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【保育業社C社団体交渉の記録 Vol.2~第一回団体交渉・不誠実の上塗り~】

 こんにちは。
  私たちは、全国の幼稚園・保育所・こども園に絵本をはじめとする保育用品全般を製造・販売しているC社で働く社員(職種:編集者)です。

 前回の投稿では、「優良企業」だと思っていたはずのC社の杜撰な労務管理の実態が明らかになったことについてのお話でした。

 2024年3月14日、私たちは第一回団体交渉に臨みました。その結果、自分たちが信じていたC社の「いい会社」のイメージはさらに崩れていったのです。


 私たちの目的は、会社をつぶすことでも、個人としてお金を取り戻すことでもなく、あくまで労働条件を改善し働きやすい職場を目指すことです。
 そのため、第一回目の団体交渉では、違法性が高く、多くの社員がかかわる以下の事案2点に絞り開示と回答を要求し、会社の姿勢について様子をみることにしました。

要求1 規則・規定類の開示と無断改定の事実確認
 ・就業規則、給与規定(賃金/退職金等)開示。
 ・給与規定が無断改定されていた事実があるのか、あるとすればその経緯と理由の回答を求める。
 
要求2 残業代支払いについて
 ・「管理監督者」の要件を満たさない三級職以上に、残業代が支払われないことについて、その根拠の説明を求める。
 
要望 以上の要求への回答の全社員への報告

 以上について、2024年1月22日着で、団体交渉の申し入れを内容証明郵便で会社に送付しました。
 この時点で、私たちはまだ会社の良心と自浄作用に期待をしていました。「組合活動までして、交渉して話せばわかってもらえるだろう。」そう考えていたのです。
 しかしこの第一回交渉で、会社は法律や社会常識とかけ離れた持論を展開し、私たちの期待と会社への信頼は大きく崩れたのです…

•会社の杜撰で高圧的な対応

 第一回団体交渉は2024年3月14日に決定しました。開催にあたり、私たちは(本来常時閲覧できるはずの)就業規則や規定類などの資料を提出することを会社に要求していました。

 しかし、その資料は期限から1ヶ月以上たっても提出されることはありませんでした。
 そして、迎えた団体交渉当日。その場で書類が提出されました。
 しかし、提出された「就業規則」は、何と38年前に作られた「旧就業規則」だったのです。
 私たちに2年前に提示されて、赤字が入ったまま運用されていたはずの「新旧対照表状態」の就業規則は、実は完成すらされておらず、労基署に正式に提出もされていなかったのでした。

 そして、この杜撰すぎる状況に対し会社からの謝罪の言葉は全くありませんでした。

 私たちは、「せめていま会社でどの就業規則が適用されているかを、全社員に周知してほしい」と会社に求めました(というより、法的に周知しなければならない)。しかし、会社は結局社員に対し周知を行うことをしませんでした。

 それどころか、賃金を減らさざるを得ない経営状況といいつつ弁護士を3人も雇い、こちらとの対立姿勢を明らかにしていきました。また、最高経営責任者である社長は、交渉の場へ姿を見せず、総務部長と総務部社員、弁護士に丸投げしました。

•「内規」とは一体


 さて、話は交渉内容に戻ります。

 ・賃金規定(特にその中でも職級に応じて社員に一律に支給されていた「級職手当」について。※昇給していく手当でもある。)が無断改定されていた事実があるのか、あるとすればその経緯と理由の回答を求める。

 以上のことについて、会社に尋ねました。すると驚きの答えが…

総務部長:
「規定の改訂は、ないですね。」「昇級規定は『内規』であり、就業規則に含まれません。昇給額は会社の経営状況に合わせてその時々で役員と決定することであります。その年の会社の業績と、あと、経営状況に伴って決めているわけなんですね。」

 しかしこれに対しては言わずもがな法的・倫理的に問題があります。

・全社員に適用される手当についての規定は賃金規定に含まれるべき項目であり、まず「内規」であってはいけない。
→ 手当を含む、賃金の決定、計算及び支払の方法、昇給に関する事項は、就業規則に記載しなくてはいけない事項に当たります。(労基法第89条)
※のちに手当に関連して労基署から会社に対して是正勧告が出ています。

・社員に対して不利益な改訂がされる際には、合理的理由があることと、社員への周知が欠かせません。
→使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。(労働契約法第9条)

・すでに昇給している人の額はそのままで、将来昇給する若手の昇給額ばかりが改訂されている。生涯収入で考えると若手と上の世代とで深刻な世代間格差を生むことになる。

 以上のことを踏まえ、いまの状況は違法状態ではないのかと、私たちは会社が連れてきた弁護士にたずねました。すると…

「違法かどうかは、そりゃ最終的には裁判所にしか判断できませんね。」

 そして総務部長は、さらに悪気もなくこう言ったのです。

「今後も、会社の業績が落ちていたら(昇給額を)改定。役員のルールでね。」

 私たちは、会社のこの態度に愕然とし、いままで信じてきたものがガラガラと音を立てて崩れていくのを感じました…。

•会社と法律における”管理監督者”が違う?

 私たちは事前に以下についても会社側に要求していました。

 ・「管理監督者」の要件を満たさない三級職以上の社員に残業手当が支払われないことについて、その根拠の説明を求める。

 C社では三級職以上の社員は自動的に「管理監督者」という扱いになり、残業手当が支払われる対象から外れることになっていました。しかしそもそもこれは違法です。

 確かに、法律的に「管理監督者」に対しては残業代を支払わなくてもよいことになっています。C社の編集部では、約半数が管理監督者扱いとなっていました。
 しかし、三級職以上の社員を管理監督者とするにはかなり無理があります。
 本来管理監督者と認められるための要件はたいへん厳しく、経営に参加している役員のような人しか認められません。(資料:厚生労働省「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/dl/kanri.pdf)

※管理監督者と認められるための三要件
1、経営者との一体性がある(例:役員と一緒に経営に参画しているなど)
2、労働時間の裁量がある(例:出退勤時間が自由など)
3、対価の正当性がある(例:責任に応じた相当な手当をもらっているなど)

 私たちは三級職の方の労働状況がこれに当てはまるか団体交渉の場で確認しました。

・1、経営者との一体性があるかについて
組合:「三級職になってからも明らかに経営には参画していませんが、経営者との一体性があると考えているのでしょうか?」

弁護士:(笑いながら)「三級職以上を「管理監督者」とすることで、会社として評価し、相当な地位を与えてきたということですね。」
→経営者との一体性の有無についての答えにもなっていませんでした。
法律上の「管理監督者」はそのように社員に評価を与えるための単なる「称号」のようなものではありません。

・2、労働時間の裁量があるかについて
組合:「三級職以上でも定時出社・退勤をしていますが、労働時間の裁量性が認められるのでしょうか?」

総務部長:「それに関しては全く認識がなかった。勤務時間の実態を調べないとわからない。」
組合:「でも、定時に出社しなかったら遅刻になりますよね?」
総務部長:「そうですね!役職級職問わず。」
→総務部長でありながら、社員が通常何時に出退勤しているかの認識がないとのことでした。(そんなはずがない)
それに、自ら発言した通り、級職問わず定時出社・退勤は社員全員に義務付けられており、労働時間の裁量が認められていないことは明らかです。

・3、対価の正当性があるかについて
組合:「三級職の社員は、役員報酬のような、管理する立場として相応な手当がもらえているようには思えませんが…?」

総務部長:「級職手当15,000円は管理監督者の要件を満たす水準だと考えて運用してきた」
→人によっては昇級前の残業代を下回るような手当でありながら、管理監督者の要件を満たす高い水準の手当だと主張をしていました。

•なぜ?株の配当はいままで通り

 さて、会社が社員の給与にこっそり手をつける理由はなぜか。一つには経営状況の悪化であるということでした。しかし、社員の給与が低く抑えられる一方で、株主への配当はこれまで通りの率だったのです。会社の業績が良かった時からずっと変えていないと。そのことについて総務部長に尋ねました。すると…

総務部長:「それはもう、株主あっての会社ですから。」

 以前「社員は家族」と社長が言っていたことが思い出されました。その言葉を信じて、私たちはやりがいを持って真面目に働いてきました。経費削減という理由で清掃会社の契約まで打ち切られ、自分たちで清掃するような状況の中でも、忙しい本づくりの仕事をしてきたのです。
 しかし、この状況では、もう何を信じて良いのかわからなくなってしまいました。

 もし経営状況の悪化から給与を抑えないといけないとなったとしても、
社員へ説明をせず、勝手にこっそりと不利益な改定を行ってよい理由にはなりません。

•悲しい結末/崩れてしまった信頼

 以上が第一回の団体交渉の内容です。
 会社は問題を認識しながらも、それに対し自らの誤りを認めることや、社員への周知を行うことは一度もありませんでした。
(C社の企業理念の行動指針には「ありがとう・ごめんねを言う」があるのですが…)

 それどころか、詭弁や議論の矮小化、答えになっていない不誠実な回答を繰り返し(しかも弁護士は笑いながら答えていた)、なにも決まらぬまま時間だけが過ぎていきました。子どもの本を作る会社の社員として恥ずかしく、辛い時間でした。

 会社はこのように不誠実な対応をしながらも、実際法的にはかなり問題があるため、この後突貫工事で無理やりに新しい就業規則作成に乗り出していくのです。
 本来であれば、誤りを認め、きちんと説明と謝罪をしてはじめて新しい規則づくりがスタートするはずですが…それはありませんでした。

 この突貫工事の新就業規則がまた波紋を呼んでいきます…。Vol.3へ続く。

・相談窓口など

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