見切り発車

何も感じない暗闇。いや、何も無いことを感じているのか?
手足がビリビリと痺れるような感覚と浮遊感。とりあえず何回目だ。もうそろそろ慣れてきたぞ、これは夢だ。そう、夢。
何度も見たはずだけど、最初はなんとも言い難い恐怖に支配される。そして無を感じる。無がそこに有るという確かな実感を得る。そしてしばらくして、無から開放される。その時目の前に星が見える。

♪〜♬︎
じいちゃんの起動音で目を覚ます。じいちゃんも結構ガタがきてるみたいだ。起動音から数分は全く動かない。
「そろそろ新しいのにしないとなぁ」
そう呟きながら、朝食の準備にとりかかる。準備とは言っても安いパンを焼いて安いハムを乗せるだけ。
最後にこのケチャップソーサーで仕上げ。
ポチッ
ブボボッボフッ…バッ…
「はぁ…まだまだ調節が必要だな」
どうやら適量を図るセンサーと容器の間に問題があるようだ。
キュイーン…フォンフォンフォン
「おはよう、坊っちゃん。いい朝ですね」
「全然良くないよ、TOKYOはここ2週間ずっと曇りさ」
「そうですか。ここ20年外には出てないもので。」
モニターのじいちゃんの顔が少し悲しそうだ
「そろそろ新調しないとね、じいちゃんも外に出れるようにならないと…」
「本当ですか!それは嬉しいですね!やっぱり今日はいい朝です!」♪〜♬︎
陽気な音楽と共にじいちゃんの機嫌が治る。
「でも、部品(パーツ)はどうするんです?」
「ああ、それなら今日ちょうどタベサンのとこに行こうと思ってたんだ。あそこなら何か見つかるよ。」
「そうですか、気をつけてくださいね。最近物騒な事件も起きてる様ですし」
「物騒な事件?」
「はい、こちらです」
カチャン…ブォーン…
じいちゃんの顔がニューヤパの衛星放送に切り替わる
女性型のアンドロイドが涼やかな声でニュースを知らせていた

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