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複雑に入り組んだ私たちの心の迷路を優しく解きほぐしてくれるような作品…★劇評★【舞台=神の子どもたちはみな踊る after the quake(2019)】

 地震は発生の瞬間のあの振動がもっとも恐ろしいものではあるが、揺れが落ち着いてから心の中で広がっていく振動(震動)もまたわたしたちの心を不安定に揺り動かすものだ。言葉にできないような不安、正体の見えないものに対する怯え。それは実際に揺れを経験したり被災したりした人だけでなく、その地震を遠くで見聞きした人の心の中にも広がっていく衝撃波だ。阪神・淡路大震災の際に故郷神戸の崩壊を米国で目の当たりにした村上春樹がその後その得体のしれない不安とその先にあるものを小説のかたちで記した連作短編小説集「神の子どもたちはみな踊る」のうち2編を組み合わせた物語がいま、舞台作品として上演されている。映画『偶然の旅行者』の脚本家で、村上作品「海辺のカフカ」を舞台化した演出家としても知られるフランク・ギャラティ(Frank Galati)が米国で上演した脚本を日本の演劇界で稀有な才能を持つ劇作家・演出家、倉持裕が演出。現代の生活者としての清冽なたたずまいの中に、繊細な演技センスを秘める若手の注目株、古川雄輝・松井玲奈を中心に、ファンタジーと現実の間を自由に行き来できる浮遊感で「海辺のカフカ」でも欠かせない存在となった木場勝己らを配した絶妙のキャスティングで、村上作品が鋭く描き出す現代人の不安の正体を描くこの舞台。すべてを乗り越えた先の希望のようなものもしっかりと感じさせながら、複雑に入り組んだ私たちの心の迷路を優しく解きほぐしてくれるような作品に仕上がっている。(写真は舞台「神の子どもたちはみな踊る after the quake」とは関係ありません)
 舞台「神の子どもたちはみな踊る after the quake」は7月31日~8月16日に東京・大手町のよみうり大手町ホールで、8月21~22日に愛知県東海市の東海市芸術劇場大ホールで、8月31日~9月1日に神戸市の神戸文化ホール大ホールで上演される。

舞台写真はこのサイトではなく、阪清和のエンタメ批評&応援ブログ「SEVEN HEARTS」でのみ掲載しています。舞台写真をご覧になりたい方は下記のリンクでブログに飛んでください。
★「SEVEN HEARTS」の「神の子どもたちはみな踊る  after the quake」劇評ページ

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★舞台「神の子どもたちはみな踊る  after the quake」公式サイト

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