★劇評★【ミュージカル=マディソン郡の橋(2018)】

 歳を重ねて着実に身につくものは人を見る目である。それは男女の間であっても変わりはない。若い時こそ「運命の人だ」と思うことは多いのだが、それは感覚の表面的な部分、つまり皮膚感覚での判断。歳をとっても「この人は運命の人かもしれない」と思うことはあるが、それは若い時と違って、体の最も深いところで感じる感覚だ。性的なことを言っているのではない。歳を重ねてから出会う運命の人は本物であることが多いと言っているのだ。世界的なベストセラー小説をもとにしてクリント・イーストウッド監督が1995年に公開した映画『マディソン郡の橋』をもとに2013年に初演され、翌年にはブロードウェイ進出を果たしたミュージカル「マディソン郡の橋」が日本のミュージカル界を長年支えてきた山口祐一郎と涼風真世という魅力的なコンビで日本初演された。たった4日間のうちに燃え上がった「許されぬ恋」は互いが感じた真実への確信によって強いきずなを生み出し、永遠の思いへとつながっていく。小説でも、映画でも、この作品が人気を得るたんびに「単なる不倫物語」と切って捨てる意見が出たものだが、演劇、そしてミュージカルという情緒的な表現方法で描かれた「マディソン郡の橋」の物語はとりわけ格別な深みがあり、2人の一番深いところで結びついた心の真実を最も鮮やかに見せてくれるものになった。演出は荻田浩一。
 ミュージカル「マディソン郡の橋」は2月24~26日に東京・北千住のシアター1010で、3月2~21日に東京・日比谷のシアタークリエで、3月28日~4月1日に大阪市の梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演された。公演はすべて終了しています。

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