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【SGDトーク】 文化財庭園の活用(ゲスト:山田咲氏)<アーカイブ動画のみ有料>

文化財庭園の保存と活用、この二項対立のテーマをどう両立させるのか?そこには、造園業界にとっての革新的な取り組みがありました。今回のゲストは植彌加藤造園株式会社の山田咲(やまださき)氏。「SGD × コミュニティ(地域協働)」の3人目のゲストです。「文化財庭園の活用」と題して、2021年8月5日(木)に開催されたSGDトークの模様をお届けします。SOCIAL GREEN DESIGNや、SGDトークについて知りたい方は以下のURLからご覧ください。

当日の大まかなスケジュールは以下の流れで行われました。
第1部 19:00-19:20 SGDイントロダクション「SOCIAL GREEN DESIGNとは」
第2部 19:20-20:20 山田咲氏によるトーク「文化財庭園の活用 」
第3部 20:20-21:30 モデレータとのディスカッション
山田咲氏のトーク内容から振り返っていきます。


映画監督から転身!? 植彌加藤造園との出会い

山田さん:私が所属しているのは、1848年創業の植彌加藤造園(京都府)という企業です。寺社仏閣や別荘などの庭園管理や作庭、文化財庭園の保存修復、そして庭園のある施設の管理運営などの事業を行なっており、私は知財企画部というところに所属しています。

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山田さん:大学時代は美術史や映画制作を学び、その後は映画の監督や、映像作品のディレクションの仕事をしました。劇場の客席が、マスとして現す作品に対する鋭敏な反応に面白さを感じ、多様な方々に情報を伝えてより良い場をお互いに作っていく広報の仕事に興味を持ちました。他方で、空間表現には一貫して興味があり、2016年に植彌加藤造園に入りました。入社日が無鄰菴の指定管理者受注の初日で、そこから無鄰菴との関わりが始まりました。

▼無鄰菴のホームページはこちら。

仕事をする中で山田さんは、「関わる全ての人が公平で、主体性を持つ。そして、場は変化を前提に構成される」という場づくりの方向性をチームでつかんでいった一方、文化財庭園の保存と活用において新たな取り組みができるのではないかと考え始めました。

問題意識① 文化財は今の社会に対して批評的な存在

山田さん:文化財はタイムカプセルのようなもので、それが作られた時代の社会構造や人の感性などが冷凍保存されていると考えています。この冷凍保存されたものは、基本的には今の社会にはもうありません。ないから保存されているわけですから。ということは、現代社会にとって、文化財はアナクロな存在として批評性を持っていると言えます。この批評性、つまり我々はいったい今何をしていてどういう社会に住んでいるのか、という事を客観的に考えさせてくれるありようを、いかに機能させていけるのか、と考えました。

問題意識② 安易な地域アイデンティティの醸成は危険

山田さん:安易な地域アイデンティティの醸成は危険です。「わが町の大事な文化財」と考えることは隣町との境界線を作ることにもなりがちです。開けた場としてシェアしていくことを考えていかねばなりません。保存するのは大事ですが、一方で活用しないと運営は成り立たないので、これをどう両立させるのかが重要です。そのために、最も重要なことが「リピーター」になっていただくことです。一度訪れて忘れ去ってしまうのではなく、文化財としての唯一無二の価値を分かったうえで、より深く知るために何度も訪れていただくための仕掛けを考えました。そして、何度も行きたくなるために、4つの運営上のポイントを意識しながら運営してきました。

庭園に「行きたくなってもらう」ための<④つのポイント>

無鄰菴の運営チームは、近隣の南禅寺や平安神宮に比べて認知度が低い無鄰菴の保存と活用のため、まずは「行きたくなってもらう」という目標を設定し、場所としての価値を深く伝えリピーターを育むため、以下の4つに取り組みました。その結果、入場者25%増・年間7万人達成、8%のリピーター増、地域の通う人の創出などの効果が上がったそうです。

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①価値の言語化

山田さん:まずは価値の言語化です。スタッフからお客様にご説明するときは、統一された言葉で文化財の価値を伝える必要があります。そこにしか無いものや変わらないものを言語化していくのです。例えば、無鄰菴の場合、文化財の指定理由には何が書かれているの?というところを調べます。そうすると、借景である東山と庭園内の連続性、躍動的な琵琶湖疎水の流れ、明るい芝生の空間という大きく3つのポイントが浮かび上がります。ある程度、語る言葉の統一が出来てからそこからはガイドが自分の言葉も交えながら語っていきます。

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②ぶれないサービスと広報の実施

山田さん:言語化した価値と密接なサービスを提供することで、保存に貢献する活用への第一歩を踏み出すことができます。場所貸しとして、文化財の価値に直接的に関係のない、いわばどこでやっても良い内容のサービスを提供するよりも、時間も手間もかかることですが、長期的にみると高収益で持続性のある運営が可能になります。かつての施主である山縣有朋の使った茶室を利用した茶会、庭園の季節の移り変わりに応じた演目を選んだ庭園内での能楽の実演、職人による空間構成を学びともに技術を実習する連続庭園講座などを通じて、庭の景色を味わったり庭に自ら関わってもらったりしています。また、広報においてはオンラインを通じた広報を特に重視しています。初回来場者の方に、庭園の魅力や活動を伝える公式SNSや、メルマガの受信者になっていただくことは、その後の再来場につながる大きなステップとなります。

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③正確なアンケート実施の成果例

山田さん:来場者には対面で、潜在来場者にはオンラインで、アンケートを取って毎日確認して分析します。最初は来場者の年齢にばらつきがありましたが、少なかった若年層向けに企画を実施することでそれを解消することができました。現段階で高価格帯の消費が期待しにくい若年層にも無鄰菴の文化財としての価値が伝わった結果、長時間の滞在希望が増え、楽しみが伝わって、カフェ利用が伸びて客単価が200円程度アップするなどの効果もありました。要するに、中長期的に顧客情報を把握し、推移に応じた対応をとるという基本的なマーケティングを無鄰菴でも行っています。

▼アンケートの取り方の詳細は植彌加藤造園が運営している『ヘリテージデザイン』公式noteをご参照ください。

④適切な体制づくり

山田さん:組織内部では、活用(企画広報部)と保存(施設運営部)で担当者を分けて、対等にやり取りすることでオペレーションの問題を解決し、できることの幅を広げます。また「フォスタリング・フェローズ」という制度を創り、外部から市民(フェローさん)が関わってもらい、運営に意見を示唆する第三の存在になっていただいてます。フェローさんは現在79名おり、研修を受けて文化財に関する学びを深め運営にも関わっていただきます。フェローズ制度により、場の雰囲気に多様性が生まれ「自分はここにいて良いんだ」と思える場所、通いたくなる自分の場所になってきました。

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山田さんはこれらを通じて運営体制の構築ができつつある今、人材育成や評価の基準づくり、庭園の文化を通じて地球環境に貢献するとともに警鐘を鳴らすような活動や市民の意思を資金の流れと結びつける寄付制度についても模索しているようです。

デスカッション① 今に至るまでの紆余曲折

山田さんのお話の後、エクステリアがご専門の小松正幸さん(株式会社 ユニマットリック)とランドスケープデザイナーの三島由樹さん(株式会社 フォルク)を交えたディスカッションが行われました。お2人はSOCIAL GREEN DESIGN 協会の理事でもあります。

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小松さん:お話、とても感動しました...!山田さんの活動は非常に科学的で戦略的ですね。山田さんは、価値の言語化によるブランドづくりを行い、マーケティングによってPDCAを回し、ぶれないサービスづくりと仕組み化を行い、積み上がっていくファンづくりをされていると思いました。造園業界では、山田さんの様な方は少ないと思います。今に至るまでの紆余曲折、悩み、課題などについて伺いたいです。

山田さん:植彌加藤造園の文化や組織のあり方について、ブランドの歴史の長さゆえに、それを理解するのに時間がかかりました。(請負で設計図通りにやるのではなく)御用達文化を根っこに持った造園企業なので、お施主様によって、ご提供する技術や方法を適応させて変化させます。それは、お施主様の文化をともに育ませていただくという、創造的な行為だと捉えました。私たちだったら何ができるのか?を、想像すること。これが植彌加藤造園のブランドの根底にあると考えました。

デスカッション② 目標とする道のどの辺り?

三島さん:保存と活用をいかに両立させるかはとても重要ですね。特に感動したのが批評性のお話で、何の批評なのかを考えていた時に、最後に地球環境のお話をされていました。日本庭園という文化財が、グリーンインフラとして学ぶべき存在なのではないかと想像しながら聞いていました。お伺いしたいのが、フェローさんも増え活動が充実してきていると思いますが、今山田さんにとって目標とする道のりのどの辺りなのかな?ということです。

山田さん:1日のうち3人フェローさんがいる時が一番バランスが良いと思っているので、(現在は79名ですが)登録フェローさんを250人くらいまで増やしたいです。何をしているかというより運営者以外で関わってくれる人がいることが大事で、場の空気にお客さんも混じり込んでいく空気感ができていくと良いと思います。

視聴者からの質問

視聴者①:誰にでも開かれた場を作るために、気をつけていることはありますか?

山田さん:文化財に関して、作られた時のことを100%正確に語れる人は、いません。ですから常に研究の対象になります。したがって文化財の価値に肉薄していく場合、どんな人でも平等です。フェローさんには自分からよく話しかけることを意識しています。

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視聴者②:自主事業の企画(庭のお手入れ教室など)は主に誰が担っているのでしょうか?庭の価値観を言語化し共有された上で、それが企画にどう繋がるのか興味があります。

山田さん:私が企画を担っているのですが、施設発案で生まれる企画もあります。また、限定茶菓子はカフェ運営スタッフの目線で生まれました。あらかじめ伝えるべき文化財とは何か?を共有しているから、そのうえでさらに知っていることを伝えたいという発想も自然に出てきます。

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視聴者③:保存と活用の対立がある中、公共空間で関わるアクターが増えた時にいかに融和しうるでしょうか?

山田さん:指定管理者制度だと運営者に委ねられている側面もありますが、条例などの限界は越えていけないところもあります。利用者側が理不尽に感じてしまうときもあり、例えば「年パスを作ってほしい」という声があったのですが、年度を超えた収支計算は市からは認められず実現が難しいということもありました。また、入場料設定は条例で一定額に定められていますが、それを季節や時間帯、年齢などによって変えていけば、お互い収益は上がります。そういう意味で、現場の目を、より信頼して任せる範囲を増やしていただければ、所有者も運営者もより良い活用に向かって行けると考えています。

文化財庭園の活用に関して、新しい挑戦を続けてきた山田さん。今回は、貴重なお話を本当にありがとうございました!

【SGDトーク】SGD×コミュニティ#03 まとめ

・文化財庭園は過去を今に伝える点で批評的な存在になり得るし、安易な地域アイデンティティの醸成は危険で場を閉じてしまいがち。
・文化財庭園に「行きたくなってもらう」には、価値の言語化ぶれないサービスと広報正確なアンケート実施適切な体制づくりなどが必要。
・今後は文化財庭園の活用について共通理解の醸成地球環境への貢献に興味。

【SGDトーク】 SGD×コミュニティ#03 プロフィール

ゲスト

山田咲(やまだ さき)
植彌加藤造園株式会社広報 / 慶應義塾大学文学部哲学科卒業、東京藝術大学大学院映像研究科修了。京都の植彌加藤造園株式会社にて知財企画部長を努める。国指定名勝無鄰菴をはじめ、世界遺産高山寺、大阪市指定名勝慶沢園などで、研究成果に基づいた文化財庭園の活用モデルを推進。”文化財の価値創造型運営サービス”で2020年度グッドデザイン賞受賞。舞台芸術作品制作などにも関わり続け、領域を横断した活動を続けている。

モデレータ

小松正幸(こまつ まさゆき)
株式会社ユニマットリック 代表取締役社長 / (一社)犬と住まいる協会理事長 / NPO法人ガーデンを考える会理事 / NPO法人 渋谷・青山景観整備機構理事 / (公社)日本エクステリア建設業協会顧問 / 
E&Gアカデミー(エクステリアデザイナー育成の専門校)代表 / 1級造園施工管理技士
RIKミッション『人にみどりを、まちに彩りを』の実現と「豊かな生活空間の創出」のために、エクステリア・ガーデン業界における課題解決を目指している。

モデレータ

三島由樹(みしま よしき)

株式会社フォルク 代表取締役 / ランドスケープ・デザイナー 
1979年 東京生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。ハーバード大学大学院デザインスクール・ランドスケープアーキテクチャー学科修了(MLA)。マイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ・アソシエーツ(MVVA)ニューヨークオフィス、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻助教の職を経て、2015年 株式会社フォルクを設立。 これまで、慶應義塾大学、芝浦工業大学、千葉大学、東京大学、日本女子大学、早稲田大学で非常勤講師を務める。登録ランドスケープアーキテクト(RLA)

(執筆:稲村行真)

<有料>アーカイブ動画について

▼今回のSGDトークの全ての内容は、以下のYoutube動画にてご覧いただけます。ご希望の方は以下よりご購入ください。

https://form.run/@SocialGreenDesign-archive




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