ユニバーサル観光でおもてなしの心を見直したい
京都市障害者雇用促進アドバイザー派遣等支援事業を活用した 障害のある人と地域企業でつくるソーシャルグッド事例(1)
北野界わい創生会(有限会社 とりゐ)の取組
目次
観光サービスと障害のある方の”働きがいのある仕事”
ソーシャルグッドな観光とは?
ユニバーサルを軸とした京都観光の未来
障害のある人もない人も楽しめる京都観光
観光サービスと障害のある方の”働きがいのある仕事”
北野界わい創生会の鳥井さんは、「京都の観光業を盛り上げるためには、修学旅行生や障害のある人に目を向け、多様な旅行者から『また京都に来たい』と思っていただくことだ」と話す。そのために、観光を提供する側が障害のある人を雇用することは、障害のある人にとっても、雇用する企業や社会にとってもメリットがあることを教わった。
鳥井さんは令和3年9月に、京都市の障害者雇用促進アドバイザー派遣等支援事業を活用して、障害のある複数の人と京都観光について率直な意見交換を行った。すると、施設や観光地の設備をバリアフリーにしてほしいなどの願いもあったが、舞妓さんに会ってみたいというような、京都を旅する誰もが一度は思うような観光が求められていることがわかった。「障害のある人の側に立ってみて、初めて私たちと思いは同じだということに気づきました」と鳥井さんは話す。
誰もがそうであるように、日々悩んでいることや考えていることは違う。当事者しか気づかない課題に寄り添い、改善することは、同じ境遇の誰かにとっても、ひいては社会全体にとっても良い変化や影響を与える視点になるのではないかという考えが、インタビューを通じて私の中にも生まれた。
ソーシャルグッドな観光とは?
「京都ではユニバーサル観光についてはまだまだこれから。行政と観光事業者の双方で共有する充分なマニュアルがあるとは言い切れない」と鳥井さん。京都では国際的な会議などは開かれるものの、障害のある方の会議や世界的な大会が開催されたことはないと聞く。開催するとなると、世界中の多様な障害のある人などを受け入れられる観光に必要なことを関係者全員が理解し、準備することが必要だ。ユニバーサル観光には、先駆的に取り組んでいる他都市があるのだとか。例えば、総合的に取り組んでいると聞く長野県の「ユニバーサルツーリズム」や、食事面の配慮に注力している北海道の観光事業などは、参考にすべき点が多いそうだ。その点、「京都はまだまだ観光はしづらいところがあるという障害のある人の声も届いている」と鳥井さん。
京都は修学旅行先として選ばれ、年間100万人の方が訪れるまち。修学旅行生の声を上手く活用し、旅行を十分に満喫したいと思う障害のある方にお応えできる観光こそソーシャルグッドだ。
ユニバーサルを軸とした京都観光の未来
観光業に多大なダメージを与えたコロナウイルスが流行し、京都観光のメインターゲットである、海外からの富裕層の観光客が激減し、政治的な問題で韓国や中国からは一切観光客が訪れない時期もあった。観光業に携わる一人として、課題に真摯に向き合う中、鳥井さんは「コロナ前は、インバウンドのお客様が、かゆいところまで手が届くような京都のおもてなしを理解されて、それに見合った対価を支払ってくださった。そのことを改めて見直し、インバウンド、個人旅行、修学旅行のいずれもおもてなしの心は変わらない。 これからの観光は、海外の富裕層向けのおもてなしの心を、学生や障害のある方にも同じように御提供できれば、いずれ京都の観光業を明るい未来へと導く切り札になるのではないだろうか」と考えた。
さっそく、障害のある方を含めたユニバーサルツーリズムのプラットフォームづくりにとりかかった。修学旅行で訪れる人々が、「また京都に来たい」と感じてもらうことで、将来の観光客数増加につなげることができる。また、修学旅行生が、京都の大学のオープンキャンパスに参加するといった交流をきっかけに、未来の京都を創造する学生を増やすことにつながる。
障害のある人もない人も楽しめる京都観光
考え方、視点を変えていかなければならないのは、観光業に携わる方々だけではない。一人ひとりが日常生活を送る中で、皆が心地よい生活が送ることが出来る良い社会にするための、きっかけをつくっていくことが大切だ。
おもてなしの精神という、本来、日本の強みであったものを考え直してみる良い機会かもしれない。「ふるさとを良くしていけるのは京都で日々を送る私達しかいない」という鳥井さんの言葉が心に響いた。
建物などをバリアフリーにするのは費用や時間的に負担が大きくても、生活の基本である「衣」「食」「住」を整え、これがあたりまえだと決めつけず、楽しみ方は限りなくあるという考えで、多様な選択肢を設けることで、誰もが楽しめる体験をつくりあげることが出来る。「旅行の楽しみの一つである『食』は、その土地ならではのものが食べられるのが魅力だと思うが、アレルギーや身体的な理由で食べることが出来ず、選択肢を狭めてしまっている人がいるのではないか」と鳥井さん。
「今のままでは、一部の旅行者にとって、心に残る良い思い出にはならないだろう」鳥井さんの言葉に深く考えさせられた。「京都に来たからこそ、楽しかった、嬉しかった」という体験ができて、「また来たい」という思いにつながっていく。その繰り返しが、もてなす側にもてなされた側の双方に幸せをもたらす、良い流れができていくのではないか。インタビューをつうじて、私自身、改めて強く感じた。
インタビュアー
京都女子大学 生活造形学科 4回生
戒能仁美・水野香花
ライティング
京都女子大学 生活造形学科 4回生
戒能仁美
インタビュー日
2022年5月23日
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