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エピソード4 「無職、ユニオンに加入する。」 #元テレビ番組制作会社ADの未払い残業代請求ストーリー

~元テレビ番組制作会社ADの未払い残業代請求ストーリー~

エピソード4
「無職、ユニオンに加入する。」

残業代請求を決意し、色々とインターネットで調べていた時に偶然発見したyahoo記事で紹介されていた相談窓口には、NPO法人POSSEと書かれていました。この記事を食い入るように読んだのが、20時30分過ぎ。明日電話するかと思いつつ、NPO法人POSSEを調べてみると、相談時間は21時まで。

僕「えっ!? まじで・・・」

これはもう何かの運命だと思いました。慌てて、電話をしてみると、、、

相談員「はい。NPO法人POSSEの労働相談窓口です。」

僕「インターネットの記事を見て電話したのですが・・・。」

相談員「すいません。今、他の相談者の対応をしているので、20分後にかけ直してもいいですか?」

僕「わかりました。宜しくお願いします。」

と、一旦電話を切りました。映像業界について書かれた記事と自分の会社の類似性の高さに、興奮しすぎて、慌てて電話した僕は、冷静さを取り戻すことに20分を費やしました。しかし、いざ電話してみると、開始30秒後には、興奮で一方的にガーっと話している自分がいました。

正直、この対応してくれた相談員が、何を言ったのか、興奮しすぎて、全く覚えていません。恐らく、優しく対応してくれたんだと思います。慰めてくれたんだと思います。ただ、そんなことは当時の僕には、どうでも良く、会社を辞めてからの半年間、この苦しみを誰にも理解されないと思って、会社で経験したことや、会社を辞めた本当の理由を誰にも言っていなかった僕は、とにかく話したくて話したくてたまりませんでした。さらに、退職してから貯金を切り崩して生活をしていたため、日に日に減っていく貯金通帳の残高に追い詰められ、この必死さに拍車をかけていました。

この半年間の引きこもり生活で、吉野家に行っても、無言で牛丼の注文とお会計ができる体になっていた僕は、こんなにも流暢に日本語を話せることを認識し、久しぶりに生きている実感を得ました。そして、その相談員は、後日、直接面談してくれるとのことだったので、早速予約を入れました。

その2日後、面談をしました。そこで、 改めて僕は、未払い残業代があること、暴力を受けていたことを詳細に話しました。そして、未払い残業代を請求できる3つの方法を教えてくれました。

①労働基準監督署
②弁護士
③労働組合

相談員「残業代請求は、この3つの方法があるのですが、暴力やパワハラが起きる職場環境を改善させたいのであれば、労働組合が一番良いです。」
僕「労働組合ですか・・・(なんじゃそりゃ)」 
 
労働組合という言葉は知っていましたが、どういうものなのか何も知らない僕に、その相談員は、優しく説明してくれました。そして、NPO法人POSSEには連携している労働組合もあるとの説明を受けました。

相談員「労働組合っていうのはですね。団体交渉で、○×△、、、」
僕(なんでこの人、無職の俺にずっと労働組合の説明をしているんだろう。大丈夫かなぁ。)

「ありがとうございます。労働組合について、大体は理解できました。けど、僕、無職なんですけど・・・。」

相談員「大丈夫です。無職の方でも加入できます。」

僕「・・・・え、そうなんですか?」
  
なんとこのNPO法人POSSEが連携する労働組合は、企業の外にある労働組合で、年齢、性別、国籍に関係なく加入でき、しかも、無職でも加入可というものでした。いわゆる、ユニオンと呼ばれる労働組合です。僕は、労働組合なんて大企業の正社員にしか関係ないと思っていました。無職なんて関係ないと思ってました。

考えてもいなかった提案に驚いていると、

相談員「残業代だけでなく、暴力の問題も是非、解決しましょう!」

僕が受けた暴力に対して、「是非やりましょう!」と言ってくれた相談員の力強い言葉に背中を押され、未払い残業代だけでなく、パワハラと暴力についても問題解決したいと強く思い、

僕「はい。是非、前向きに検討させて下さい!」と返事をし、後日改めて加入するかどうかを確認する面談をもつことになりました。

帰宅してからは、相談員の方が言ってくれた残業代請求の3つの方法を比較検討しました。労基署に関しては、前回のブログで書いた通り、一人で請求してくださいと言われたので選択肢から消えました。そこで、残業代請求の依頼を受けている法律事務所を調べました。Googleで、「残業代請求 弁護士」と検索し、とある法律事務所のHPに辿りつきました。そこには、無料相談の文字があり、さっそく電話してみました。

担当者「はい。〇〇法律事務所です。」

僕「すいません。残業代請求したいのですが。」

担当者「分かりました。それでは、都合のつく弁護士から折り返し電話させますね。その際に必要となる、雇用契約書やタイムカード、給与明細などあれば事前に送って下さい。」

僕「わかりました。ありがとうございます。」

<3時間後>

弁護士「〇〇法律事務所の△△と申します。宜しくお願い致します。」

僕「宜しくお願い致します。」

弁護士「香川さんの場合、固定残業代の超過分が支払われていないということですよね。この場合は、・・・・・・」

というように、労基署やユニオンと同じ説明を受けました。こんなにも簡単に弁護士と話しができるものなのかと思っていると、

弁護士「最後に、弁護士費用は成功報酬の4割となります。」

僕「・・・そうですか。わかりました。検討してみます。」

成功報酬4割という金額に、僕の中で弁護士という選択肢は消えました。そして、ユニオンでの残業代請求を決意しました。

(ちなみに、これは後日談ですが、この法律事務所では、初回のみ弁護士が対応し、その後は事務所のスタッフしか対応しないらしい。結果論ですが、法律事務所にしなくて良かったです。いやー、危なかった。笑)

しかし、ユニオンでの残業代請求を決意した僕はというと、パワハラと暴力の問題解決への不安と恐怖が大きくなっていました。

僕「よくよく考えてみると、暴力をしてたプロデューサーやディレクターともう一度顔を合わせるってことだよなぁ。思い出したくもない人間なんだよな。もう一度、彼らや暴力について直視するってことか・・・。うううぅぅぅぅ、、、、、。ユニオンの相談員に、結構、乗り気な感じで暴力の問題もやるとか、言っちゃったなあ~。どうしよう。あ~どうしよう。」

と、悩んでいる自分がいました。

後日の面談で、パワハラと暴力は諦めて、残業代請求だけすることを伝えました。ユニオンのスタッフさんには、「本当にそれで良いですか?」と何度も尋ねられましたが、暴力に直視する恐怖に打ち勝てない自分がいました。そして、団体交渉でとりあえず残業代請求をすることだけを目的に、ユニオンの加入申込書に記入し、ユニオンの組合員になりました。

そして、、

スタッフ「直近だと、ジャパンビバレッジの団体交渉があるので是非参加してください。団体交渉がどのような雰囲気かわかると思います。」

僕「ありがとうございます。参加します!」

<ジャパンビバレッジ団体交渉当日>

ドキドキしながら団体交渉の会場に着くと、20人程の組合員が参加していました。後ろの席に座り、人生で初めての団体交渉を見学していると、会社は、ユニオンの質問にまともに答えず、逃げるばかりの対応でした。当時よく報道されていた日大アメフト部の監督・コーチの記者会見を再現しているかのようなジャパンビバレッジ側のお偉いさん達は、終わりの時間が来ると、「時間なんで。」と言い、何の回答もすることなく、一方的に席を立って会議室から出て行きました。

組合のスタッフ「ちょっと待ってくださいよ!」

組合員A「・・・ふざけるな!!」 

その方は、ジャパンビバレッジ組合員のリーダー的存在でした。そして彼には、妻と子供がおり、会社から狙い撃ちで解雇を予告されていました。この日は、解雇撤回を求めての団体交渉だったのです。一人の従業員の人生がかかっている状況での団体交渉で、不誠実な対応をしてくる会社を見ながら、、、

僕「大企業は大変だよな。上層部と現場の人間との間に交流がないから、現場の人間をモノ扱いできるんだ。僕の場合は、小さな会社だから、社長や役員との距離も近かったし、さすがにここまで酷い対応はしてこないでしょ。」

と心の中でつぶやきながら、他人事として傍観していました。

この時はまだ、何故か僕を搾取していた会社をどこか信じている・・・、いや、信じたい自分がいました、、、。

~次回 『いざ、申し入れ!』~

エピソード1「僕が夢見たテレビ番組制作会社」

エピソード2 「行方不明の労働者」

エピソード3 「無職、ユニオンに出会う」

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