好きなこと

化粧品が大好きだ。

いつから興味を持ったかは忘れてしまった。母の鏡台から勝手に口紅やチークを拝借して、母の真似事したこと記憶があるから中学生くらいだろうか。その頃はどれだけ化粧しても、なんだかやりすぎて、どうしてこうも似合わないものかと思った。今思えば化粧をしなくても十分肌はきめ細かく、唇も頬もほんのり赤かったんだろう。化粧する必要なんかなかったのだろう。

毎日化粧をするようになったのは大学に入ってからだ。初めは眉を整えてリップを塗るだけだった。けれど誰に言われるわけでもなく、ファンデーションやアイシャドウやハイライトなんか使うようになった。よくデパートへ行き、たくさんのブランドを見て、たくさん試した。

いつのまにか化粧が大好きになっていた。

何が好きか。自分の顔ありきなところ。そこがすきだ。特別自分の顔が好きというわけではない。けれどテレビや雑誌に出ている芸能人のような、握りこぶしみたいに小さい顔に、ぱっちりとした目と高いくて小さな鼻が付いている、いわゆる可愛い顔と、私の顔をとっかえてあげようといわれたって、私は自分の顔を選ぶ。そう思えるようになったのは化粧のおかげだ。

毎日化粧をする。それは毎日自分の顔と向き合うということだ。寝不足だったらクマができたり、肌荒れを起こす。疲れている日は二重幅が広くなるし、寝すぎた日は一重になる。毎日同じようで毎日違う顔をしている。

気分も毎日違う。格好つけたいときもあるし、自然体でゆきたいときもある。そんな気分に合わせて使うブランドやアイテム、色をかえる。それが楽しい。毎日違う自分になる。毎日違うコンセプトがある。自分の目がもっと魅力的に見えるのは、自分の眉の毛並みがもっと引き立つのは、自分の肌の色に馴染む唇の色は、気分にぴったりのカラーは、と考えながら今日の自分になってゆく。

そんなこと毎日続けるうちに自分はユニークだと思った。きっとこんなに力強い眉毛も、切れ長の目も、低い鼻も、薄い唇も、白い肌も、持っているのはわたしだけだ。でもそれは他人にも言えることだ。健康的な小麦色の肌や、柔らかいアーチ型の眉、黒目の大きな目。同じものは一つとしてない。どれもユニークで魅力的だ。自分を肯定的に捉えることは人を肯定的に捉えることへの一歩であると、どこかの誰かがいっていた。全くその通りだと思う。

自分を絶世の美女だと思うほどのナルシストでもなければ、"カワイイ"顔をしている友人と比べて卑屈になることもない。化粧という行為は私に、健全な自信と余裕をもたらしたと思っている。今では自分のことが嫌いではなくなったし、他人のことをもっと素敵だと感じるようになった。私の場合、化粧がそのきっかけだった。

きっかけは何でもいい。仕事でも音楽でも絵でもファッションでも。自分の得意なことや好きなことでいい。そこで傲ることなく、適度な自信と謙虚さを持つことができたら。なんだか健康だと思うのだ。


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