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【SGDトーク】 都市林業のある街(ゲスト:湧口善之氏)<アーカイブ動画のみ有料>

都市でも林業が行われている事をご存知ですか?林業と言うと木材が豊富な山奥で行うイメージがありますよね。ただ、都市にも建物の間を縫うように街路樹が存在します。これらの街路樹を使って、みどりを社会に役立つものにする挑戦が始まっているのです。

今回のゲストは都市森林株式会社の湧口善之(ゆぐちよしゆき)氏。「SGD × コミュニティ(地域協働)」のテーマでは2人目のゲストです。「 都市林業のある街」と題して、2021年7月8日(木)に開催されたSGDトークの模様をお届けします。SOCIAL GREEN DESIGNや、SGDトークについて知りたい方は以下のURLからご覧ください。

当日の大まかなスケジュールは以下の流れで行われました。
第1部 19:00-19:20 SGDイントロダクション SOCIAL GREEN DESIGNとは
第2部 19:20-20:20 湧口善之氏によるトーク 都市林業のある街
第3部 20:20-21:30 モデレータとのディスカッション

湧口善之氏のトーク内容から振り返っていきます。

まず始めたのが、今ここにあるもので作ること

湧口さん:大学卒業後、設計事務所を渡り歩いてから、色々な建築物や街を見て建築を学びました。その先にたどり着いたのが「今ここにあるもので作る」という考え方でした。例えば、日本だったら木、イタリアであれば石などです。そういうものは説得力のある個性があり、地域の伝統文化と密接に結びついています。でも近年は遠くから安い材料を調達するのが当たり前になってしまいました。

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湧口さん:「今ここにあるもので作る」という考え方を実践するべく最初に行ったのが、ひとつの山の木から家を作るということ。ただ、地域に加工場がなく、お金で解決しなくてはいけないなどの無理も重なり、時代に合っていない感覚がありました。

木工修行の末、街にも木があることに気づく

湧口さん:その後、行き詰まりのヒントを求めて、木工修行を開始。作り手の事情が分かれば、流通や加工などに関して理解が深まると考え、70種類くらいの木の加工や木工品の販売を経験しました。その中で気付いたのが街(都市)にも街路樹などの木があるということでした。

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事業課題① 街の木の活用はとても難しい

湧口さん:街の木の欠点は痛みや曲がりがあり、色味が不揃いなことです。材料に個性が強いと、物を作る上でもコストの上では不利になります。海外産だと捨てるところがないくらい均質な材料もあり、それに比べると単価も安くなりがちです。

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事業課題② 街の木には負債的な側面がある

湧口さん:また、街の木の維持にはコストがかかり、木が倒れてしまうリスクもあります。街の木は負債的な側面があるので、持てば持つほど豊かになる性質を作らねばなりません。例えば、伐採後も椅子として活用されて生き続けるなど、木があって良かったという体験を増やす必要があります。

仕事を作る① 職域を広げる

湧口さん:これらの仕事を成立させていくためには、まず職域を広げることが必要です。木を切る、庭を整備する、住民参加のイベントをするなど、広く相談を受けます。相談を受けた時に、小物雑貨から家具、建築までワンストップで対応するのです。

▼切った木を製材するワークショップの様子

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仕事を作る ②材料の置き換え以上の価値を作る

湧口さん:また、一般材から街の木へ活用を転換するには、ただの材料の置き換え以上の価値を作り出さねばなりません。例えば、街で見かけるヒマラヤスギの甘い香りが漂う本棚を作ったこともありました。街の木を活かして良いことをしているから選んで欲しい、ではなく、様々な工夫によって街の木を活かす選択にメリットがあるからそちらを選びたい、というように、街の木を活かすことが自然な選択肢となって、一過性の伐採木活用ではない循環する仕組みを目指しています。

▼ヒマラヤスギの甘い香りが漂う本棚

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自立して仕事を生む、自然な循環を

湧口さん:現在および今後の課題として、木工を生業としている職人さんが減り、ものづくり力の低下や担い手不足に繋がっています。高度なサービスを提供するには、やはり人材育成を行い、多様な人材が集まらないといけません。都市林業が補助金に頼らず、自立して仕事を生む自然な循環ができていくと良いでしょう。

ディスカッション①  街の木は伐採を前提に植えるの?

湧口さんのお話の後、エクステリアがご専門の小松正幸さん(株式会社 ユニマットリック・写真左)とランドスケープデザイナーの三島由樹さん(株式会社 フォルク・写真右)を交えたディスカッションが行われました。お2人はSOCIAL GREEN DESIGN 協会の理事でもあります。

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三島さん:とても素晴らしいお話をありがとうございました!街の木を伐採して活用することについて、ランドスケープデザインの分野で植栽をする時、それは普通、行政やクライアントの財産として扱われ、伐採・活用を前提に植栽をするということが難しいです。いま湧口さんが新しい苗木を植える時は、行政の人は将来それが伐採され、活用されるという可能性を了解した上で新しい苗木を植えているのでしょうか?

湧口さん:木を切ることを前提に街路樹を植えるということはありません。開発があるときに木を切らないで欲しいという声に対する慰め的に行われる樹木活用を乗り越えたいですし、一過性の伐採木の活用ではなく新しい循環を作りたいです。必ずしも切らなくても良いが、それでも切られてしまう木々を扱います。木のリテラシーが高まることで、合理的な管理が可能になります。

ディスカッション② 都市林業の取り組みを広めるには?

小松さん:湧口さんのお話を最初に伺った時に、なんでこんな大変なことやっているの?とまず思いました。でも、人々から愛されていくものを作っていきたいという想いがとても伝わってきて理解できました。造園業界ではたくさん木を植えても、それを廃棄してしまう事も多いですが、何か提言はありますか。

湧口さん:私の今の規模でやれることは限界があって、人手が足りないのでランドスケープやエクステリア含め、トータルで連携を進めていくことが必要です。そこを繋ぐコーディネーターが必要なこともあるでしょう。

視聴者からの質問

視聴者①:まちなかの公共事業で伐採される樹を譲ってもらおうとした経験があります。しかし、譲ってもらうことができませんでした。譲ることに公平性が必要のようで、事前周知の上で抽選にするとか、使い道も公的な用途でとか、様々な困難があり、産業廃棄物扱いが無難のようです。

湧口さん:個人で公共事業にアプローチするのは難しいですが、非営利団体や地元の人たちが管理人となり、月に一回、木材を開放するような場があっても良いかもしれません。地域協働と関わる話ですが、営利と非営利のバランスで適材適所が目指せると良いでしょう。

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視聴者B:仕事を受ける際に、設計業務として受けるのでしょうか?どのような内容で仕事を受けて、どこまでワンストップで行うのか気になりました。

湧口さん:どこまでやるのかという話では、ほぼ全部やります。行政の方から意見を聞かせてくださいということもあり、その場合は随意契約やプロポーザルとして仕事を受けることがあります。行政の場合、前例がないことがほとんどなので、情熱をもって取り組んでくださる方がいないと難しいことが現状多いと思われます。

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視聴者C:林業関係者です。都市部の人達に森林に親しみを持ってもらうにはどうしたらいいか悩んでいましたが、湧口さんのお仕事から大きなヒントを得られました。

湧口さん:親しみを持ってもらえると「林業が成立するか」は懐疑的で、すごく難しいです。皆で工夫して、成果を出した人を褒めるようなことが必要かもしれません。

その他にも、「これからの時代に求められるみどりとは?」「これからの時代に求められるみどりとは?」など、「SGD × コミュニティ(地域協働)」のテーマに関するディスカッションも実施しました。都市林業におけるコミュニティの規模感に対する考え方など、興味深いお話が伺えました!

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【SGDトーク】SGD×コミュニティ#02 まとめ

・都市林業の根底にある考えは「今ここにあるもので作る」ということ。
・街の木は個性が強いため活用が難しく、海外産に比べて安くなりがち。
・街の木の維持にはコストがかかり負債的な側面がある。
・仕事として成立させるには、ワンストップで提案できるよう職域を広げる
・ただ材料の置き換えではなく、一般材以上の価値を作らねばならない。
・人材育成とともに、多様な人材が関わり高度なサービス提供を行う。
・補助金に頼らず、自立して仕事を生む自然な循環ができていくと良い。

【SGDトーク】 SGD×コミュニティ#02 プロフィール

ゲスト
湧口善之(ゆぐち よしゆき)
都市森林株式会社代表取締役・一般社団法人街の木ものづくりネットワーク代表理事・世田谷まちづくりファンド運営委員。都市の樹木管理に木材をはじめとした様々な活用を取り入れた「都市林業」を含む包括的な取り組み「都市森林プロジェクト」を提唱、実践。街の木と自然を「都市森林」ととらえ、街の暮らしと共にある無理のない森の循環づくりを目指して取り組んでいる。 ウェブサイト:https://www.toshiringyou.com/


モデレータ
小松正幸(こまつ まさゆき)

株式会社ユニマットリック 代表取締役社長 / (一社)犬と住まいる協会理事長 / NPO法人ガーデンを考える会理事 / NPO法人 渋谷・青山景観整備機構理事 / (公社)日本エクステリア建設業協会顧問 / 1級造園施工管理技士
E&Gアカデミー(エクステリアデザイナー育成の専門校)代表。RIKミッション『人にみどりを、まちに彩を』の実現と「豊かな生活空間の創出」のために、エクステリア・ガーデン業界における課題解決を目指している。

モデレータ
三島由樹(みしま よしき)
株式会社フォルク 代表取締役 / ランドスケープ・デザイナー 
1979年 東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。ハーバード大学大学院デザインスクール・ランドスケープアーキテクチャー学科修了(MLA)。マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻助教の職を経て、2015年 株式会社フォルクを設立。 これまで、慶應義塾大学、芝浦工業大学、千葉大学、東京大学、日本女子大学、早稲田大学で非常勤講師を務める。登録ランドスケープアーキテクト(RLA)

(執筆:稲村行真)

アーカイブ動画について

▼今回のSGDトークの全ての内容は、以下のYoutube動画にてご覧いただけます。ご希望の方は以下よりご購入ください。

https://form.run/@SocialGreenDesign-archive


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