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光る砂と特別な呼吸


大好きな漫画「ハチミツとクローバー」に鳥取砂丘がでてくる。
なにもない砂の上を靴を脱いでふたりが歩いていく。
砂の上に残る足跡。途方もなく広がる大地に行ってみたくなった。

GWに旅行をあててしまったから、宿がある島根から車で向かうには遠い道のりだった。
鳥取砂丘の看板が見えてからも渋滞は続いて、着いたときには太陽が傾きはじめていた。
入り口に立つと、想像していたよりも人の多さに驚いた。
なにもないけど、人がいすぎる。どこを向いても大混雑。
ひとまず中に入った。

砂はこまかくて、足がぎゅうっと沈む。
あっという間に靴の中は砂まみれになった。
一度くだって、馬の背と呼ばれる丘に向かって歩くかたちになっている。
ひとまず登らずに火山灰露出地側にそれて行くことにした。
ごつごつした岩や細々と生える草。
砂丘に自然が見えていくほど、人は少なくなった。

砂丘は透水性がよく、水がたまらない。
でも火山灰露出地には唯一水がたまるオアシスがある。
わたしが見たのは池のようなものではなく、三日月のかたちをした、想像とは少し違うものだった。

想像していたオアシスもらくだもいない。(本当はどこかにいるけど見れなかった)
岩や植物もある。
来てみないと知らないことがたくさんあった。

もうすぐ日も落ちてしまう。
馬の背の急な坂に走り回る子どもたちを横目に登っていくことにした。
踏ん張りが効かない砂はすこし辛かった。
一番上につくと、海が見えた。
水平線に消えていく太陽は大きかった。

人が少ないところでじっと海を見ていると、風がわたしを優しく包んで、世界にはわたしだけがたった一人で立っているような気がした。
この海も、夕陽も、光る砂の大地さえもわたしだけのもののようだった。
この風もわたしだけのために吹いているようだった。
こんなにあたたかで気持ちのいい孤独は初めてだった。
今目の前にある景色をなにひとつ忘れたくなかった。
ここに来なければ、こんなに澄んだ呼吸があることを知らなかった。

完全に夜が来てしまう前にわたしは砂丘を出た。
宿に着く頃には22時近く、ご飯を食べられるところも閉まっていた。
ポプラでお弁当とビールを買って、今日見たことを丁寧に思い出して眠りについた。

起きると、宍道湖の穏やかな波音が聞こえる。
水面がつるっとしていて見ていて気持ちがいい。
空は曇りやすく、すぐにレンブラント光線が現れる。
ここだけで滞留しているような、山陰の立ち込めた空気が好きだった。
他の場所には流れていかない特別さ。
ここに住むことは想像は出来ないけど、きっとまた来るんだと思う。

東京まで帰る長い電車の中でも、くつの中は砂でざらざらしたままだった。






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