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珈琲の大霊師068

「そういうわけで、連れて来たんだが」

 そういうわけで、ジョージ達はリフレールを連れて兵舎に併設された元高級官僚住居を訪れていた。リルケが見つけたミシェルとガルニエ達の住居だ。

「「えっ」」

 あっけに取られるガルニエとラカンを尻目に、ミシェルはさっとリフレールの前に跪いた。

「このような場所にわざわざお出で下さり、感謝の言葉もございません。サラク王女、リフレール様とお見受け致します」

「ご丁寧にありがとうございます。あなたがミシェルさんなのですね。事前の連絡無しに来てしまった事をお許しください」

「恐れ多いお言葉です」

 ミシェルとリフレールが一通り挨拶するのを見てから、ラカンとガルニエは同時に跪いた。

 ひとしきり恐縮した後、リフレールを主賓として応接間へと案内する。窓側にガルニエ達傭兵団側が座り、入り口側にリフレール御一行が並んだ。

「まさか、一日で連れて来るとは思わなかったぜ」

 苦笑いするガルニエの横で、ラカンも頷く。

「別に俺が連れてきたわけじゃねえ。リフレールが、あんたらに会いたいって言ったんだよ」

「そう……ですか。私は、噂でしか存じておりませんでしたが、リフレール王女は本当に聡明なお方の用だ」

「ついでに美人だ!ハッハッハ!!」

「美人は何かと得ですわ。男性の警戒心を容易に解いてしまいますし、少しの機知を見せただけでも聡明とまで言われてしまうのですから」

 リフレールの声だけが少しだけ冷えていて、空気を読まざるをえなくなった男たちが黙る。

「二人とも、リフレール様が来たからって興奮しすぎよ。リフレール様も、遊びに来たわけではないでしょう」

「ああ、そりゃ分かってる。1つ、俺から言わせて欲しい事がある」

 ガルニエが、真剣な表情になってリフレールを見つめた。

「俺達は、どんな国家とも対等に取引してきた。だから、あんたがサラク王女だからといって態度を変えるつもりはねえ。俺は、そういうの苦手でよ。気を悪くしたら謝るが、態度は変えねえ。それを、最初に認めて欲しいんだ」

「あら、何をおっしゃいますやら。先の戦闘にて、サラク軍を破ったあなた方がサラク王の娘如きに敬意を払う必要がありまして?敗軍とはいえ、私もサラクの誇りを持っています。敬意を払われる謂れが私に無い以上、むしろ中身の無い敬意は侮辱でしかありませんわ。お気になさらず、いつも通りにお話し下さい」

「……むむ」

 こんな返し方をされたのは初めてだった。謙らず、相手を貶めず、なおかつ誇り高い。ガルニエは思わず唸ってしまった。

 続いて、ラカンが深々と頭を下げて発言した。

「では、私からも。まずは、先日のご無礼をお許しください。サラク王の一人娘がビヨン経由でサラク入国を果たそうとしているという情報があり、交渉材料として迎え入れるのが目的でした」

 今度はリフレールが驚く番だった。自分達の目的を隠そうともしないのだ。

 どういう意図か?

 少し考えた後、リフレールは少しだけ憤りを感じた。

「……現サラク王を、私を測るための指標になさいましたのね」

 びくりとラカンが肩を震わせた。

(読まれた!?)

 ラカンが手の内を明かすという事は、腹を割って話すに足る存在、交渉相手であるとリフレールが評価された結果だ。だが、その評価とは誰を基準に考えられたものだろうか?

 彼らは、当初ラカンが言ったように元々リフレールをサラクとの交渉材料としてしか考えていなかったのだ。が、それ以上の価値があると判断したから手の内を明かしたわけだが、それは比較対象がいるという事を意味する。

 つまりラカンは、リフレールを交渉材料にしてサラク王と交渉するよりも、直接リフレールを交渉相手にしようと判断した。リフレールとサラク王を天秤にかけ、リフレールの方に勝ちがあると見込んだ。

 それを即座に見破られたことが、ラカンには衝撃だった。

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