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むかしむかしのその昔⑯           トイ・ストーリーの違和感

今では私もすっかり慣れっこになってしまっているが、私は初めて「トイ・ストーリー」を見たときのことが忘れられない。
映画が始まって少しすると、私は吐き気をもよおすような嫌な感触で息苦しくなった。世界初のフルCGアニメーション作品に、私のからだはそう反応したのだった。

話がおもしろくなかったわけではない。
何もかもが見えすぎる映像にからだがついていかなかった。
私たちはふだん、自分の見たいものだけを見ている。それ以外のものは視界のなかにあっても、見ているようで見ていない、そんな見方をしている。
だから、フルCG製作の「トイ・ストーリー」の映像が、隅から隅までぎっしりと情報で詰め込まれ、何もかもがくっきりと見える画像であったために、私は吐き気をもよおしたのだと思う。
その後、子どもたちが繰り返し見る映像を、私も一緒に見ているうちにだんだんとその気分が薄れていくようになった。慣れというのは恐ろしい。体調不良を起こすような体験にからだが慣れてしまうなんて。

初めてのときの感覚はなんだったのだろうか。その違和感は拒否反応ではなかったのか。
慣れてしまうともう、初めてのとき、それ以前の自分の感覚を忘れてしまう。「初心忘るベからず」とはいうが、自分の体感・感覚を維持するのはなかなかむずかしい。こうして私たちはいつのまにか、さまざまなことに慣れていく。

コンピューターがどんなに言語を学習しても、コンピューターには表現できない世界を私たちは見たり、聞いたり、触れたり、嗅いだり、味わったり、感じたり、その動きや、熱や、様子や、湿り気や、形や、香りや、変化を知ることができる。言葉では言い表せない世界を感じることができ、それを表現するという試みを、私は続けていきたいと思う。自分自身でもわからない、自分の感覚というものを人に伝える表現を磨いていきたいと思う。
初めてのフルCG「トイ・ストーリー」を見たときの体感を忘れないようにして。

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