★劇評★【舞台=赤道の下のマクベス(2018)】

 第二次世界大戦後のBC級戦犯裁判については、3月7日に当ブログで劇評を掲載した舞台「神と人とのあいだ 審判」と舞台「神と人とのあいだ 夏・南方のローマンス」を合体させた劇評でも詳しく述べてきたが、戦勝国の独壇場とは言えそれなりに国際社会が議論を展開した極東国際軍事裁判(東京裁判)とは違い、ずさんな調査や貧弱な弁護態勢、指揮系統への無理解などで多くの冤罪を生み、実際の犯罪的行為と比べると重すぎる刑を受ける例が頻出したのがBC級戦犯裁判である。新国立劇場で「焼肉ドラゴン」など昭和の日本、そして朝鮮を深く考察する名作戯曲を3本発表してきた劇作家・演出家の鄭義信(チョンウィシン)が4作目として創り上げたのは、そのBC級戦犯裁判で死刑が確定した死刑囚らが処刑の前の一定の時期を過ごすシンガポールのチャンギ刑務所を舞台にした「赤道の下のマクベス」だ。そこにはあきらめと、かすかな希望、そして強制労働や暴力などの捕虜虐待という処刑の理由がみんな上官の命令でやむなく犯した罪であったことへの激しい憤りが渦巻き、まさしく人生の吹き溜まりへと行き着いた男たちの悲哀が凝縮されて漂う場所のすさまじさと崇高さが、私たちの心を締め付ける作品になった。彼らの中には軍属として日本軍に徴用された朝鮮人や台湾人も少なくなく、鄭はその運命の不条理と日本軍の欺瞞に鋭い切っ先を突きつけている。演出も鄭義信。
 舞台「赤道の下のマクベス」は3月6~25日に東京・初台の新国立劇場小劇場で、4月5~6日に兵庫県西宮市の兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで、4月11日に愛知県豊橋市の穂の国とよはし芸術劇場PLAT主ホールで、4月15日に北九州市の北九州芸術劇場中劇場で上演された。

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