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複雑に組み合わされたその運命から聞こえてくるのは、極めてシンプルなもの…★劇評★【ミュージカル=レ・ミゼラブル(吉原光夫・伊礼彼方・濱田めぐみ・唯月ふうか・三浦宏規・生田絵梨花・斎藤司・森公美子・相葉裕樹出演回)(2019)】

 運命という言葉があるが、ある一人の人間のことだけを考えるのであれば、それは大いなるうねりを持ったひとつの物語だ。しかしある瞬間に同時に生きている人すべての運命がジグソーパズルのようにぴたりとはまっているのだということを考えると、物語などという暢気なことを言っていられなくなるほど、事は壮大で重大だ。私は神を信じないし、せいぜい「(科学的な)宇宙の論理」を信じる程度だが、19世紀の最重要な小説家、ヴィクトル・ユゴーは、欧米人やキリスト教徒が言うところのそうした「神の摂理(あるいは論理)」をジグソーパズルの隅々に至るまで行き渡らせることのできた稀有な表現者だったのだと思わざるを得ない。そして、複雑に組み合わされたその運命から聞こえてくるのは、極めてシンプルなもの。世界的な大ヒットミュージカルとなった「レ・ミゼラブル」はそのユゴーの才能が最も発揮された作品である。1987年の日本初演から30周年という記念の年に上演された前回の2017年公演に続く今回2019年公演は、さらに厳しいオーディションで選び抜かれた精鋭が結集。新たな人物像を探り出そうと意欲的なキャスティングが目立つ公演となっており、制作陣の期待に応えようとする出演者たちの表現力も半端ないものになっている。今や日本人キャスト版「レ・ミゼラブル」の屋台骨となった吉原光夫を中心にして、近年の作品で悪ぶった表皮の中に人間的な弱さや心根の優しさを忍ばせる役柄を磨き上げてきた伊礼彼方、可憐さの中に強い意志を潜ませる高等テクニックも身に付け著しい成長が見られる生田絵梨花らを擁して常に今の時点での「レ・ミゼラブル」の最高到達点を目指そうという意欲に満ちた組み合わせが実現している。そこに圧倒的な歌唱力でファンテーヌの神聖性を表現する濱田めぐみやお笑い界屈指の表現者として名をはせる斎藤司ら新規参加組も躍動し、さらなる高みへと向かおうとしている様子は、長年のファンにとっても頼もしさを感じさせてくれる。(写真はミュージカル「レ・ミゼラブル」とは関係ありません)
 ミュージカル「レ・ミゼラブル」は4月15日~5月28日に東京・丸の内の帝国劇場で、6月7~25日に名古屋市の御園座で、7月3~20日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで、7月29日~8月26日に福岡市の博多座で、9月10~17日に札幌市の札幌文化芸術劇場hitaruで上演される。

 なお、本作はほとんどの主要な役柄がトリプルキャスト(4人もあり)であるため、さまざまな組み合わせが組まれていますが、取材機会の関係で劇評を掲載するのは、「レ・ミゼラブル(吉原光夫・伊礼彼方・濱田めぐみ・唯月ふうか・三浦宏規・生田絵梨花・斎藤司・森公美子・相葉裕樹出演回)」と「レ・ミゼラブル(佐藤隆紀・上原理生・知念里奈・屋比久知奈・海宝直人・熊谷彩春・駒田一・朴璐美・小野田龍之介出演回)」に限らせていただきます。ご了承ください。
 「レ・ミゼラブル(佐藤隆紀・上原理生・知念里奈・屋比久知奈・海宝直人・熊谷彩春・駒田一・朴璐美・小野田龍之介出演回)」の劇評も既に当ブログに掲載しております。あわせてお楽しみください。

★ミュージカル「レ・ミゼラブル」公式サイト

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