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珈琲の大霊師249


 予想通りの驚き方を見せてくれたジョージさんの顔を見て、愉悦こみ上げてくる。私とルナさんが、妊娠する為に精霊術を使用した事は知っていたはずだけれど、本当に成功するとは思っていなかったのでしょう。

 滅多にうろたえない人だから、新鮮。

「はっ!?リフレール、子供産むのさ!?ルナも?」

「はえ~~~。あ、おめでとうございます」

 ほぼ同い年なのに、全くピンと来ていないモカナさんと、理解していて本気で驚いているルビーさんは見比べると本当に面白い。モカナさん、よく分からないけれどこういう時は祝福するという思考だけで今言いましたね。

「ふふっ、ありがとうございます。妊娠2ヶ月です。あと8月程で、お父様ですよジョージさん」

「……マジか……。いや、狙ったんだから頭では分かっちゃいだんだがな。そうかぁ、俺が、父親になるのかぁ」

「やっぱり、実感湧きませんか?」

「まあ、正直な。まだ腹も目立ってないみたいだし」

「そう遠くありませんよ。まだ性別は分かりませんが、名前、考えておいて下さいね」

「いいのかオレで?正直、そこは王様連中に任せたほうが良いんじゃないかと思うんだがな」

「サラクの子、としてだけであればそうですが、政治的に考えても私達の子はマルクとサラクの架け橋という存在になると思います。勿論、お父様、叔父様の意見は参考にいたしますが、私はジョージさんの名付けた名前が聞きたいです」

「……分かった。考えておくな」

「はい」

 嬉しさに思わず顔が綻ぶのを感じる。と、不思議な視線を感じて、その元を辿ると、ずっと目を閉じている女性が1人。誰でしょう?

「……ところで、そちらの女性は?私の知らないお方ですね」

 まさか、またジョージさんのお節介が炸裂してどこかの女を引き込んでしまったのでしょうか?思わず、声に力が入るのを自覚してしまいます。

「わた、し。わた、しはカルディといいます」

「あー、色々と事情があってな。簡単にいうと、 まあ、……拾った?」

 と、ジョージさんがシオリさんやルビーさんの方に振り返って確認すると、二人は難しい顔をして頷きました。ああ、きっと説明が面倒な流れで拾った方なんですね分かります。

「補足しますと、その、記憶が無いカルディさんを見つけて、介抱して、仮の名前をジョージさんがつけました。それで、現在は目が見えませんので、見えるようにする為にもアントニウス様の所へ……」

 と、シオリさんが補足する。無限回廊でジョージさんの右腕をしてからというもの、まるで秘書のように立ち回っている。……少しだけ、もやっとします。

「まあ、そっちはアテが外れたんだがな~」

「ううう……アントニウス様ぁ……」

 あら?そういえば、シオリさんの目的はアントニウス氏に会いに行くことだったはず。会えたという割には、反応が妙ですね。ジョージさんも、少し引っかかる反応ですし。

「まあ、積もる話は今夜にでも回すとしよう。今日は、珈琲を歴史に刻む重要な日だからな」

 それまでとは打って変わって目を輝かせるジョージさん。まるで子供みたい。バリスタさんから聞いていましたが、珈琲が学門になるとか。

 ……嬉しいでしょうね。ジョージさん、そして、モカナちゃん。

「はいっ!!」

 ジョージさんより太陽のように明るい笑みを浮かべて、モカナちゃんが答えました。ああ、やっぱり、私とルナさん、ジョージさん3人の間柄と、モカナちゃんとジョージさんの間柄は、質が違うんですね。

 ジョージさんの子供を宿してなお、まだその間に割って入れない。そんな気がしてしまいました。



 子供が出来たのか……。いやぁ、ピンと来ないもんだなぁ。もう少し腹が出てくれば分かるようになるかなぁ?

 俺とルナの子供、俺とリフレールの子供。リフレールとの子供は、間違いなくリフレールの次の王になるんだろうな。……いかん、全然ピンと来ねえ。

「赤ちゃんは、どこにいるんですか?」

 モカナが好奇心そのままに聞くと、リフレールが本当に嬉しそうに笑う。それを見ると、まぁ、悪い気はしない。

「ここですよ。お腹に。でも、まだ本当に小さいので、触っても分からないくらいです」

「そうなんですかぁ……。きっと、綺麗な子供になりますね!」

「そりゃ、そうさね」

 ルビーがリフレールの顔をジロジロと見て、口の端を吊り上げた。何代にも渡る混血の結果の美人がリフレールなんだから、俺の影響は微々たるもんだろ。男でも女でも、俺よりは見目麗しいんだろうなぁ。

「そういや、ルナは?」

 あいつにも子供が出来たなら、来そうなもんなんだが。

「ルナさんは、精霊術を使った不妊治療の最先端という事で脚光を浴びてしまいまして。世界各地から、不妊に悩む、主に王族貴族が押し寄せて来まして。その対応に追われています」

「あー・・・。あいつ、そういうの放って自分優先できないからなぁ」

 頼られると、張り切るタイプだからなぁ。あいつ。まあ、人の為ってのが好きな奴だからやりがいがあるんだろうな。

「そういうわけです。それから、この娘も会うのを楽しみにしてたんですよ」

 と、リフレールがごそごそと後ろに積まれた荷物から小さな鉢を取り出した。

 次の瞬間、俺の世界が青く染まった。

「おお……なんか、久しぶりだな」

「ジョーーーーー………ジさんっ!」

 目の前が、なじみのある指で塞がれた。相変わらず、この空間じゃ自由だな。

「だーれだっ?」

「よう、リルケ。久しぶり」

「えへへっ」

 ぱっと手を離し、目の前に逆さになってぶら下がって来たのは、花の村プワルのお転婆花の精、リルケだった。

「どうかなどうかな?私も成長したんだよ?分かる?」

 えへんと胸を張るリルケだったが、見た目は特に変わっていなかった。

「いや?どこが変わったんだ?」

「ええっ?ほら、青くなくても見えるよね!?」

「青いけど?」

「へっ?……あ、ほんとだ。あははっ、つい癖で……」

 すっとリルケが深呼吸した、ように見えた。すると、周囲の青色が薄くなっていき、やがて傍らのリフレールも見えるようになった。

 にも関わらず、リルケははっきりと見えていた。

「おおっ!プワル以外でも見えるようになったのか!!」

「私にも見えてるんですよ?」

 と、傍らのリフレールが優しげに微笑んだ。

「大した進歩じゃないか。おめでとう!」

「ありがとう!まだ、一度見たことのある人にしか見えないんだけど、もっと沢山の植物と繋がれたら、私の事知らない人にも見えるかもしれないんだ!」

「……そりゃあ、本格的に精霊の仲間入りだな」

「うん。だから、また連れてってね!一緒に旅をしようジョージさん、モカナちゃん、あと、ルビーちゃん!」

「あたいはついでさ?ま、いいさね。おかえりなさいさ、リルケ」

「ただいまー」

 リルケは嬉しそうにクルクル回り、それに触発されたドロシーがくるくる回って、いつもは薄暗い学者達の空間が、今日は別空間になったのだった。

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