★劇評★【ミュージカル=ジキル&ハイド(2018)】

 石丸幹二ほど苦悩の表現に秀でたミュージカル俳優はいないだろう。主人公に相応しい頼りがいのある「光」を感じさせる役柄を見事に描き出す一方で、大きな闇を抱えたキャラクターや、運命の糸に絡み取られていく哀しみや切なさを抱えた人物を数多く演じ、そのたびに絶賛を浴びてきた。昨年も「パレード」などの演技で権威ある「ミュージカル・ベストテン2017」男優部門の第1位を獲得するなど、表現力の冴えは年々増していると言っていい。そんな石丸の光と闇の演技が最も象徴的に味わえるのが、ミュージカル「ジキル&ハイド」だ。単なる善悪の境を飛び越えた容赦ない物語の展開と、絡み合う人物造型の目を見張る鮮やかさの中で、もがき、苦しみ、出口を求めて走り出そうとすればするほどますます闇の中に引きずり込まれていく主人公の2つの人格を、単に演じ分けるのではなく、激しく融合し、激しく反発し合うもの同士として描き出し、最高レベルのエンターテインメントとして具現化することに成功している。今回は娼婦のルーシーを笹本玲奈が、婚約者のエマを宮澤エマが演じるという、ミュージカルファンなら大いに興味をひかれる魅力的なキャスティングもあり、見どころが満載の作品になった。演出は山田和也。
 ミュージカル「ジキル&ハイド」は3月3~18日に東京・有楽町の東京国際フォーラムホールCで、3月24~25日に名古屋市の愛知県芸術劇場大ホールで、3月30日~4月1日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで上演された。

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