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【保育業社C社団体交渉の記録 Vol.3〜38年ぶりの就業規則改定〜】

 第一回団体交渉の前は、「従業員の話を聞けば、誠実に答えてくれるはず」「遵法意識をもって、会社を変えてくれるはず」と希望をもっていました。また、自身の携わる本が好きで、仕事にも情熱をもっていましたから、C社のイメージに傷を付けたくはありませんでした。

 だからこそ、C社の問題を社外に公表することも、その他の強行な手段も選択してこなかったのです。

 しかし、団体交渉でも、その前後でも、会社側は、不誠実な対応を繰り返すばかり…。このような姿勢を目の当たりにしたことで、会社側に対する希望や信頼は崩れてしまいました。

 そのような中、三六協定の締結と、就業規則の改定が行われます。これが、新たな火種となっていきます。


●人数激減!? 三六協定 


 2024年3月14日の第一回団体交渉後、すぐに2024年の三六協定が締結されました。前年締結分の有効期限が3月末だったためです。
 そもそも、編集部の従業員が三六協定を結んだのは、2023年が初。それまでは、従業員代表の選出などにも参加してきませんでした。これだけでも大問題ではあるのですが、2024年現在も、次のような問題を抱えています。

①三六協定の締結人数「60%減」
 締結人数に大きな差があるのは、2023年は(管理監督者としてきた)三級職以上の従業員も人数に含めてカウントし、2024年はカウントしていないことが原因です。
 なぜ、去年と今年で管理監督者の取り扱いが異なるのでしょう?
 「管理監督者」とは何か・該当者はどのような扱いをするのか…といった基本的な事項でも、辻褄が合わなくなっています。管理体制があまりにも杜撰であると言わざるを得ません。

②特別条項を結んでいない
 月45時間を超える残業を行っている従業員がいるにもかかわらず、特別条項を結んでいません。会社側は、「過去1年に、残業が45時間を超える者はいなかったこと」をその理由としています。しかし、実際には存在し、従業員の残業時間の実態さえ把握されていないことが浮き彫りになりました。

 これらについて、従業員から疑問の声があがったものの、会社側は「締結期限が迫っている」「締結し直すことも可能である」として急いで三六協定を締結させました。
 その後、2024年6月施行の新就業規則で、管理監督者の範囲も変更になるのですが…。2024年9月現在もなお、三六協定は結び直されていません。

●就業規則の改定 


 2024年5月2日。新就業規則が発表されました。
 厚生労働省発表の「モデル就業規則」を元に設計されたようで、かなりボリュームもあります。
 これまでの就業規則が、令和4年発表の「赤字入り新旧対照表型就業規則」(実は施行されていない)だったり、昭和61年発表の古い就業規則だったりしたことと比べれば、大きな前進です。通常業務に加えて、就業規則を改定するのは大変なことだと思います。
 でも、第一回団体交渉やこれまでの会社側の不誠実な対応を考えれば、手放しで信頼することはできません。実際に詳しく見ていくと、様々な問題が見えてきました。

●新就業規則の問題点1〜周知期間と説明〜


①タイトな周知期間 
 2024年5月2日に新就業規則発表。5月2日は、GWの前日です。施行は6月1日なので、実質的な周知期間は、1か月もありません。
 本来は、就業規則を施行するまでに、全従業員への周知→従業員が新就業規則を確認する→全従業員への説明→意見を集める→意見を元に修正を検討→就業規則を修正…等の段階が必要ではないでしょうか?
 C社の事業所が全国各地にあることも併せて考えれば、1か月の周知期間はとても短い。
 まして、38年ぶりの大改定です。
「一般の従業員からの意見を元にした修正は、行わないことを前提としたスケジュールなのでは?」と疑ってしまいます。実際に、一般の従業員からの意見を元に行われた修正は、誤字脱字の修正レベルでした。

②不十分な説明
 就業規則を変更する際は、従業員への十分な説明が不可欠です。
 「不利益変更」にあたる内容(あるいは「不利益変更にあたる可能性のある内容」)があるならば、なおさらです。
 しかし、5月15日に編集部で行われた説明会は、事前に従業員から出た質問・要望に回答する形で進められました。
 非常に多くの質問が出て、時間が足りなかったのも一因ではありますが、「聞かれたことだけに回答するスタイル」に終始し、それを超えて、不利益変更を行う(不利益になりうる変更を行う)ことやその理由についての説明はありませんでした。
 もちろん、令和4年の赤字入り就業規則が実は完成しておらず、今も昭和61年の就業規則が適応されていたということも説明されません。
 そして、これまで、法律上で就業規則に記載しなければいけないと決まっている事項を記載せず、「内規」として扱って、従業員に無断で変更してきたことにも触れられませんでした。
 

●新就業規則の問題点2〜「管理監督者」ってなんだ?〜


 C社には、課長・部長…といった「役職」とは別に、一級職・二級職・三級職…といった7段階の「級職」があります。(ここでは分かりやすく、最上位を七級職とし、全て「◯級職」の書き方で示します)

①三級職・四級職が「管理監督者」ではなくなる
 これまで、三級職以上の従業員は「管理監督者」とされ、「級職手当」が支払われる代わりに、残業手当が支払われてきませんでした。いわゆる「名ばかり管理職問題」です。
 私達は、この状況を問題だと考え、第一回団体交渉でも改善を要求してきました。
 第一回団体交渉では、会社側は「三級職以上を『管理監督者』とすることで、会社として評価し、相当な地位を与えてきた」と言っていたはずなのですが…。
 それからわずか1か月半。新就業規則では、三級職・四級職が管理監督者ではなくなりました。これは、私達の望んでいたことでもありました。しかし、単純には喜べない側面もあります。

②五級職以上は管理監督者?
 では、五級職・六級職・七級職の従業員は「管理監督者」なのでしょうか?
 本来、「管理監督者」として認められるための要件は大変厳しいものです。五級職以上の従業員を全て「管理監督者」として扱うことには疑問が残ります。

③運用上の混乱
 C社にはこれまで、「上長の指示に従う」「上長が同席していれば認める」と“口伝”されてきた事柄が色々とあります。
 三級職・四級職の従業員は「管理監督者」ではなくなりました。一方で、課長などの役職についていない五級職もいれば、役職についている三級職もいます。どちらが「上長」なのでしょうか? 些末なことでも個別に問い合わせするしかなく、現場はその対応に苦慮します。
 突貫工事で「管理監督者」と一般従業員の境目を決めた、その弊害が出始めています。

●新就業規則の問題点3〜固定されない固定残業手当?〜


 三級職・四級職の従業員は、「級職手当」が廃止され、代わりに「固定残業手当」が導入されることになりました。
 一般的に、「固定残業手当」といえば、「月◯時間分の固定残業制と決まっていて、その時間分残業してもしなくても、◆円が手当として支払われる」という制度で、月の固定残業時間は全社的に(あるいは職種ごとに)決まっているのではないでしょうか。
 しかし、C社ではそうではありません。

①人によって異なる固定残業時間
 「固定残業手当」は、これまでの「級職手当」と同額が支給されているようです。
「級職手当」と同額の「固定残業手当」になるように、逆算して「固定残業時間」を決定しているようで、「17.8時間分」等の中途半端な時間数が各人に割り当てられました。
 「固定残業手当」が適応となるのは、三級職・四級職の従業員に限られることも、制度設計にいびつさを感じる理由の1つだと思います。

②毎年変わる固定残業時間
 C社では、原則として、年1回の昇給が行われます。
 昇給によって1時間あたりの残業代も微増することから、固定残業時間も毎年変わります。
 担当者は、毎年、固定残業時間を新たに計算・通知する必要があり、効率の悪い制度設計になっています。

③不利益変更?
 これまでの「級職手当」は、数年ごとに階段状に金額が上昇する仕組みになっていました。
 たとえば、三級職の1年目〜3年目は◯円、4年目〜◇年目は◯円+15,000円…といった具合です。
 しかし、「固定残業手当」は、階段状には上がっていきません。「級職」が上がらない限り、金額も上がらなくなってしまいました。
 これは、事実上の減給であり、不利益変更と言えるのではないでしょうか?
 また、「級職手当」であれば、本来は、割増賃金を計算するときの「基礎となる賃金」にも含まれるはずです。でも、「固定残業手当」では含まれません。そういった意味でも、従業員にとっては不利益であると考えています。

●新就業規則の問題点4〜割増賃金は独自解釈で支給?〜


①「割増賃金の基礎となる賃金」に各種手当が含まれていない
 各種手当が含まれないことで、1時間あたりの残業代が安く計算されてしまっています。
 会社側は「これらの手当は『厚生費』に当たると捉えている」ことを理由に「割増賃金の基礎となる賃金」に含めていません。
 「『福利厚生費』だから、そもそも『賃金』ではない」という理論なのかもしれません。
 しかし、これらの手当は、「賃金規定」に「賃金」と規定されていますし、毎月・全従業員に支払われるならば、「賃金」だと言えるでしょう。
(これらの手当は、労働基準法37条5項・労働基準法施行規則21条に限定的に列挙された「基礎となる賃金から除外できる手当」には当てはまりません)
 
②欠勤控除の計算には、各種手当を含んで計算
上記①の一方で、欠勤などの控除額には各種手当を含んでいるなど、手当の取り扱いが矛盾しています。

③「管理監督者」の深夜残業
 会社側は、級職手当を「支給される従業員が管理監督者であること」を理由に「割増賃金の基礎となる賃金」に含めていません。
 しかし、深夜の労働に対する割増賃金は、管理監督者であっても支払われるので、深夜の労働の割増賃金については級職手当も含む必要があると考えています。

④残業代の支払いは、月60時間まで
 これまで、「管理監督者」ではない従業員の残業代は、最大で月45時間までしか支払われてきませんでした。
 新就業規則の施行に際し、これが60時間までに変更されました。
 会社側は「月60時間以上の残業は想定していない」としているのですが、人員の削減が予定されており、仕事量を軽減するような方策も示されていないため、残業時間は増えることが予想されます。
 また、これまで、月60時間を超えた事例はたくさんあるはずです。個人的には、月100時間以上の残業を何度も経験していますし、月45時間を超える残業代を長きに渡って不払いにしてきた経緯から考えても、今後60時間以上の残業となり、未払いに苦しむ従業員が現れることは、想像に難くありません。

6月1日。
 新就業規則は、多くの問題を抱えたままスタートしてしまいました。
 こちらがどんなに誠実に対応しても、会社側は糠に釘状態なのだと実感しました。
 「このままでは埒が明かない」と考えた私達は、これまで避けてきた選択を行うことを決めます。その1つが労働基準監督署への通報です。
 それでも、私達の要求は、全従業員への謝罪と説明であり、遵法意識をもった会社の運営に変わってくれることを願っていました。会社を潰したいという気持ちはありません。

 今度こそ、私達の真意が会社に伝わることを願いながら、第二回団体交渉の準備を進めました。
 

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