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華麗で壮絶な人生への痛切なレクイエム…★劇評★【ミュージカル=マリー・アントワネット(花總まり・田代万里生・昆夏美・佐藤隆紀出演回)(2018)】

 どれだけ悪評が残っている人物でも、それが真実のすべてとは限らない。さまざまな観点から彼ら、彼女らを見ていくことは歴史的な人物を理解するためにはとても大切なことだろう。悪魔的な所業をしたわけではないのに、ぜいたくという一点において市民や庶民の怒りを買ってしまったマリー・アントワネットもまたさまざまな誤解の上で私たちが理解していることもあるだろう。今で言う世論操作やフェイクニュースの存在があったと考えてもおかしくない。「エリザベート」「モーツァルト!」などのミュージカルを東宝と共に日本に根付かせてきた黄金コンビ、ミヒャエル・クンツェとシルヴェスター・リーヴァイが東宝とタッグを組んで2006年に世界初演を東京の帝劇で上演したミュージカル「マリー・アントワネット」はその点、史実の上にさまざまなアプローチで組み立てた物語を付与することによって、マリー・アントワネットの実像に近いもの、その心情に限りなく寄り添ったものを描き出すことに成功している。この挑戦的な作品が、12年の間に、ヨーロッパや韓国でさらなる発展と成長を遂げ、新演出版ミュージカル「マリー・アントワネット」として、世界初演の地、帝国劇場に帰って来た。再演というよりも、再びの初演にも近いこの公演には、花總まり、笹本玲奈、昆夏美、ソニン、古川雄大、田代万里生、吉原光夫ら、日本のミュージカル界で実力派として確固たる地位を築くトップ俳優の集結が実現。壮大な歴史ドラマをただ単に「面」として描くのではなく、歴史上の人物から名もなき市民に至るまで個々の心情や感情が織りなす細い糸が互いに絡み合って歴史の大きな幹を作るという、一見当たり前のようでいて、その表現の実現にはとてつもなく困難が伴うアプローチによって描き出さなくてはならないために、実力派の招集は絶対条件だったのだろう。クンツェとリーヴァイの楽曲もこれまでに生み出した他の作品での楽曲以上に運命論的で、マリー・アントワネットの華麗で壮絶な人生への痛切なレクイエムとなっている。演出はロバート・ヨハンソン。
 ミュージカル「マリー・アントワネット」は、10月8日~11月25日に東京・丸の内の帝国劇場で、12月10~24日に名古屋市の御園座で、来年2019年1月1~15日に大阪市の梅田芸術劇場メインホールで上演される。これらに先立ち9月14~30日に福岡市の博多座で上演された福岡公演はすべて終了しています。

★ミュージカル「マリー・アントワネット」公式サイト

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