ショートショート|コロコロ変わる名探偵
「は犯人がわかりりました」
探偵がそう言うと、部屋は静まりかえった。皆が固唾を飲んで見守る。
「さ殺人ん犯は、井上だだ。死亡す推定時こ刻のにに22時頃、か彼にはアリバイがない」
「いや、井上はその時間、皆とカフェテリアに居た」
誰かが訂正した。
「では、う上野、彼だだ」
「……上野もカフェテリアに居た」
「でででは、ええ江本だ」
「江本もカフェテリアに居た。……おい、どうした?」
探偵は白目を剥き、泡を吹いていた。
「くそ、フリーズのようだ。実験を中止しろ」
「推理ルーチンに問題があるようです。Ver1.79.6αはバグだらけですね」
「このままじゃβテストにも出せん」
「それ以前に言語生成がおかしかったぞ」
科学者たちは暗中模索していた。死した名探偵を甦らせ、犯罪捜査に役立てる目論見だ。顳顬にコネクタを挿された元名探偵が、ピクピクと痙攣している。試みが成功すれば、他の『ハード』にも『これ』がインストールされるだろう。
了
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