的に受け入れられるようになってきたのかもしれません。アニメ絵のプリント×グランジ感のようなファッションも今どきっぽいですし、例えば原口沙輔さんとかはクラブとボカロの架け橋になっているなとひしひしと感じます。皆さん、自己プロデュースの力が高い! 自由な表現、より個人的な表現ができるのがZ世代だ! という感じがします。


ボカロミュージックフリークの Daoko

こちらも『Slash-&-Burn』のアルバムインタビューで多く触れられていたが、本記事ではもう少し突っ込んだボカロフリークの一面について掘っていく。

――最近Daokoさんの中でボカロミュージックの熱が再び盛り上がっているとのことですが、 具体的にどのあたりにハマっているんですか?
たくさんいすぎるので長くなりますが、順番に紹介していきますね。以下敬称略させていただきます...。

■いよわ
気鋭の才能が爆発し、すでに認知度も高いですが、本当に独創的で唯一無二の曲ばかりで、音楽のムーブメントに大きな影響を与えるような天才だと思っています。すでに神格化されている方です。私はサウンドの中でも特にピアノの自由自在さと歌詞に惹かれています。自身で動画も作られていて、多くのボカロPやリスナーの憧れの存在だと思います。
「きゅうくらりん」をはじめいよわさんの曲は、プロセカというスマホ音ゲームにも収録されていて、TikTokでも人気ですよね。小学生にも波及するほどに!

わたしはこの「熱異常」で衝撃を受けました。聴いたことない感じです。ジェイムス・ブレイク初期みたいな禍々しさがあって好きです。

■原口沙輔
アカデミック感がありつつ、刺激的なサウンドでオリジナリティ満載です。原口沙輔さんも、ご自身で動画を作られてますよね。その動画もお洒落かつ癖になる今までにないビジュアルで...。いよわさん同様、シーンに影響を与えている若き才能者のひとりだと思います。サウンド作りが気持ちよく、クラブでも踊りたい曲です。最近クラブでのパフォーマンスを拝見したのですが、これぞ新世代の音楽!というサウンドを身をもって感じ、いちリスナーとして純粋に爆踊りしてしまいましたね。

■もちうつね
「おくすり飲んで寝よう」に初めてYouTubeでたまたま出会ったとき、衝撃でした。良すぎて!(笑)。10年前のインターネット時代感が回帰したような動画がかわいくて、この時期の曲たちをきっかけに、最近のボカロやべえ……!となりました。初期衝動感も感じて、危うさと可愛さの中毒性にやられます。電波ソングの血統を感じますね。個人的に大貫妙子さんの『くすりをたくさん』という曲が大好きで、本当に勝手な解釈としてアンサーソングに感じています。自分の中で盛り上がっただけですが(泣)。



■マサラダ
最近、突如現れた新人ボカロPさんです。まだ動画を投稿されて間もないと思うのですが、曲の完成度に加えて動画も凄すぎる。J-POPとしても秀逸すぎます。「ちっちゃな私/重音テトSV」の歌詞がやばくてわたしはいつも泣きます。曲が上がるたびに音楽性の幅と表現の豊かさ、クオリティに感動しているので、新曲が楽しみです。

■LonePi
女性のボカロPさんは珍しいなと個人的には思っているのですが、きっと男女差も関係なくなっていくのでしょうね。動画も可愛らしくて、動画師としての才能もやばいなと思っています。キャッチーなメロディーセンスと言葉づかいが特徴的で、最近はクラブでDJもされているらしいので気になっています。若い子に絶大な人気がある印象ですね。私は「ヘヴンリーユー」が異常に好きです。

■ぺぽよ
めっちゃ好きなボカロPさんで、iPadで音楽制作されているらしいです。暗い歌詞なのにコード進行やメロが明るいので、躁鬱POPって感じで好き。私は「らくらく安楽死」と「拝啓」が好きすぎて狂ったように聴いてます。「部屋とYシャツと私」や「ピーターラビットとわたし」を勝手に連想します。無限リピートしていた時期がありました。独特な世界観に中毒性がありますね。

■citrus fossil
citrus fossilさんさんも個人的に好きなボカロPさんのひとりですね。「あなたはヒーロー」は、やわらかであたたかみのあるサウンドに対して、歌詞で色々な考察ができるような影があり、そのコントラストが何とも絶妙で美しいなと思っています。

■電ǂ鯨 さん
ボカロ界隈とも隣接している(かなり近い位置なのではないかと思っています)謎の音楽シーン“界隈曲”のリスナーからも人気のボカロPさんで、私も狂ったように大好きです。音楽センスも抜群で、楽曲の世界観が独特なので惹き込まれますね。まじで毎日聴いてるんですよ……。この方も、唯一無二!な世界観と豊かな音楽性で今後の活動を楽しみにしているひとりです。

■Namitapeさん
最近知って衝撃を受け、めちゃくちゃ注目しています。原口さんとのラジオで、好きなボカロ曲で唯一かぶっていたのがNamitapeさんでした。動画はシンプルなのですがオシャレでセンス良すぎなんです。勝手にYMOやサカナクションの影響を感じていた(好きなので)のですが、XにYMOカバーをあげられていて驚きました。クラブとの相性も良さそう。新曲も最高でした。


個人事務所を運営する Daoko

2012年からLOW HIGH WHO? PRODUCTIONに所属後、メジャーレーベルを経たのち2019年からは個人事務所「てふてふ」を設立、インディペンデント・アーティストとして活動中。楽曲リリースやライブのブッキング、その他メディア出演など幅広いワークスをミニマムな人数で行なうべく日々奔走している。それにあわせて、活動領域や音楽性も近年さらに自由な形に。

――インディペンデントになり、使う頭も体力も全てが様変わりしたのではないでしょうか。それらが、クリエイティブにどのような影響を与えているか教えてください。
個人事務所になってから知らなかったこともたくさん出てくるし実務としても大変で、苦手なこととも向き合わないといけないのですが、親友がマネージャーをしてくれているので、モチベーションはそこでかなり保てています。守るべきものが増えると人は強くなるというか……。創作に没頭する時間も必要なので、スケジュールの緩急はマネージャーと相談しながら決めています。逆に、ぼーっとする時間も大事だと思いますし。単純なタスクに追われて一日が終わると、創作まで体力と気力が持たないので、バランス調整をうまくやらないと長く続けられないです。コロナ禍の強制的な静寂からいきなり活動が激しくなったので。少人数で日々奮闘中です(笑)。

――「てふてふ」設立から5年が経ちますが、この5年間で達成できたこと、今後トライしていきたいことを教えてください。
本当に、よくやってこれたなと思います!  これもひとえに関わってくれる方たち皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。ひとりでは絶対に成し遂げれないことばかり。もっと関わってくれる人たちに還元できるよう、生きていきたいです。トライしたいことばかりで難しいですけど、ソロとQUBITの両立はもちろんのこと、今回のソロライブが好評だったので同じメンバーでまたソロツアーしたいな~とかも思っています。DTM力の向上も。ヲコダヲコもやりたいし……とにかく音楽を軸としながらもすべての活動の解像度をあげていきたいですね。

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